番外編② 地域ブランディング成功事例 復活の奇跡「今治タオル」
ZeBrandでは、すべての人がブランディングを身近に感じられ、自分らしさを自由に表現し、お互いを認め合える世界を作ることを目指しています。これまで、成功企業のブランディング事例についていくつか取り扱ってきましたが、ブランディングが力を発揮する場所は、企業だけにとどまりません。
「地域ブランディング」「まちづくり」といった言葉を耳にしたことがあるのではないでしょうか?昨今では一昔前より「地域」のブランド化が進んでいます。例えば、愛知県今治市といえば「今治タオル」、熊本県といえば「くまモン」、多くの人にその地域を連想させるものがあるということは、地域ブランディングが成功していると言えるのではないでしょうか。
一方で、すべてのプロジェクトがうまくいっているわけではなく、様々な失敗談があるのも事実です。本記事では、地域ブランディングの成功事例をご紹介していき、その成功の理由を探っていきたいと思います。
今回は、今治タオルとしてブランドを確立させることに成功した愛媛県今治市の事例に着目していきます。
今治タオルとは?
今治タオルは四国愛媛県北部の地で、百十余年の歴史を刻みつづけてきました。 今治は蒼社川の伏流水など、晒しや染めに適した良質の軟水が豊富にあります。この水を用いて晒しを行うことで、繊維にやさしい仕上がりとなり、繊細かつ柔らかな風合いや鮮やかな色が表現できます。絶えることのない清らかな水が今治のタオルづくりと品質を支えています。贈り物や引き出物などで利用されることの多い素敵な製品です。
今治タオルの歴史
今治は昔から綿織物が盛んな地域で、伊予綿ネルと呼ばれる綿織物を製造していた阿部平助が、1894年(明治27年)にタオルの製造を始めたのが、今治タオルの歴史の始まりと言われています。今治タオルの生産のピークはバブル期にあり、そのころは国内のタオルマーケットのなかで大きなシェアを持っていました。しかし、中国やベトナムからの安いタオルが大量輸入されるようになり、今治タオルの生産量は激減し(600社近くあったタオルメーカーが100社に)、産地消滅の危機に追い込まれていました。
今治タオル再生のきっかけ
そんな今治タオルが現在のブランドイメージを構築し、高品質タオルとしての地位を獲得するまでの経緯とはどのようなものだったのでしょうか。そこには、今治タオルを守りたいという生産者や今治タオルに関わる方々の強い想いと、巧みなブランド戦略がありました。
実際に何を行ったか (Define/Design)
Define:今治タオルの良さとは?佐藤可士和による再発見
今治タオルのブランド化を図るため、四国タオル工業組合が依頼をしたのは、ユニクロや楽天など、様々な企業のブランドを手掛けるクリエイティブディレクター佐藤可士和氏でした。佐藤氏は、地域ブランディングをすることが初めてであったことに加え、以下の2つの理由でこのプロジェクトに大きな不安を抱えていました。
大手企業に比べてブランディングに投資できる予算が桁違いに少なかったこと
このプロジェクトの依頼主が、オーナー企業といったシンプルな形ではなく、今治商工会議所、今治市、四国タオル工業組合の3社で、主体となるのが100社以上のメーカーを束ねている四国工業組合であるといった複雑さがあったこと
彼がプロジェクトに本腰を入れるきっかけとなったのは、実際に今治タオルを使用した経験でした。依頼主にプレゼントされたタオルを使用したとき、その肌触りや吸水力に感動し、これほど強力なコンテンツがありながら多くの人にその良さが伝わっていないことをもったいないと感じ、できることをやってみようという思いになったそうです。
そこで彼は、今治タオルをグローバルブランドとして打ち出すことができないかと模索しました。つまり、フランスのシャンパンの生産地シャンパーニュのように、今治を今治タオルの生産地として確立させようとしたのです。
Design:差別化するための再設定
佐藤氏は初めて使用した今治タオルに感動した一方で、このタオルが、どこで作られているのかわからない点に気付きました。つまり、タオルを使用して、「すごい!」と感じた人がいてもそのタオルが今治産なのか、中国産なのか区別がつかなかったのです。そこで、まず始めに他のタオルと差別化することを行いました。
ロゴの作成
誰が見てもわかるようなロゴとして、シンプルかつ象徴的なロゴを作成しました。赤、青、白の3色を基調に、赤は「昇りゆく太陽」と「産業の活力」、青は「波光煌めく海」と「豊かな水」、白は「空に浮かぶ雲」と「タオルのやさしさと清潔感」を表わしています。このロゴマークに行き着くまでに佐藤氏は約3ヶ月を要し、300以上の案を考えたそうです。そして、このロゴを、組合で独自に設定した品質基準をクリアした今治タオルだけにつけることにしました。つまり、厳格な基準をクリアしたギャランティーのマークとしてロゴを運用することにしたのです。
この今治タオルの品質基準はとても厳しいものだそうです。例えば、吸水性試験では1リットルの水が入ったビーカーの上に、1cm四方のタオルを浮かべ、5秒以内に沈み始めたら合格というものがあり、これは「5秒ルール」として知られています。白いタオル
佐藤氏は今治タオルのコアプロダクトを「白いタオル」とすることを主張しました。白いタオルには、お年賀や開店祝いでタダで大量に配られる安物のタオルの代表格といったイメージが持たれていたことや、当時の今治タオルは高度な技術のジャガード織りで作られた、非常に繊細な柄を売りにしていたことから、白いタオルを作ることに多くの組合員は拒否反応を示しました。しかし、佐藤氏は、「水の品質を伝えるのに、いきなり珈琲を淹れて出しますか?炊き立てのごはんの美味しさを伝えるのにカレーをかける必要がありますか?タオルも同じで、ベースとなる品質を伝えるのに色や柄はいらない。今治タオルの素晴らしさを、余計な要素を加えず伝えるには「白」しかないんです。」と説明し、「最高級の白いタオル」を各メーカーに作ってもらいました。単に白と言っても、各メーカーごとに折り方や素材が違うため、それぞれのメーカーの良さを引き出し、素晴らしい品質感を消費者に伝えることができました。
現在行っている今治タオルの活動(Deliver)
今治タオルのブランドを維持のために
今治タオル工業組合は今治市とタッグを組み、今治タオルを作るのに必要になる、川や森林を健全な状態に保ち、豊かな郷土づくりを行う活動を行なっています。具体的には、プロによる森林整備事業や組合員及びその家族によるボランティア活動がされています。「今治タオルの水と森」といったイベントでは、今治市の市有林である玉川町の森を整備し、森林づくりをしていこうという活動が企画されました。森林探索、森整備体験、規格外の食材や地産品をアップサイクルした郷土料理のピクニックランチ、クラフト体験などを組合員の家族数組で行うような素敵なイベントも開催されました。
他にも、「今治タオルLAB」という、今治市で、今治タオルについて体験しながら学習することのできる場所があります。本記事で紹介した「5秒ルール」を体験することができたり、今治タオル工業組合が主催して、1年に1度開催されているタオルソムリエの問題を実際に解いてみることができたりします。
また、「今治タオル」がマスターブランドとして確立された現在、次に目指すフェーズは、タオルメーカー各社の個性を際立たせていくことです。2006年から今治タオルというマスターブランドを確立させるまで10年かかったのと同様に、今治タオルのそれぞれのブランドが個性を出して、競合する関係になるまでまた、10年かかると言われています。
今治タオルを超えて〜今治市のシティブランディング〜
佐藤氏を中心に、2018年からはシティブランディングとして今治市の都市ブランド構築が始まっています。今治市もほかの自治体同様に、若者が減っているという課題を持っています。就職先や、暮らしの拠点として若者に目を向けてもらえるように、今治市のシティブランディングキャンペーン「アイアイ今治キャンペーン」の構想と第一弾企画を発表しました。
キャッチコピーは”I’m into Imabari!”
「今治に夢中」「今治にハマっている」という意味合いで、とても明るくてポップな印象になります。ロゴも花火のように明るいロゴで、今治のコンテンツの個性の強さや楽しさに加え、今治に夢中な人同士の「共創」から生まれるひらめきをを表現しているそうです。
今治市のブランディングにおいても、「今治タオル」のブランディングプロジェクトでメインコンセプトとなっていた「共創」がポイントとなっているのにはワケがあります。今治市には、「今治タオル」や「瀬戸内しまなみ海道(サイクリストの聖地)」、「バリィさん(ゆるキャラグランプリ王者)」「今治焼豚卵飯(B級グルメ)」といった魅力的なコンテンツが沢山あるにもかかわらず、これらが一丸となっているイメージがありません。各々がそれぞれでPRを行っているため、地域のイメージアップとの結びつきが弱くなっているのです。この状況は、各社、高品質なタオルを売っているにもかかわらず、タオルの産地としての発信力がなく、売り上げが低迷していたころの今治タオルの状況と類似しています。そこで、今治タオルのブランディング戦略同様に、それぞれのコンテンツを一つのブランディングキャンペーンの元にまとめて発信することが重要だと考えられたのです。
今治タオル本店のバックヤードを全面改装した「imabari towel CAFÉ (今治タオルカフェ)」にJAおちいまばりの直営所「さいさいきて屋」や、今治の素材にこだわるデリカ「TORICO」、珈琲館「時計台」とコラボした限定メニューを提供し、皆で競争することで、それぞれのファン層の拡大を狙いました。
まとめ
本記事では、危機的状況にあった「今治タオル」がどのようにして再生していき、現在の強力なブランドとなったかについて探っていきました。今治タオルには、高品質なタオルを作っていながら、なかなか社会に対して伝わっていない状況がありました。この状況を転換した裏側には、第三者として今治タオルを実際に使ってみて、消費者目線で提案された佐藤可士和氏の活躍がありました。ブランディングをしている中で行き詰まったら、一度、プロの意見を参考にしてみるというのも良い方向に向かうきっかけになるかもしれません。
ZeBrandでは自らブランディングをしていくためのブランディングアセットを提供しています。そして、グローバルに活躍するブランディングコーチとのセッションを低価格で提供しています。そのため、身構えることなくブランドづくりに行き詰まったら気軽にコーチに相談できる点が魅力です。ZeBrandにご興味がございましたら、こちらから是非お問合せください。