20030515 錆びない鉄
極端に純度を高めた鉄は錆びにくいと言うことをかなり昔に聞いたことがあった。鉄の純度を上げることが技術的に難しかったのか、用途として何もなかったので特にそういった純度を上げる研究がなされていなかったのか、そのことに関する文献などを目にすることはなかった。もっとも積極的にそう言った文献を探していた訳ではないので、目に触れないのは当然と言えば当然である。
錆びない鉄というとインドの「アショカ王の鉄柱$${^{*1}}$$」を思い出す。1500年前に建てられた鉄製の塔だが、全然錆びていないと言う。これは鉄が高度に純化されているために錆びないのではない$${^{*2}}$$らしい。何か鼻薬がほんの少し入ってい$${^{*3}}$$てそれが防錆に寄与しているらしい。その鼻薬と鉄とが化合して出来た物質が鉄の表面を覆っているために柱が錆びないようだ。
よく知られている鉄の防錆$${^{*4}}$$の方法として「黒錆$${^{*5}}$$」がある。黒錆は赤錆と違って緻密な膜を形成するので、一旦鉄の表面に黒錆の膜ができると、空気中の酸素と水とが黒錆に邪魔をされて鉄と接触できなくなる。赤錆は見た目通り、すかすかで隙間が多いので鉄と酸素との反応がどんどん進んでしまう。黒錆が出来た鉄$${^{*6}}$$のように一度反応すると被膜が出来てしまってそれ以上反応が進まない状態を「不動態$${^{*7}}$$」という。
現在、99.9989%以上の超高純度鉄$${^{*8}}$$が作られるようになっている。このように純度を高めた鉄の見た目は白金のよう$${^{*9}}$$で、一年以上大気中に放置しても錆びず、塩酸では溶けずに酸化力の強い酸である王水$${^{*10}}$$にだけ少しずつ溶けるらしい。
純度の高い鉄が錆びない理由はなんであろう。普通の鉄では不純物が入っているので全体に黒錆が出来ても不純物の所為で黒錆の膜に隙間が出来てしまって、そこから赤錆が発生するのだろうか。高純度の鉄には黒錆に隙間を作るような不純物は入っていないので表面に黒錆の膜が出来てしまえば、赤錆が発生することはなくなる。
普通、黒錆は薬品で処理をしたり高温にしたりしないと出来ない$${^{*11}}$$が、もしかしたら超高純度鉄の表面は非常に反応しやすくなっているために室温でも空気中の酸素と反応してうっすらと黒錆が出来ているのかも知れない。これによって錆びにくくなっている、と思ったが、黒錆は塩酸に簡単に溶けてしまうので超高純度鉄が酸にも強いというのが説明できない。
理科の教科書には鉄の錆びる原理図$${^{*12}}$$が載っている。化学式$${^{*13}}$$を見ると不純物が一切入っていない。入っていないにもかかわらず錆が発生する反応になっている。鉄中の不純物が錆反応の触媒$${^{*14}}$$になっていると考えるべきなのだろうか。
鉄は長年人類が利用してきて身近な物質であるはずだが、その本質があやふやというのは何とも面白い。やはり森羅万象を人類が解き明かすことは不可能$${^{*15}}$$なのであろう。
*1 Delhi- The Story
*2 月刊名工研・技術情報 No.592(5月号) 鉄の不思議
*3 F.E.R.C Research Data - 1999/05/23 オーパーツ アショカ・ピラーの謎を追え!
*4 マグネ化学、防錆工法
*5 黒染め
*6 第3事業部第二工事部2課 マグネラインの4つの特徴
*7 金属元素の役割 /腐食と変色/ Q7.不動態とは?
*8 究極の超高純度金属 安彦兼次
*9 純鉄・チョット気になる加工材:角井製作所
*10 解説:王水
*11 マグネタイトとは?
*12 新製品&推奨製品<Zプリザーバ>
*13 「さび」を科学する
*14 独立行政法人 産業技術総合研究所 生活環境系特別研究体 界面機能制御研究グルー(触媒サブグループ) 「しょくばい」って何?
*15 20030316 一神教と多神教
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