細かい部分、どこまで許せる?「SING/シング: ネクストステージ」
海外では圧倒的高評価ですが、日本だと意見が割れそう。
STORY:
地元客で賑わうようになったニュー・ムーン・シアター。
さらに大きな夢を目指すバスターたちは、エンターテイメントの聖地レッド・ショア・シティで新しいショーを披露しようとするが、スカウトには見向きもされない。
諦められないバスターたちは強引にオーディション会場に乗り込み、偶然にもチャンスを掴む。
オーディションの主催者であるクリスタルが隠遁生活を送っている伝説のロック歌手、クレイ・キャロウェイの大ファンであることを知ったバスターはそのテンションに便乗。クレイの出演を条件にミュージカルの開催を勝ち取るが…
豪華キャストによるミュージカルシーンは圧巻
「SING」シリーズは音楽の選定とキャストの選び方が本当に素晴らしい。
物語の導入で歌われるプリンスの「Let’s Go Crazy」は白眉。劇中劇という演出も効いています。
他に印象的だったのは、ゴリラのジョニーが歌い上げる「There’s Nothing Holdin’ Me Back」。
僕は吹き替えで鑑賞したのですが、スキマスイッチ大橋さんの伸びやかな歌声が素晴らしかったです。
他にも劇中で効果的に使用されるビリー・アイリッシュの「Bad Guy」、ネタに使われる楽曲もアデルの「Hello」、エアロスミス「I don't want to miss a thing」とヒット曲づくめ。
日本語吹き替えキャストはみんな歌がうまくて見事。
ゾウのミーナを演じたMISIAは言わずもがなですが、ハリネズミのアッシュを演じた長澤まさみと新キャラ・ポーシャのアイナ・ジ・エンドの説得力は圧巻でした。
また、今回はB'zのボーカル・稲葉浩志も電撃参戦。
物語のキーパーソンである伝説のロックスター、クレイ・キャロウェイを演じていました。
noteにも何回も書いているように僕はB'zの大ファンなんですが、稲葉さんの演技はちょっと怪しかったですね。笑
目立って下手というわけではないんですけど。
ちょっと周りのキャストがみんなうま過ぎたかな。
50代後半で声優初挑戦と考えると十分な出来だったと思います。
ちょっと歌が短かったですが、クレイがアッシュとデュエットで歌い上げるラストナンバー「I Still Haven’t Found What I’m Looking For」は圧巻。
ここは流石の説得力でした。クレイが歌い始めた時ゾワっとした。
ただ、歌声はB'zまんまでしたが(当たり前)。
アメリカではあのU2のボノ氏が声優を務めているという。
そうなると、確かに稲葉レベルを引っ張ってこないとカッコつかないですよね。
とにかくストーリーの詰めが甘い
正直、感想はこれに尽きます。笑
前作含め、イルミネーションの作品全般に言えることですけどね。
今作のストーリーの見どころは大きく二つ。
一つ目は登場人物たちが自分自身と向き合って舞台に立つまでの葛藤。
二つ目は前述した伝説のロックスター、クレイ・キャロウェイの復活です。
まず一つ目についてですが。
前作と同じく、今作でもメインの登場人物はそれぞれの問題とぶつかります。
しかし、そのどれもにあまり納得がいかない。
というより、致命的に描写が不足している気がします。
まず、ゴリラのジョニーは鬼コーチにいびられることに悩み若いストリートダンサーに師事することを選びます。
それ自体はいいんですよ。コーチがろくでもないやつっぽいのはしっかり描写されているし。
問題は、ジョニーが鬼コーチの指導ではほとんど覚えられなかったステップをわすが二日でマスターしたこと。
このシーン、僕は「?」で。
素人の延長上にいる若いストリートダンサーの指導で、ここまで急速に上達するかな。
ここに関しては、「二日で覚えさせるわ!」という台詞が余計だった気がする。
日数がぼやかされていたらもう少し腑に落ちていたかも。
次はアイナ・ジ・エンドが演じた新キャラのポーシャです。
こいつは今回の悪役の娘でめちゃくちゃワガママ。
ミュージカルの主役をやりたいと言い出して話を引っ掻き回すポジションなんですが、途中で突然改心。いつの間にやら仲間になります。
ここの心情描写、流石にちょっと雑過ぎやしないか。
歌のシーンは褒めそやしましたが、あくまでアイナ・ジ・エンドの演技と歌が素晴らしいだけで。ドラマ部分はおざなりでしたね。
改心するシーンがないということは、彼女がわがまま放題言ったことの報いを受けてるシーンもないということに他ならないんですよ。そこも気になった。
極め付けは主人公のムーン。
こいつは前作から犯罪紛いのことをバンバンやってのけていたので倫理観に不安はあったんですが。
この不安は的中。中盤コイツがめちゃくちゃホラを吹きます。
この人(?)、夢のためなら何やっても正当化されると思っている節があるよね。
敵役だったクリスタルもムーンを殺そうとするあたり流石にやりすぎですが、正直殺意を持たれてもおかしくないぐらいのことはしてるよね。
で、もう一つの問題は今作のキーマンである伝説のロックスター、クレイ・キャロウェイの心理描写の甘さです。
15年前に愛する妻を失い塞ぎ込んでしまった彼をムーンたちはいかにして引っ張り出すのか、そしてクレイ自身はどうやって妻の死を乗り越えて行くのか…
ここって、如何様にでも感動を作れるポイントだったと思うんですよ。
ところが、クレイはアッシュの説得であっという間に出演を決めてしまうわけです。
ここはしっかり葛藤を描いてくれないと、こっちのテンションもついていかない。
15年の引きこもりが小娘の2日ぐらいの粘りで何とかなっちゃダメでしょう。
ここにカタルシスがないから、フィナーレのシーンの盛り上がり要素が稲葉浩志と長澤まさみの歌唱力しかなくなるわけです。なんと勿体ない。
というわけで、なんというか惜しい映画を観たなという感想です。
映像と音楽の要素は完璧なのに、ストーリーがそれについていってないというか。
こういうタイプの作品は絶対に映画館で見た方が良く観えるので、配信なんかで観るとよりキツいと思う。
興味があるなら映画館でやっているうちに観ることをオススメします。