映画『ジェーンとシャルロット』 監督 シャルロット・ゲンズブール監督
映画『ジェーンとシャルロット』2021年・フランス/シャルロット・ゲンズブール 監督
どうあろうとも抗えないもののなかで
わたしたちは生きる
現実あるいは事実、時そのもの
肉親という存在とともに
あらすじ
シャルロット・ゲンズブールが初監督を務め、母ジェーン・バーキンに迫ったドキュメンタリー。両親が別れた後、父セルジュのもとで成長したシャルロット。シャルロットにはジェーンに聞いておきたいことがあった。
母と娘という関係性も、同じ女性、母として互いの立場から話せることへと拡張してゆく。
女は子を宿し、時が満ちると、子を世に産み落とす。
親は、果てしない子育てという路に出る。
一連のすべてにおいて、ある意味必然的に“母親“あるいは“父親“という役柄をどこからともなく付与され、この先を生きていくことになる。
私たちは動物であるが、人間でもある。
人間は人間の社会というものの中で子を育んでいく。
母親あるいは父親、というものを背負わされた女という動物は、その役柄を離れるという時は、ない。きっと死んだとしても、ずっと誰かにとっては母親であり父親である。
後には引けない役柄を背負うことに、戸惑わない者なんて、きっといない。
ジェーンも、多分に漏れずそうだった。
母であるジェーン、娘であるシャルロット。
ジェーンの三人の娘。シャルロットにしてみれば父親の違う姉妹たち。
ジェーンの夫たち。そして、シャルロット自身の子ども達。
互いから存在するそれぞれの家族の関係、そして二人を結ぶゲンズブール。
本作は個人としての二人の視点で物語は進むが、やがては人類の普遍的なものの在り様をも映していく。
母親や娘、あるいは子という立場、そして、それらを超えたひとりの人間同士の関係を本作は包み隠さずに描かれている。
カメラという装置が二人をここまでも語らせ、向きあわせるものへと導いている。
だが、ひとたびステージやパブリックなシーンとなると、二人はどこまでもジェーン・バーキンとシャルロット・ゲンズブール。
強い光が二人に向けられ、眩く輝く。
観る者へと届けられるもの。彼等の光と影。同時に“あなた“とあなたの肉親、あるいは子、という存在を自ずと炙りだしてゆく。図らずとも共感を呼ばないわけはない。
「事実は小説よりも奇なり」という言葉ある。
世の中の実際の出来事は、虚構である小説よりもかえって不思議である。という意味を表している。英国の詩人バイロンの言葉だ。
どんなに優れたフィクションを描こうとも、事実そのものの不思議には敵わないのかも知れない。そして、どんなに著名な人物であっても、それは周りに付随する物が大きくさせているだけであり、誰もが皆同じものを背負っているということを、二人というフィルターを通して興味深く描かれた作品だと言える。
筆者:北島李の
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