スタートアップが死なずに成功するためのシンプルな一般法則
「30代のためのスタートアップ・ノート」、第3回は「スタートアップが成功するケース」の一般法則について考えてみます。
(本ノートでの「起業」の定義についてはこちらをご覧ください。)
はじめに・「起業の成功」って何?
まず、企業そのものが継続企業を前提にしている以上、それぞれのゴールはあっても「成功」の一般化はしづらいです。
そこで本ノートでは、「起業の成功」=「IPO、起業家にとってハッピーな買収、キャッシュフローが黒字化して成長を続けている状態、自社事業が属する市場において一定の影響力を持つ程度のポジショニングを獲得している、などなど」と広く捉えることとします。
スタートアップの価値ってなんだろう?
「起業の成功」にたどり着くのは、そのスタートアップになんらかの価値があるからだと考えられます。
ではスタートアップの価値とはなんでしょうか?
私は、
「誰もやらないこと、あるいは誰も気づいてないことについて、経営資源を投入して事業構築し、あとから気づいて参入してくる後発プレイヤーが追いつけないところまで先にたどり着いており、その差を埋めることが困難な状態を作り出している」
であると考えます。
すなわち、
・スタートアップの事業は、それを開始する時点では、価値が無い(と思われているか、価値があると客観的に証明できない)ものである
・スタートアップは、あらゆる経営資源(資金、人的資本、時間)をその事業に投入し、価値のないものを価値化していく(または価値があると証明する)試みである
・その事業に価値があると客観的に認識できる状況に至った時点では、その事業を他社が真似しても追いつけないほど顧客を独占・寡占している
と整理しています。
法令上、政府の許認可等を要するような事業(例えば私の会社もそう)であればまた違うところもありますが、スタートアップが自由競争市場において競争優位を築く方法論というのは、他になかなか無いだろうと思います。
価値のないものを価値化するために一番必要なもの
前項で、スタートアップの価値創造は、「最初から誰の目にも価値のある事業」でなく「その時点で価値があると思う人が極めて少ない事業」に挑戦することが起点になる、と整理しました。
では、その起点から事業を成功させるまでの過程で、最も結果を左右する点はなんでしょうか?
資金や労働資本はどうか。
資金については自己資金かお金を借りるかですが、初期リスクを取って投資することに長けているVC(シードVC)もあります。この点についてはまた別の機会に。
労働資本についても、ソーシャルメディア等のテクノロジーで人と結びつきやすくなってきており、またSaaSの発展でより効率的に安価に必要なオペレーションができるようになってきています。
では核心はなんでしょうか。
私は、スタートアップにとってもっとも重要な資源は「あなたと仲間の時間」だと考えます。
これは時間を効率的に貴重に使おうとか、どれくらいの時間を割り当てるかとか、そういう話ではありません。
まず、経営者の視点で資源としての「お金」と「時間」を比べてみましょう。
お金は人によって、100万円の人もいれば数兆円の人まで、極端に言えば差は無限大に広がります。
しかし人生の時間は、最大100年程度のものであり、100年から100億年、といった極端な差は生じません。
お金を1億円使って失敗しても、次の事業に使える1億円をどこかから集めてくることは可能です。
しかし、仮にあなたが10年間ひとつの事業に打ち込み、結果失敗したとき、その10年という時間は永遠に戻りません。
実はこのポイント(人間は死に向かっている存在である)は、スタートアップの成否を考えるとき、極めて重要な要素になると思います。
前に「スタートアップを始める時に考えるべきたった一つのこと」で書いたとおり、
スタートアップがすんなり立ち上がることは極めて稀です。
多くは、なかなかうまくいかない長い期間を過ごし、何度か倒産の危機に直面することもあるでしょう。
そのとき、あなたの身に起こりうることは、こういったことです。
・自分たちのやってることがオワコンになったか、市場選択を間違えたか、ビジネスモデルが間違ってたか、という気持ちが強まる
・自分の状況を外部に説明しづらくなる、嫌になってくる。
・ソーシャルメディアで一切発信しなくなる。
・株主に説明したくなくなり、心理的に連絡が取りづらくなる。
・家族や友達など親身になってくれる人たちにも状況を聞かれたくなくなる。
・次の資金調達に対して自信がなくなる。
そして結果的に「この会社以外の、他のことをやったほうがいいのではないか?」という思いにかられるようになります。
なぜなら、その事業に投下したあなたの時間は、永久に戻らないからです。
それでも、スタートアップの経営上最も重要な資源である「あなたと仲間の時間」は、その事業に注がれ続けるでしょうか?
このことが、スタートアップの事業成否を分ける最も重要なポイントだと思います。
スタートアップが死ぬとき|ポール・グレアムの教え
これはFABLIC TOKYOの森雄一郎さんのnote記事を読んだときに知った翻訳記事のリンクです。
Paul Graham / 青木靖 訳「死なないために」
ポール・グレアムは米国VCのY Combinatorの創業者です。
彼はこのエッセイの中で、「スタートアップが死ぬとき」について以下のように書いています。
スタートアップが死ぬときには、公式の理由はいつも資金切れか、主要な創業者が抜けたためとされる。両方同時に起こる場合も多い。しかしその背後にある理由は、彼らがやる気をなくしたためだと私は考えている。取引したり新機能を作り出したりして24時間働き続けているスタートアップが、つけを払えなくてISPからサービスを切られたために死んだというような話はめったに聞かない。
スタートアップがキーを打っている最中に死ぬことはめったにないのだ。
そしてこう続けます。
しがみついてさえいれば金持ちになれるというのに、こうも多くのスタートアップがやる気をなくして失敗するのは、スタートアップをやるというのがすごく滅入るものになりうるということだ。これは確かにその通りだ。
(中略)
スタートアップにおけるひどい時期というのは、耐えがたいほどにひどいものだ。たとえGoogleであろうと、何も救いがないように思える時期があったはずだ。
そして君たちみんなも、最初の2つはすでに手にしている。みんな頭が切れるし、有望なアイデアを持って働いている。あと生き残るか死ぬかは3番目のものにかかっている。あきらめないということだ。
スタートアップが死ぬ要因は、資金が尽きたり、キーマンが辞めたり、ユーザーが使ってくれないといった理由ではない。
それらのことは、成功するスタートアップにさえ、普通に起こることである。
唯一の死因は、それらのことが起きたことにより、あなたが諦めてしまうこと。そういう話だと思います。
最後に・成功するためのシンプルな一般法則
私は2008年にインターネット業界(DXの流れでいまや死語?)に来たので、まだ12年ほどではありますが、その間いろいろなネットベンチャーを見てきました。
その中で、10年前に見たときは大変失礼ながらすごく非凡な経営者というわけでもない、規模が出そうなビジネスにも見えないと思っていた会社群でも、その後何社も上場していきました。
そういう会社を見るにつけ、会社を起こして成功する秘訣は、非凡なアイディアや非凡な才能ではなく、次のようなことではないかと思うようになりました。
「自分の持てる力を100%かけて、10年間やり続けること」
私は学者ではないので、これ(時間的価値の一般法則、とでも言おうか)をエビデンスをもって証明することはできません。しかし、成功は誰にでも開かれていると信じています。
集中して、諦めずに、やり続けることができれば。
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本ノートは今後も無料で公開して行きたいと思います。
わずかばかりの人であったとしても、誰かの人生がより楽しくなるきっかけになればと思って書いています。
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