北島李の

映画と生きる。 映画考察・感想「ざらめきキネマ」書いてます。 執筆ご依頼:rinoki…

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映画と生きる。 映画考察・感想「ざらめきキネマ」書いてます。 執筆ご依頼:rinokitajima24あっまーくgmail.com

最近の記事

映画『ジェーンとシャルロット』 監督 シャルロット・ゲンズブール監督

映画『ジェーンとシャルロット』2021年・フランス/シャルロット・ゲンズブール 監督 どうあろうとも抗えないもののなかで わたしたちは生きる 現実あるいは事実、時そのもの 肉親という存在とともに あらすじ シャルロット・ゲンズブールが初監督を務め、母ジェーン・バーキンに迫ったドキュメンタリー。両親が別れた後、父セルジュのもとで成長したシャルロット。シャルロットにはジェーンに聞いておきたいことがあった。 母と娘という関係性も、同じ女性、母として互いの立場から話せることへと拡

    • 映画『誰も知らない』是枝裕和 監督

      映画『誰も知らない』2004年・日本/是枝裕和 監督 子ども目線が故の生々しさ 社会と家庭の狭間にあるもの 子どもという存在の危うさ あらすじ 父親が異なる4人の兄妹と母の母子家庭。アパートを追い出されないために、父が海外赴任中で母と息子の2人暮らしだと偽って暮らす。子どもら4人は誰一人として学校に通ったことがない。母親には新たな恋人が出来て、兄妹に20万円を残して姿を消してしまう。子どもたちはなんとか自分たちで暮らしていこうとする。本作は実際に起きた事件をモチーフに描か

      • 映画『バルタザールどこへ行く』ロベール・ブレッソン監督

        映画『バルタザールどこへ行く』1966年・フランス、スウェーデン/ロベール・ブレッソン監督 ロバと少女が織り成す残酷な物語 あるいは、寓話と呼ぶべきか── あらすじ 非情な男たちの悪意に傷つけられる若い女性マリーと彼女の愛するロバの数奇な運命を描いた異色作。構想は、ドストエフスキーの長編小説『白痴』のある挿話から得た。原題では韻を踏む題名『オ・アザール(あてどなく)バルタザール』は、新約聖書に出てくる三博士の一人バルタザール王の末裔と称する中世に権勢をふるったレ・ボー家領

        • 映画『枯れ葉』アキ・カウリスマキ 監督

          映画『枯れ葉』2023年・フィンランド/アキ・カウリスマキ監督 ユーモアとノスタルジーに内包された、崇高な人類愛── ヘルシンキの街で、アンサ(アルマ・ポウスティ)は理不尽な理由から仕事を失い、ホラッパ(ユッシ・ヴァタネン)は酒に溺れながらもどうにか工事現場で働いている。ある夜、ふたりはカラオケバーで出会い、互いの名前も知らないまま惹かれ合う。だが、不運な偶然と現実の過酷さが、彼らをささやかな幸福から遠ざける。果たしてふたりは、無事に再会を果たし想いを通じ合わせることがで

        映画『ジェーンとシャルロット』 監督 シャルロット・ゲンズブール監督

          映画『ユリイカ』青山真治 監督

          映画『ユリイカ』2000年・日本/青山真治 監督 心的外傷というものが人に齎すもの重大さと。 回復や再生の困難さ。 バスジャック事件で生き残った運転手の沢井(役所広司)が、中学生の直樹(宮崎将)と小学生の梢(宮崎あおい)の兄妹と再会し、3人で奇妙な共同生活を始め、再生の旅に出る。 本作は217分(約三時間半)という時間の中で描かれている。 作品中では、色彩というものを排除したセピアカラーで描かれてい て、ラストのシーンには演出としての狙いを込めてか、フルカラーが用いられ

          映画『ユリイカ』青山真治 監督

          映画『すばらしき世界』西川美和 監督

          映画『すばらしき世界』2021年・日本/西川美和 監督 生まれるということに自らの自由や選択はない。 そして、死ぬということも、もしかすると、それと同じなのかもしれない ── 出所した元殺人犯の三上(役所広司)は、保護司の庄司夫妻に支えられながら自立を目指していた。そんなある日、テレビディレクターの津乃田(仲野太賀)とプロデューサー(長澤まさみ)がとある内容で、彼にテレビ番組のオファーを持ちかける。それは、社会に適応しようともがく三上を捉えるというもので…… 一人の元殺人

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          映画『女っ気なし』ギョーム・ブラック 監督

          映画『女っ気なし』2011年・フランス/ギョーム・ブラック監督 誰かにとっての暮らす町は、誰かにとっては通りすがりの町。 訪問者は、何かを求めてやってきて、 限られた時を過ごしては、いずれ必ずその地を去る。 暮らし続ける者たちは、そんな彼らを見送る運命にある。 これまでも、これからも。 本作の舞台は、フランス北部ピカルディ地方の海辺の町、オルトである。 オルトという町は、かつては避暑地として賑わっていたが、現在は寂れてしまった小さな町。 夏の終わり。オルトで暮す青年シルヴ

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          映画『アフターサン』シャーロット・ウェルズ監督

          映画『アフターサン』2022年・イギリス・アメリカ/シャーロット・ウェルズ監督 なにもかもが眩しい。 今という瞬間。 きらきらした思い出は、 意図せずに紡がれていく── 本作の舞台は、90年代。 11 歳のソフィ(フランキー・コリオ)は、離れて暮らす 31 歳の父親・カラム(ポール・メスカル)と夏休みにトルコのひなびたリゾート地にやってくる。 きらきらしたリゾート地で、ビデオカメラを互いに向け合う。ふたりは親密な時間をともにする。時折、大人になったソフィが当時を振り返るシ

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          映画『宝島』ギョーム・ブラック監督

          映画『宝島』2018年・フランス/ギョーム・ブラック監督 ドキュメントの結晶たち。 珠玉の瞬間の記録。 幼年期の思い出へのオマージュ。 本作はフランスの映画監督、ギョーム・ブラックがパリ北西にあるレジャー・アイランドでのひと夏を映し出したドキュメンタリー作品です。 この地は、エリック・ロメールが映画の舞台としても描いた場所であり、ギョーム監督自身も、幼い頃、この近くに住んでいたことがあり、親と一緒に幼い頃に訪れたことのある場所でもあったとのこと。 映し出されるショット、

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          映画『カモンカモン』マイク・ミルズ監督

          映画『カモンカモン』2021年・アメリカ/マイク・ミルズ監督 目の前にいる、あなたを理解したい。 ものすごく、あなたが愛おしい。 あなたを理解したい。 わかりたい気持ちだけが大きく膨らんで 本質的には、わからない。 心の底から愛しているのに。 わからなさに、途方に暮れる。 相手とがむしゃらに向き合っていくこと。 では、わからなさというものは、いけないことなのか── 本作の舞台は、現代のアメリカ、NYとLAである。 ニューヨークでラジオジャーナリストとして暮らすジョニー(ホ

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          映画『放浪記』成瀬巳喜男 監督

          映画『放浪記』1962年・日本/成瀬巳喜男・監督 どうにもこうにもいかない。 金も仕事も男も。何もかも上手くいかない。 だが、生きるしかない。 あらすじ 時は昭和初期。行商、女工、カフェの女給と職を転々とするふみ子。ある日、自分の書いた詩が劇作家・伊達の目にとまり、同人誌の仲間にさそわれる。やがて、2人は一緒に暮らすようになるが、それも長くは続かない。 林芙美子の同タイトルである自伝的小説を映画化したものである。 まともな仕事がない。 お金もない。 ろくな男にも恵まれ

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          映画『ウェンディ&ルーシー』ケリー・ライカート監督

          映画『ウェンディ&ルーシー』2008年・アメリカ/ケリー・ライカート監督 何かを決め、それに向かっている途中で起きた出来事。 神様のいたずらみたいな仕打ち。 そして、繰り返される鼻歌。 本作のあらすじ 一人と一匹の異色のバディが織りなす彷徨譚。ほぼ無一文のウェンディは、愛犬ルーシーと共に新しい生活を始めるため、仕事を求めてアラスカへと向かっている。しかし、途中オレゴンのスモールタウンで車が故障。さらに警察に連行されてしまい、ルーシーは行方不明に……。 本作冒頭の夜のシー

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          映画『ちょっと思い出しただけ』松居大悟 監督

          映画『ちょっと思い出しただけ』2021年・日本/松居大悟 監督 生きてきたなかでの記憶は、否応なく、“年つき“という篩にかけられてしまう。 篩の網から、落っこちなかった記憶は、思い出、、、 きらきらとしたもの。ざらざらしたもの。色々。 あなたにも、必ず、ある。 本作の舞台は、現代の東京。 2021年7月26日に34回目の誕生日を迎えた男(池松壮亮)。ステージ照明の仕事をしている彼は、いつものように仕事に向かう。一方、元恋人の女(伊藤沙莉)はタクシー運転手をしており、客を降

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          映画『怪物』是枝裕和監督

          映画『怪物』2023年・日本/是枝裕和 監督 あなたは、「あなた」という者を、理解していますか。 「誰か」をとおして、つくられていませんか。   本作の舞台は、大きな湖のある郊外の町。 息子を愛するシングルマザー、生徒思いの学校教師、そして、無邪気な子どもたち。子ども同士のケンカに見えたものが、各々の食い違う主張によって彼らの社会やメディアも巻き込み、大きなものへと変貌していく。 それぞでの視点で描かれる物語によって観客たちも、心が自然と動かされてしまう。 ここまでで、映

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          映画「狐狼の血」白石和彌監督

          映画「狐狼の血」2018年・日本/白石和彌 監督 ヤクザって、どこか惹かれる。 本当のヤクザを知らないからだと思う。知らないから知りたく、見たくなる。 本作の舞台は昭和63年の広島。 ヤクザと深くつながるマル暴刑事の大上(役所広司)のもとで高学歴で新人刑事である日岡(松坂桃李)は暴力団関係の事件を担当するところから物語は始まる。 作品の前半は大上の行き過ぎた捜査方法が効果的に大胆に描かれていて、それが物語の後半に必然性を帯びて結びついていく構造になっている。 大上を役

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          映画 「ハズバンズ」 ジョン・カサヴェテス 監督

          映画「ハズバンズ」1970年・アメリカ/ジョン・カサヴェテス監督 カサヴェテス作品を映画仲間たちと語るのはとても楽しい。けれど、作品論やカサヴェテスの描くものについて解説することを虚しく思えるのは私だけではないと思う。一つ一つの作品のなかに映し出される、たとえフィクションだとしても俳優たちとカメラとの間に起こっている現実が、信じ難いエネルギーとしてフィルムに記録され、それを目の当たりにすると、何故か閉口してしまう。 本作は、家庭を持った中年男性たちが、急死してしまった親友

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