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台湾食べある記 ③高雄
旅も折り返し地点となる予定の3日目。この日は朝から鉄道を利用して南部にある台湾第2の都市、高雄を目指した。
台湾には高鐵と呼ばれる高速鉄道が縦断している。
それに乗り込むため、台北駅へと向かう。
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台北駅を発着する列車はすべて地下を行き来するらしく、駅前まで来ても線路は見当たらず、ただ立派な駅舎がそびえるのみである。
中に入ると広大な吹き抜けの空間に圧倒される。
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朝食をとっていなかったので、何か買って車窓を眺めながらの食事を企てた。
ファミマもあるが、海外旅行でビニ飯は忍びない。
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台湾は日本と同様に駅弁文化が発達しているので、それも選択肢だ。
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しかし、どうも弁当の気分でもなかったので、美味しいと噂のガーリックトーストを買うことにした。
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地下に潜って電車を待つ。
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台湾高速鉄道は日本の新幹線の車両技術が輸出された初めてのケースであるそうだ。
やってきた電車を見ると、そのことがよくわかる。
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車内などは完全に日本の新幹線のそれである。
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異国に居ながらにして、なぜか国内を旅しているような、実家に帰省しているような不思議な感覚に陥りながら、列車は進み始めた。
地上へ出てほどなくすると、徐々に車窓に緑も増えてくる。
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そろそろ食事にしようと、パンを取り出した。
しかし、これが良くなかった。
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美味しいは美味しい。
しかし、想像をはるかに超えるニンニクの効き具合である。
ガーリックバターがナイススティックのノリで投入されている。
551の豚まんも真っ青なバイオテロ攻撃だ。
少しだけ食べて、慌てて袋の口をきつく封印するのであった。
わずか1時間半ほどで列車は高雄の左営駅へと到着した。
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高雄は、人口273万を擁する台湾第3の都市である。台湾最大の貿易港を擁するこの街は、日本統治時代に旧名である打狗から、発音の近かった京都の名所の名を借りた現在の名前に改名されて今に至っている。
高雄に到着し、荷物をホテルに預けると、早速中途半端にしか食べられていなかった腹を満たすべく、昼食へと向かった。
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ここ鴨肉珍は、高雄で65年以上続く鴨肉(アヒル肉)の名店食堂である。
訪れたのは昼食もピークを過ぎていた時間帯であったが、それでも店は観光客から地元民まで活気にあふれていた。
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早速食事を注文しよう。この店はシート記入式ではなく、店先に並んで口頭でオーダーするスタイルだった。
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名物の鴨肉飯は外せないとして、ほかに何を頼もうか。野菜も頼んでおきたいので燙青菜もいっておこう。せっかくなので鴨肉単品も頼もうか。
そして綜合(総合)下水という、おおよそ食品が名乗るに不適当な印象を受けるものも注文した。
壁にはドリンクのメニューも別に示されていた。
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蘆筍汁(アスパラガスジュース)の異質さが鮮烈だ。なぜジュースにしようと思ったのだろう。もしかして我々日本人が一般的に想像するアスパラとは別のアスパラが存在するのだろうか。
試されている気がした。
注文した。
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我々が想像するアスパラをジュースにしたようだった。アスパラガスらしい青い匂いも感じられる。
恐る恐る一口。
思いのほか飲みやすい。果糖やスキムミルクも添加されているようで、生臭い感じはおおむね抑えられていると言っていい。
もう一度金を払ってでも飲むか?と聞かれると答えに窮するが、一度試してみても損はしない味だ、という感想だった。
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そして料理もやってくる。
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まず看板メニューである鴨肉飯は、たっぷりのアヒル肉に加えてルーローも載せられている。
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柔らかく淡白な味わいのアヒル肉と、ルーローの油分と味わいがマッチしてどんどん食べ進めることができる。
そして綜合下水の正体は、モツのスープである。
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下水とはモツの意味で、いろいろな部位のモツが入っているから綜合下水ということのようだ。
ショウガのおかげか臭みもなく、あっさりとした味付けのスープでたっぷりのモツが味わえる。
総合的に味もよく価格もリーズナブルで、高雄を訪れた際にはぜひまた訪問したいと思える店だった。
空腹を満たした後は、近くにある倉庫跡地を活用したアート地区を一通り散策して、
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そのあと、旗津へと向かうことにした。
旗津は、高雄港を取り囲むように細長く伸びた半島である。
いや、厳密には半島であった、というべきだろう。もとは南部が陸続きになっていたが港の建設によって分断され、現在は独立した島になっている。
旗津へはフェリーを用いて5分程度の道のりだ。
移動の需要は多いらしく、フェリーは頻繁に行き来している。
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コナンのラッピング船もあったが、
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私が乗ったのは高雄空中大学ラッピング船だった。
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空中大学とはどんなことが学べる大学なのだろう。
サーカスとかに就職できそうな響きだ。
実際のところ空中大学とは日本でいう放送大学のような通信制の大学のことを言うそうだ。
次第に離れていく高雄中心地を眺めながら短い船旅が始まる。
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遠くにそびえるひときわ高い建物は高雄のランドマーク高雄85だ。
台北101のオープンまでは台湾で最も高い建造物だったそうで、展望台もあったようなのだが、現在は閉鎖中らしい。
ぼんやり外を眺めていると、あっという間に旗津に到着した。
船を降りるとにぎやかな通りにたどり着く。
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到着早々ではあるが、蒸し暑い空気から逃げるように、涼を求めてカキ氷屋を訪れた。
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ミロかき氷やハイネケンかき氷も大変気になるところだが、
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いただくのは人気台湾スイーツの1つマンゴーカキ氷だ。
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台湾のかき氷は、ただの氷ではなくミルク氷になっているのが特徴で、氷単体で味わってもちゃんと味と甘さがあるのが良い。
そこにマンゴーがたっぷり乗っているので、飽きることなく楽しむことができる。
なお、この店では最大30人前の巨大カキ氷を注文できるので、思う存分楽しみたい方は挑戦してみるといいだろう。
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体を氷で存分に冷やしたら街歩きを再開だ。
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海辺の観光地らしい、ビーチを散策したり、
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今は映えスポットになっている日本統治時代のトンネルを抜けて
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堤防に打ち寄せる波をボーっと眺めるなどして時を過ごした。
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2時間ほどで滞在を切り上げて、再び中心部へ。
向かったのはホテルのある美麗島駅だ。
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この美麗島駅は高雄の中心部に位置し、乗換駅でもあるので多くの利用者が訪れるが、それ以上にこの駅に人を引き寄せるのは、美しいステンドグラスである。
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イタリアの芸術家の手ですべて手作業ではめ込まれたというステンドグラスは、光之穹頂(The Dome of Light)の名前の通り、幻想的な姿を見せてくれる。
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美麗島の駅の名にふさわしい美麗さである。
なお、この駅の名前である美麗島は台湾の異名であるFormosaを意味している。Formosaとはポルトガルで美しい島、の意味で、16世紀に航海の果てに台湾にたどり着いたポルトガル船の船員が緑に覆われた台湾の島を見てそう叫んだ伝承に由来しているそうだ。
ホテルに戻ったころにはすっかり日も落ちており、夕食を取るべく夜市を訪れることにした。
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美麗島駅にほど近い六合国際観光夜市は、アクセスの良さと規模から高雄を代表する夜市になっている。
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様々な屋台を横目に、まずは道沿いのレストランへと向かった。
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台湾のローカルレストランによくあるスタイルで、店頭には食材が並べられており、そこから食べたいものを選んで調理法を指定していく。
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ややハードルの高さはあるものの、どうにかコミュニケーションをとって注文を行っていく。
とりあえず一通りの注文を済ませて着席したらビールで乾杯だ。
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台湾ビールにはフルーツ、糖質オフ、などいろいろなバリエーションが存在するが、見かけたら必ず味わっておきたいのがこの18daysだ。
加熱処理をしていない生ビールで、その名の通り賞味期限18日のため、日本ではまずお目にかかれないレアタイプの台湾ビールなのである。
軽やかな味わいが気に入り、これがある店では基本これを注文していた。
とりあえずビールをあおっていると、徐々に出来上がった料理も運ばれてくる。
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サバヒーのスープは、脂がのっていながらも淡白なサバヒーと優しい味のスープが絶品だった。
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また、台湾グルメの人気選手蚵仔煎(牡蠣オムレツ)も一度は味わっておきたかった逸品だ。
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オムレツと言っても卵感はさほど強くなく、片栗粉が衣のメインとなっているので、どちらかというとモッチリとした粉もの料理にイメージが近い。
そんな衣にはゴロゴロと牡蠣が含まれ、甘辛いソースが絡んで牡蠣好きにはたまらないだろう。
また、野菜はよく空心菜炒めを頼んでいたが、この店には空心菜がなかった。代わりにと勧められて頼んだ水蓮の炒め物(右奥)も、インゲンをもっと細くしたと表現すればいいだろうか、青菜では味わえない食感がなかなか癖になる。
実際に配膳されるまでどんなものが出てくるか安心ができないのが、この手の食材・調理法指定スタイルの店であるが、今回は大満足であった。
本日のマグネット
本日のマグネットがこちら。
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きっと旗津のほうから見たであろう高雄の市街地の真ん中には高雄85がそびえている。港町高雄らしいデザインといえるだろう。
さて、夜市巡りはまだ続いており、大腸包小腸という、字面だけだと意味不明な、もち米の腸詰にソーセージをはさんだ台湾風ホットドッグを試し、
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おハゲの名物店主が作るオイリーパラパラ炒飯を食べていると、スマホが鳴った。
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懸念していたことが起こってしまった。
帰国日付近で関東地方への上陸が予想されていた台風7号のため、羽田・成田発着の飛行機は、そのほぼすべてが欠航となり、私の搭乗予定便も漏れなくその影響を受けてしまったのであった。
JALの連絡の良くないと思うところは、欠航した事実はわかっても、「なのでこうしてください」という指示が一切ないことである。
過去に搭乗予定の便がキャンセルになったことは何度かある。国際線でもあった。しかし、その時は先方から代替便を示してくれていた。
今回はどうすればいいのだろう。
すでに時刻は深夜近く、カスタマーサポートは営業を終了している。
欠航してしまったものは仕方ない。まあなるようになるだろう。とホテルに戻る。
戻り際に、名物パパイヤミルクを買うのを忘れない程度には心の余裕が存在していた。
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翌朝、カスタマーサポートへの連絡を試みる。
しかし全くつながらない。
台湾便だけが欠航になっていたのならまだしも、同じように帰れなくなった境遇の旅行者は世界中にいることになるので、無理もないのかもしれない。
埒が明かないので、空港のカウンターに行くしかないか、と思った。
でも高雄の空港にはJALは就航していない。
仕方なく、台北に戻って空港カウンターへ向かうことにした。
幸いにして、元々午前には戻る予定であったので、大した影響はない。
しかし、こうしている間にも振替便は埋まっていくのではないかと思うと気もそぞろであり、せっかくの夢あるホテルバイキングも
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朝食会場からの景色もそこそこに、駅へと向かい、新幹線に乗り込むのであった。
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