幸せなら、音楽なんて必要ないよね
『本当に幸せなら、音楽なんて必要ないと思うんだよね』
そう言った君の言葉が、何年経っても頭から離れない。
『どうして?』
そう僕が問いかけると、君は当然じゃんって顔をした。
『音楽は、心の隙間を埋めるためのものだから。
失恋したら失恋ソング聴くし、就職で悩んでたら応援ソング聴きたくなるでしょ?』
それに、と君は続けた。
『本当に完璧で、幸せ過ぎる人なんて世界にいないんだと思う。
だから音楽ってなくならないんだよ、多分』
僕は、君を音楽のいらない世界へ連れて行きたかった。
僕がいれば、きっと幸せだから。
音楽なんてなくて大丈夫だよって。
そう思って欲しかった。
あれから10年。
君がいなくなってから、僕はどれほどの音楽を聴いてきただろうか。
心の傷を癒すため。
孤独を埋めるため。
ヘッドホンをつけて、自分の世界に入り込んだ。
10年経って、君が言ってた言葉の意味がようやく分かった気がする。
全てを持ってるように見える人でも、不安やコンプレックスは絶対にある。完璧な人間はこの世にいない。
だからこそ、音楽は消えない。
人の心の隙間を埋め続けるために、音楽はこの世に存在しているんだ。
だから、例え君と僕が両思いだったとしても音楽が必要じゃなくなったりはしないんだよね。
そんなことにも気付けない子供みたいな僕だったから、君の側にいれなかったんだなぁ。
もう何食わぬ顔で僕は音楽が聴けるし、別の人とも付き合える。それぐらいの時間が経ったけど。それでも、君を忘れてしまうことはないだろう。
きっと、こうやって音楽を聴く時。
1万回に1回ぐらいの頻度で、君のことを思い出す。
そうやって生きていくんだと思う。