映画『ちょっと思い出しただけ』松居大悟 監督
映画『ちょっと思い出しただけ』2021年・日本/松居大悟 監督
生きてきたなかでの記憶は、否応なく、“年つき“という篩にかけられてしまう。
篩の網から、落っこちなかった記憶は、思い出、、、
きらきらとしたもの。ざらざらしたもの。色々。
あなたにも、必ず、ある。
本作の舞台は、現代の東京。
2021年7月26日に34回目の誕生日を迎えた男(池松壮亮)。ステージ照明の仕事をしている彼は、いつものように仕事に向かう。一方、元恋人の女(伊藤沙莉)はタクシー運転手をしており、客を降ろした先に彼の姿を見つける。2人は、各年の7月26日を遡りながら、共に過ごした6年間を思い出していく。
本作を一回目に観たとき、正直言うと時系列が読めなかった。
いったい、いつの「時」の二人を描いているのか。
二回目観たとき、少しづつ読めてきて、わかった。
冒頭でマスク姿のシーンがある。それが時系列を示そうとする一助にはなっているのかもしれないが、逆に混乱もさせたかな、と個人的に感じた。
夜のシーンが映画の大半を占めている。
記録された夜の街や人々の情景が、本作の物語が描こうとしている内容と結びついている。エモい。
本作を観てから、ある言葉を思い出してしまった。
「男が一生に出会うなかで、本当に意味を持つ女は三人しかいない。それよりも多くもないし、少なくもない」
(村上春樹の短編集の中の一編「日々移動する腎臓のかたちをした石」から引用)
それが正しいとか間違いとかではなく、
本作の男、女、それぞれにとって、“本当に意味のある人”だったと言っている映画だとわたしは思った。
それって、どうでしょう。
あなたにも、心当たり、あるのでは。
そう、思わせる作品。
タクシー運転手である女がタクシーを運転するシーンが、度々登場する。
客を乗せ走るシーン、客と会話するシーン。
女は、客を乗せながらも、頭の片隅で好きな男のことを考えているのがわかる。
それが、どのシーンもリアリティがあって、わたしは好きだった。
主演の二人もすばらしいのだが、彼らの周りの人間を演じる役者さんも人間味がダダ漏れていて、すばらしいと感じた。
ひとりで、エモい気分に沈みたい。
そんな人に勧めたい作品。
筆者:北島李の