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つまり、そういうことだ⑧

記憶は、アバターとしてのおまえに蓄積されたものであり、存在そのものとしてのおまえではない。
おまえはゲームをプレイするが、プレイヤーはおまえではないのだ。

ドラクエなどのRPG(〓ロールプレイングゲーム)には、必ずNPC(ノンプレイヤーキャラクター)が存在する。
頻繁に登場するし、時に重要な役割を果たしたりもするが、プレイヤーではない人物たちだ。

朝でも夜でもずっと村の入口にいて、いつ、どのプレイヤーに話しかけられても「ここは、はじまりの村だ」としか言わないおっさん。
村の中を無目的に歩き回り「南の洞窟にモンスターが棲みついたそうだ。ブルブル」しか言わないおっさん。
何度プレイヤーの死に際しても「おお死んでしまうとは情けない」としか言わない王さん。
奴らがNPCだ。
モブキャラだけではない。
旅をともにする仲間や、救い出す姫、ラスボスの魔王さえプログラミングされた台詞を繰り返すだけのNPCだ。
コントローラーを握っているプレイヤー以外は、全員がNPCなのだ。

このNPC。ゲームの中だけでなく、現実にも存在する。
工事現場でいつも「何年やってんだ」と怒鳴っているおっさん。
そうすればモテると思って、女と見れば見境なく頭ぽんぽんしてる阿呆イケメン。
定期的にファミレスに集い、夫の情けなさと姑の鬱陶しさを競い合うママ友。
みんなNPCである。

テレビで「ヤバイよ〜」と言いながら体を張ってる芸人。
それを観て「バカだな」と笑っているパパ。
パパを冷え切った目で見ながら浮気相手に「会いたいよ〜」とラインスタンプを送る奥さん。
もれなくNPCである。

友達に自分が迷惑をかけたことを忘れて、さらに無茶なお願いをし、「それはさすがに……ごめん」と断られても、「大丈夫、試練だから」と噛み合わない返信をしてくる人。
電車に乗ったら、用もないのに意味もなくスマホを開き、ショート動画の通知を考えもなくタップして、ずっと画面を眺めつづけている人。
モラハラ上司がツラくて転職を考えているけど、条件が良い仕事がないとか、家から遠いとか、朝が早いとか、なんだかんだ理由をつけて職場にいすわり、終わりなき転職活動をする人。
模範的なNPCである。

こうなると、世の中ほとんどNPCだらけなのではないかと思えてくる。
人間は、いったい何処にいるんだろう。

(つづく)

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