たいむとらべる
とある目的を果たす為に左回りの時計が必要だったのだが、それは世界各地からごっそりと売り切れてしまっていたので、僕は仕方なく代わりのタイムマシンを作る事にした。
豆腐の角を少しくり抜いて、タンザナイトの粉末を振りかける。牛の革でそれらを擦り合わせて、その革とiPhone■■の中の基盤を適当なコードで繋ぐ。これを2セット用意する。
最後に蛍光灯の両端に1セットずつ、牛の革を押し付けると蛍光灯が光るので、その光を浴びれば私の時間が逆行するようになる。そういう物だった。どうにもつまらない品物だし、過去に戻るにはそれなりの時間がかかる方法だったけど、これくらいしか思いつかなかったので仕方ない。
5万円弱と12時間程度で出来上がったので、さっさとトラベルを始めることにした。
ぴか。ぶうん。
世界光ったので、物事が結果から原因へ流れるようになった。無限の可能性から1へ向けて自然と組み上がるようになったし、理解する事と組み上げる事の価値が逆転した。
まぁそんな大それた哲学的な事は体感出来ないけど、外に出て街を歩いてみると、人がムーンウォークしていたり、葉っぱが浮いて枝にくっついたり、僕が思うと椅子が飛んできたりしたので、成功はしてるんだろうなと思った。
そんな世界だから、今度は右回りの時計がどこのデパートにも売っていない。「これは右回りの時計信者が怒るなぁ」とか思った。
僕はコーヒーを無限の可能性の内から選んで、アルミ缶に吐き戻した。そして缶に封をした後で自販機の取り出し口に置いておく。
そうやって決定論の水の中を流れに乗って泳いでいる。後は流されながら50年前まで待つだけだった。
食べたかったホテルショコラの、期間限定チョコレートを時間の旅の先で得るまで、自分はただ時間を逆向きに泳ぐ魚なのだ。