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自己帰属感(身体所有感) 研究まとめ(ラバーハンドイリュージョン基礎編)

前回の記事で、Ghallagherが提唱した『sense of ownership(自己帰属感・身体所有感)』を紹介し、UIデザインになぜそれが必要なのかを解説しました。今回はsense of ownershipがどのような場面で起こるのか、それによってどんな体験が得られるのかを紹介します。

ちなみに
sense of ownershipが何か分からない方は、以下の記事で解説しています。

sense of ownershipを感じる条件

sense of ownershipを感じる方法として、主に2種類あります。

1. 触覚刺激を与える
2. 身体と動きを同期させる

この記事では「1. 触覚刺激を与える」の代表例とも言えるラバーハンドイリュージョンについて紹介します。

ラバーハンドイリュージョン

sense of ownershipの代表例として紹介されるのが、ラバーハンドイリュージョンです[1]。実験者はラバーハンド(ゴムでできた偽物の手)を用意し、本物の手を衝立で隠します。そして、ブラシでラバーハンドと本物の手を同時に撫でると、まるでラバーハンドが自分の身体の一部だと感じるようになります。

ちなみに偽物の手がゴム製である必要はありません。後述しますが、手の形であることが重要です。また、画像や映像で映し出された手でも同じような現象が起こることが分かっています。そのためVR体験への応用も期待されています。

また、ラバーハンドイリュージョンという名前から、「じゃあ手以外の部位で同じ現象は起きないのかよ」と思われそうですが、そんなことはありません。手以外にも[2]、[3-5]、さらには[6]でも同じ現象が起こることが分かっています(もちろん足の場合は偽物の足、顔の場合は偽物の顔に対してsense of ownershipを感じます)。

ラバーハンドイリュージョンを感じにくい条件

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ラバーハンドイリュージョンを引き起こすには、いくつか制約があることが分かっています。以下の条件のとき、ラバーハンドイリュージョンを感じにくくなると言われています。

1. 撫でるタイミングが違う
2. 手の向きが違う
3. 距離が離れている
4. ラバーハンドの見た目が違う

1. 撫でるタイミングが違う

ラバーハンドイリュージョンは、ラバーハンドと本物の手を同じリズム・タイミングで撫でると、ラバーハンドが身体の一部のように感じる現象です。ブラシを撫でるタイミングがバラバラだと、ラバーハンドを見ても「これは自分の身体じゃない!」と感じることが分かっています[1, 7]。

2. 手の向きが違う

ラバーハンドを本物の手と同じ向きに配置しないと、ラバーハンドイリュージョンが感じにくいことが分かっています。2004年にEhrssonらは、ラバーハンドの向きを本物の手に対して180°回転した状態で、2つの手をブラシで同時に撫でました[8]。その結果、実験参加者はラバーハンドイリュージョンを感じにくいことが明らかになりました。また、ラバーハンドを反時計回りに90°回転させた場合[9]や、表裏を逆にした場合[10]でも、ラバーハンドイリュージョンが感じにくいことが分かっています。

3. 距離が離れている

偽物の手が本物の手から離れれば離れるほど、ラバーハンドイリュージョンを感じにくくなることが分かっています。Armelらが本物の手が向く方向と水平方向にラバーハンドを離して、ラバーハンド実験を行いました[7]。その結果、本物の手とラバーハンドの位置が近い条件より、遠い条件の方がラバーハンドイリュージョンを感じにくいことが分かりました。この実験以降も、本物の手から水平方向に離れているラバーハンドに対して、ラバーハンドイリュージョンを感じにくいということが報告されています[11-13]。だいぶ後になってから、偽物の手が本物の手から垂直方向に離れていても、ラバーハンドイリュージョンが感じにくくなることが分かりました[14]。

4. ラバーハンドの見た目が違う

Tsakirisらは木製のブロックを用意し、本物の手と同じようにブラシで撫でました[15]。しかし、実験参加者はブロックを「自分の手」と感じることはありませんでした。また、Armelの実験ではテーブルに対してラバーハンドイリュージョンが起きる現象が観測されましたが、ゴムの手よりも感じ方が弱かったことが分かっています[7]。

また、ラバーハンドの色が本物の手の色と違うと感じにくいことが分かっています。Haansrらは、ラバーハンドに白い手袋をつけてラバーハンド実験を行ったところ、ラバーハンドイリュージョンを感じにくくなることを明らかにしました。また、Liaらは、白人の実験参加者に白肌の偽物の手と褐色の偽物の手を用いてラバーハンド実験を行いました[17]。その結果、自分の肌色と近い色(白肌)の方がラバーハンドイリュージョンが起こりやすいことが分かりました。

おわりに

今回は触覚によるsense of ownershipを感じる方法として、ラバーハンドイリュージョンを紹介しました。次の記事では、これらの現象が要因で起こる不思議なことについて紹介したいと思います。乞うご期待ください!

参考文献

[1] Botvinick, M., and Cohen, J. (1998). Rubber hands “feel” touch that eyes see. Nature 391:756. doi: 10.1038/35784
[2] Crea, S., D’Alonzo, M., Vitiello, N., and Cipriani, C. (2015). The rubber foot illusion. J. Neuroeng. Rehabil. 12:77. doi: 10.1186/s12984-015-0069-6
[3] Tsakiris, M. (2008). Looking for myself: current multisensory input alters self-face recognition. PLoS One 3:e4040. doi: 10.1371/journal.pone.0004040
[4] Sforza, A., Bufalari, I., Haggard, P., and Aglioti, S. M. (2010). My face in yours: visuo-tactile facial stimulation influences sense of identity. Soc. Neurosci. 5, 148–162. doi: 10.1080/17470910903205503
[5] Beck, B., Cardini, F., Làdavas, E., and Bertini, C. (2015). The enfacement illusion is not affected by negative facial expressions. PLoS One 10:e0136273. doi: 10.1371/journal.pone.0136273
[6] Michel, C., Velasco, C., Salgado-Montejo, A., and Spence, C. (2014). The Butcher’s tongue illusion. Perception 43, 818–824. doi: 10.1068/p7733
[7] Armel, K. C., and Ramachandran, V. S. (2003). Projecting sensations to external objects: evidence from skin conductance response. Proc. R. Soc. B Lond. Biol. Sci. 270, 1499–1506. doi: 10.1098/rspb.2003.2364
[8] Ehrsson, H. H., Spence, C., and Passingham, R. E. (2004). That’s my hand! Activity in premotor cortex reflects feeling of ownership of a limb. Science 305, 875–877. doi: 10.1126/science.1097011
[9] Tsakiris, M., and Haggard, P. (2005). The rubber hand illusion revisited: visuotactile integration and self-attribution. J. Exp. Psychol. Hum. Percept. Perform. 31, 80–91. doi: 10.1037/0096-1523.31.1.80
[10] Braun, N., Emkes, R., Thorne, J. D., and Debener, S. (2016). Embodied neurofeedback with an anthropomorphic robotic hand. Sci. Rep. 6:37696. doi: 10.1038/srep37696
[11] Lloyd, D. M. (2007). Spatial limits on referred touch to an alien limb may reflect boundaries of visuo-tactile peripersonal space surrounding the hand. Brain Cogn. 64, 104–109. doi: 10.1016/j.bandc.2006.09.013
[12] Zopf, R., Savage, G., and Williams, M. A. (2010). Crossmodal congruency measures of lateral distance effects on the rubber hand illusion. Neuropsychologia 48, 713–725. doi: 10.1016/j.neuropsychologia.2009.10.028
[13] Preston, C. (2013). The role of distance from the body and distance from the real hand in ownership and disownership during the rubber hand illusion. Acta Psychol. 142, 177–183. doi: 10.1016/j.actpsy.2012.12.005
[14] Kalckert, A., and Ehrsson, H. H. (2014). The spatial distance rule in the moving and classical rubber hand illusions. Conscious. Cogn. 30, 118–132. doi: 10.1016/j.concog.2014.08.022
[15] Tsakiris, M., Carpenter, L., James, D., and Fotopoulou, A. (2010). Hands only illusion: multisensory integration elicits sense of ownership for body parts but not for non-corporeal objects. Exp. Brain Res. 204, 343–352. doi: 10.1007/s00221-009-2039-3
[16] Haans, A., IJsselsteijn, W. A., and de Kort, Y. A. W. (2008). The effect of similarities in skin texture and hand shape on perceived ownership of a fake limb. Body Image 5, 389–394. doi: 10.1016/j.bodyim.2008.04.003
[17] Lira, M., Egito, J. H., Dall’Agnol, P. A., Amodio, D. M., Gonçalves,Ó. F., and Boggio, P. S. (2017). The influence of skin colour on the experience of ownership in the rubber hand illusion. Sci. Rep. 7:15745. doi: 10.1038/s41598-017-16137-3

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