霧を歩く
僕達は霧の中をずっと歩いていた。何を求めて歩いているのかも分からず、ただ彷徨っていた。行きたい方向があったのかも分からない。それでも何となく、こっちが良いかな?って方向に進んでいた。
途中で霧の中からぬっと現れた人が、僕達と一緒に歩く事になった。そういう人は一人や二人じゃなく、いいよいいよと言っているうちに、一緒に歩く人数が多くなった。
そのままでは歩きづらいので、一列に並んで一緒に歩く事にした。一応先導は僕と君で、なんとなくこっちに行った方がいいな、とは決めていたけど、それが合ってるのかどうかも分からなかった。
僕達は霧の中をずっと歩いていた。沼に足を取られた人がいたので、皆んなで引っ張り上げて助けたり、食べ物担当、火起こし担当などを決めて一日を凌いだりした。
やがて、人の出入りが激しくなった。霧の中に消えていく人、霧の中から仲間に加わる人、沢山いたけど、誰もが霧の中で何かを探している人だった。
ある時、僕は歩みを止めた。そして君に打ち明けた。「僕は霧の中を一人で歩いてみたい。君に皆んなを任せてもいいだろうか。」君は黙って頷いてくれた。
ありがとう、またね。そう言って僕は皆んなから遠ざかっていく。僕に手を振りかえしてくれる皆んなが、とても誇らしく思えた。
僕は霧の中をずっと歩いている。希望と現実が入り混じったモザイクのような物が、心に巣食っている。それでも足を止めるという選択肢は無い。
だから、よく分からない感情のまま、ただひたすらに、今も歩き続けている。