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ひとしずくの涙が印象的だった「ノマドランド」

映画「ノマドランド」を観てきました。
すごく良かったんですけど、感想が難しい映画でした。

STORY
主人公である60代の女性ファーンは、リーマンショックによる企業倒産の影響で家を失ってしまう。
ファーンは親戚に身を寄せることなく、“現代のノマド(遊牧民)”として、季節労働の仕事をしながらキャンピングカーで車上生活を送ることを選ぶ。
彼女は旅の途中で出会った他のノマドたちと交流を重ねていく…


主人公・ファーンの表情と行動、ノマドの人々との対話、そして朝日と夕日を中心とした美しい風景。
これだけの要素でどんどん主人公の人間性と人生が浮き彫りになっていく構成が芸術的。
ストーリーを追おうと必死になる必要のない、めちゃくちゃ雰囲気重視の映画と言える。

色んなテーマが含まれた作品ですが、その中でも大きかったのが”生き方の選択”だったのかなと思います。

病魔に犯されても最後まで自由であることを選ぶ者、家族との絆を取り戻しノマドを止める者、家族を失って他者を救うことに生きがいを見出す者…
ファーンがノマド生活を始めてから交流する人々は、それぞれが自分の生き方を選んでいます。
ファーンも一緒に住もうと言ってくれる人が何人かいるわけで、本当に孤独というわけではない。それでも彼女はノマドでいることを選ぶわけです。

ただ、本当に彼らが望んでその生き方を選んだのか?というのは疑問も残るところで。
みんな身寄りがなかったり、寿命が残り少なかったり、家族を失ったり…狭まった選択肢の中からその生き方を選ぶしかなかった、と言う風にも捉えることができます。

ファーンも自分でノマドを選んだという一面がありつつも、結局のところ自分が馴染める場所はどこにもないと気付いてしまったからノマドにならざるを得なかった、という風にも見えました。
姉の家族に身を寄せたときも、友人のデイビットの暮らす家にいたときも、どこか居心地が悪そうな表情に見えたし。

多分、彼女にとっての本当の"家"は愛する夫と過ごしたエンパイアしかないのでしょう。
それまでどんなことがあっても泣かなかった彼女が、故郷に戻った終盤のシーンだけ涙を流すのが非常に印象的でした。

ラストシーンではエンパイアに残していた荷物をすべて処分して再び旅に出るファーン。
過去から解き放たれた彼女の表情は、どこか満ち足りているようにも寂しそうにも見えました。
あの瞬間が、彼女が本当に"ノマド"になった瞬間だったのかもしれません。

エンドロールで気付いて調べたんですが、主演のフランシス・マクドーマンドと重要な役柄だったデヴィッド・ストラザーンの2名を除いたキャストはみんな素人で、実際にノマド生活を送っている人をキャスティングしたらしい。
これはほんと衝撃。みんな演技うますぎるよ。

監督は新鋭のクロエ・ジャオ。
この作品、セリフがなかったりファーン一人のシーンが多いので演出が良くないと絶対辛くなる。
それを退屈にしないのにリラックス感を漂わせながら撮っているのはさすが。
次作はMCU26作目「エターナルズ」で初めてブロックバスターに挑むみたいですが、これも器用にこなせたらめちゃくちゃ幅がある監督になりそう。

良い作品でした。
わかりやすいメリハリはないので人は選びそうだけど。


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