バーに泊まる。
なんて甘美な響きだろう。
様々な酒に囲まれた落ち着きのある空間で、様々な飲み方で酒を呑む。
そして飲酒欲を睡眠欲が上回ったならば、眠りにつけば良い。
まさに夢のような空間と言っていい。
そんな、我々の夢見る不可能が、現実となった空間が存在する。
今回は、そのバーホテルに滞在した話を取り上げてみたい。
その夢は箱根にある。
bar hotel箱根香山では「barに泊まる」をコンセプトに、箱根の山奥に静かに佇むホテルである。
ホテルの中にバーが併設されている、というものではなく、バーを中心にホテルと一体化した空間で、お酒を楽しむことができる。
しかも、バーで提供される飲料の大半は宿泊費に含まれている。(一部対象外あり)
いわゆるフリーフロー、あるいはオールインクルーシブというやつである。
お金の心配をせず、また終電を気にすることもなく、ただ心が囁くままに美酒に酔いしれるという夢に浸る事ができるわけだ。
ただ夢の代償は決して小さなものではない。
1泊の値段は約5万円~と、なかなかのお値段である。
それでも一度はこの空間に滞在してみたい。
そんな思いで、一路、箱根へと赴いたのであった。
Check-in
箱根彫刻の森駅から送迎車に乗り込んで5分ほど、国道を外れた脇道に建物が姿を表す。
早速中へと足を踏み入れよう
するとそこはもうバーである。
レセプションがバーカウンターとなっており、そこで手続きを行うのだ。
週末ともなると満室の予約となっているようで、バーカウンターは埋まっており、その後ろにあった暖炉のそばで手続きを行った。
チェックインの用紙とともに、早速ウェルカムシャンパンが振る舞われる。バー体験はもう始まっているのである。
Room
ひとまず部屋へ。
あてがわれたのは、バーから最も近い部屋であった。
極限まで酒と向き合い、最小限の余力で部屋に戻ることができる。ホテル側の配慮を感じた。
部屋はゆとりのあるツインルームであった。
アメニティの類も充実している。
しかし、やはり気になるのは冷蔵庫だろう。
ここにもちゃんと酒が用意されていた。
もちろんこれも料金に入っている。
当然呑んだ。
その他、ツマミ類も充実しているし、
TVの他に、オリジナルサウンドトラックCDなども用意され、喧騒を離れてリラックスしたひとときを過ごすことも可能だ。
なお遮音性に優れているからか、隣のバーの物音が聴こえてくるようなことはまったくなかった。
Spa
箱根といえば温泉地としても知られる場所である。
このbar hotel箱根香山にも温泉大浴場が用意されている。
ヒノキの浴槽のある大浴場と、露天風呂を備えた大浴場が朝晩男女入れ替え制で楽しむことができる。
じっくりと湯に浸かりながらアルコールの排出を促すことのできる、永久機関の完成である。
しかし、私がチェックイン後すぐに向かったのはこれらの大浴場ではない。
このバーホテルにはさらに2つのプライベートスパが用意されているのである。
こちらは宿泊費には含まれておらず、別途お値段90分10,000円であるが、この際満喫するためにケチケチなどしてはいられない。
プライベートスパは半露天の浴槽と、更にはサウナまで用意されている。
90分ゆったりと楽しみたいものだ。
そして脱衣所も小洒落た空間だ。
特筆すべきは右下である。
スパの利用料にはスパークリングワインを始めとした飲み物も含まれているのである。
つまるところ、こういうことだ。
下世話な週刊誌の巻末広告でだけ見ることができた夢が、今現前している。
湯で火照った体を酒で冷やす。
永久機関の完成である。
90分しっかりと湯と酒を楽しんだ。
なお、ワイン以外にも地ビールやソフトドリンクなども充実しているので、そちらを楽しむのも良いだろう。
Lounge
大満足の入浴タイムを経て、いよいよバーへ。
その前に2階へと立ち寄った。
2階中央はラウンジとなっており、開放感のある空間でくつろぐことができる。
そしてこちらにももちろん酒の用意がある。
セルフでワイン類やリキュールなどを楽しむことが可能だ。
Bar
ラウンジは程々にして、いよいよバーへと赴く。
またしてもバーカウンターは埋まっており、最初は暖炉席からのスタートとなった。
まず気になるのは酒のラインナップである。
メニューを拝見。
ウイスキーも産地別になかなかのラインナップが取り揃えられている。
左に●があるのが宿泊費の範囲で飲めるもの、料金表記があるものは別料金である。
とにかく少しでもいい酒を、となれば別料金になるだろうが、料金内でもバリエーションが豊富なので、その範囲で十分に楽しむことができそうだ。
もちろんウイスキー以外のラインナップも充実している。
また、有料ではあるがバーフードもあるので、ここで夕食を摂ることも可能だ。
せっかくなので、普段であれば注文しないようなカクテルをいただく。
実は別のカクテルを頼んだのに、やってきたのはこのカクテルだったのだが、まぁいいかと思ってこれが1杯目となった。
優雅な空間は、人をおおらかな気持ちにする。
どうせ料金内だし。
そうしているうち、バーカウンターに空きがでたので、カウンターへ。
背面に並べられた酒瓶たちとご対面だ。
別のカクテルを経て、いよいよウイスキーへ。
せっかくなので呑んだことがないものを選んでみる。
私をウイスキー沼に引きずり込んだ先輩が、昔好んでいたというジョニ緑だ。
私がウイスキーを飲み始めた頃は、日本では緑は販売がされておらず、幻の酒であったものの、数年前から販売が再開され、再び呑むことができるようになっている。
しかし、なんだかんだで呑む機会に恵まれず、この度初のテイスティングとなった。
つづいて、懐かしい銘柄が目に止まったのでそちらも呑んでみることにした。
私がイギリスで初めて訪れた蒸留所、ウェルシュ(ウェールズ)ウイスキーのペンダーリンである。
初めてウェールズを訪れた際、首都カーディフに行くついでに足を伸ばしたのがペンダーリン蒸溜所だった。
朝一番のツアーを予約していったところ、参加者は私一人であった。
今日はじめてツアーガイドを一人で行う、と言っていたスタッフのおばちゃんは、マンツーマンで丁寧に説明をしてくれたことを思い出す。
今回私が呑んだ、ドラゴンの紋章が描かれたシリーズのウイスキーは、イギリス国内ではあまりお目にかかることがないもので、蒸留所で始めて存在を知った。
おばちゃん曰く、このシリーズはフランスへの輸出が主だそうだ。
「スタンダードなシリーズより、アルコール度数を少し下げているんです。だって彼ら(フランス人)は酒をお茶みたいに呑むでしょう?」
おばちゃんはそう言って笑った。
それから6年、ついに呑む機会がおとずれたのである。
「このペンダーリンはどんな特徴があるのですか?」と聞いてみると、バーテンダーのお兄さんは味の特徴も丁寧に教えてくれた。
が、今となってはなんと言っていたか、とんと思い出せない。
どうして6年前の英語は覚えていて、先月聞いたばかりの日本語を思い出せないのだろう。
きっとアルコールが回っていたせいだ。そうに違いない。
バーは深夜2時まで楽しむことができるが、いい加減酔いも回ってきたので、ホットバタードラムを頼んで、〆ることにした。
しこたま呑んだ身体に温かいラムが染み渡る。
こうしてバーカウンターを去って15秒、ベッドにたどり着いた私はすぐさま眠りについた。
Morning
バーホテルの朝は遅い。
チェックアウト時間はなんと14:00である。
せっかくバーでゆっくりと過ごすのに、翌朝せわしなくホテルをあとにするのでは忍びない。最後までゆっくりと楽しめる素晴らしい配慮だと思う。
ゆっくりと目覚めたら、朝風呂を楽しむ。
こうして残ったアルコールを排出すると、2階のラウンジへ。
夜は見えなかった箱根の山々が眼前に広がる。
さぁブランチの時間だ。
ブランチではガレットを楽しむことができる。
加えて、様々な料理がバイキング形式で並ぶ。
そして、ここがバーホテルであることを忘れてはならない。
シャンパンブランチの名の通り、シャンパンやシードルも並び、朝から優雅な気分を楽しむことができるのだ。
箱根の山々を見ながら楽しむブランチは格別であった。
最後まで、余すことなく酒を楽しませてくれる。
決して気軽にできる体験ではないが、その分非日常感はひとしおであると言っていいだろう。
ところで、私は時折、数日間自宅を離れてホテルワークをしている。
ほんのり旅行気分も味わえ、普段と異なる環境で仕事ができるので、たまの気分転換には最適なのである。
ここでホテルワークをしたらどうなるだろう。そんな考えが頭をよぎった。
早く酒を楽しみたくて、仕事がはかどるかもしれない。
あるいはラウンジで仕事というのも悪くない。
しかし、ラウンジにも部屋にも酒が用意された非日常の環境において、はたして真面目に仕事をしようなどという気持ちになれるだろうか。
あくまで仕事を持ち込まず、じっくり酒だけと向き合ったほうが良さそうだ。
最後までご覧いただきありがとうございました。
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