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カールマルクスが渋谷に転生した件29 マルクス、ついに渋谷で演説する!

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マルクス、ついに日の目を見る

投票前夜の渋谷。
大型ビジョンには各候補の最後の訴え。大山知事の街宣車が「環境との共生」を訴え、中池陣営は「次世代の未来」を連呼する。

その喧騒の中、ハチ公前に一人の男が立つ。
長いフロックコートが夕風になびき、髭が夕陽に輝いていた。


マルクス、言いたい放題

「諸君!」
マルクスの声が、渋谷の街に響く。
西野の応援演説として、ついにこの男が壇上に登った。

「私は19世紀から来た一介の理論家だ。そして今、この21世紀の東京で、理論の真価が問われている」

数人が足を止める。

「目の前で何が起きているのか、理論的に見てみよう。この渋谷で起きている再開発は、単なる街の改造ではない。それは私たちの目の前で起きている、現代資本主義の縮図なのだ!」

人々が集まり始める。

「見たまえ、この街並みを。築わずか30年のビルが『老朽化』の元に取り壊され、商店街は『非効率』のレッテルを貼られる。だが、それは誰にとっての効率なのか?」

マルクスの声が力を増す。

「木々は切り倒され、商店街は立ち退きを迫られ、コミュニティは解体される。我らの公共空間であるべき、公園や神社ですらその対象だ。
その跡には何が建つのか?新しいオフィスビル、高級マンションやホテル、チェーン店の列。
なぜか?それは資本が『効率』という名の下に、あらゆる価値を数字に還元しようとするからだ!」

「この構造は、あらゆるところに存在する」マルクスが情熱的に続ける。
「大学を見たまえ。研究費は『選択と集中』の名の下に削減され、若手研究者は非正規雇用に追いやられる。
研究の価値は『インパクトファクター』という数字で測られ、教育は『費用対効果』で評価される」

通りを急いでいた若者たちが、足を止める。

「プラットフォーム企業による支配を見よ!彼らは諸君の情報を商品化し、行動を数値化し、人生までをもアルゴリズムで管理しようとする。全ては同じ資本の論理なのだ!」

スマホのライトが、次々と灯されていく。

「そして諸君!」マルクスがさらに声を高める。「『少子化は危機だ』と彼らは言う。だが、なぜ危機なのか?それは子どもたちのためか?断じて違う!」

群衆が息を呑む。

「彼らが恐れているのは、労働力の減少だ。消費者の減少だ。年金を支える若者の減少だ。つまりは資本主義システムの維持が危ぶまれることこそが、彼らの言う『危機』なのだ!」

マルクスの声が、渋谷の街に響き渡る。

「しかし考えてみたまえ。人口が減れば、一人当たりの資源は増える。教育や医療にかけられる予算も増えるはずだ。だが現実はどうか?
教育予算は削られ、教育の機会は『資本』によって分断される!」

若い母親が子どもを抱きしめる。学生たちが固く握りしめた拳を上げる。

「私立の小学校に通える子と、そうでない子。予備校に通える子と、そうでない子。英会話を習える子と、そうでない子。それは単なる『格差』ではない。それは資本による『未来の収奪』なのだ!」

「人口は減っているというのに、なぜ待機児童が解消されない?なぜ学校の教室は満員なのか?なぜ教育費は上がり続けるのか?」

「諸君の日常にも、この論理は忍び寄っている。奨学金は『投資』と呼ばれ『借金』と化し、学びは『人的資本』として計算される。さらには若い少年少女の夢までもが、アイドル産業という名の商品化システムに組み込まれていく」

ひかりの目が潤む。
「しかし」マルクスの声が希望に満ちる。

「西野草次という理論家は、これらの問題の本質を見抜いた。環境経済学という理論で、彼は証明したのだ。再開発も、研究費削減も、教育の市場化も、全ては同じ構造を持つと。そして最も重要なことは、これらの問題に対する解決もまた、繋がっているということだ!」

マルクスの髭が震える。

「思い出してほしい。Das Kapital TVの始まりを。たった数百人の視聴者に、理論を語りかけた日々を。そして見たまえ。今、この理論は数十万の心を動かし、街を変え始めている」

スクランブル交差点が人で埋まっていく。

「なぜか?それは理論が、諸君一人一人の現実に光を当てたからだ!少子化は人口の問題ではない。それは若者から未来を奪う社会システムの問題なのだ。環境破壊は単なる自然保護の問題ではない。それは次世代からの収奪の問題なのだ!」

「そして西野草次は、理論を武器に変えた。再開発の欺瞞を数字で示し、研究費削減の本質を明らかにし、非正規雇用の構造的問題を解き明かした。これこそが、真の理論家の使命ではないか!」

通りを急ぐ人々が、次々と足を止める。
若者たち、商店街の人々、研究者たち。
様々な立場の人々が、マルクスの言葉に聴き入っていく。

「かつて私は言った。『哲学者たちはただ世界を解釈してきただけだ。しかし重要なのは、それを変えることである』と」

「そして今、私は見ている」マルクスの声が力強く響く。「理論が現実を変えていく瞬間を。商店街の人々が声を上げ、若者たちが目覚め、研究者たちが立ち上がる。それは理論が実践となり、実践が新たな理論を生む、まさに弁証法的展開!」

夕暮れの渋谷に、歓声が響く。

「金の力では変えられないものがある。何億円もの選挙資金では買えないものがある。それは諸君の魂であり、この街の記憶であり、次の世代への希望だ!」

スマホのライトが、ハチ公前広場に星座を描いていく。

「この東京で100年前、電灯が灯った時、人々は新しい光に未来を見たはずだ。今、私たちは新たな光を灯そうとしている。それは理論という光。環境経済学という、未来を照らす光明だ!」

マルクスの髭が、さらに震える。

「明日、諸君の一票には、単なる候補者の選択以上の意味がある。それは、理論が拓く未来への選択なのだ。資本の論理に支配された世界か、理論の光に照らされた未来か。その選択が、諸君の手に委ねられている!」


マルクス、いい感じに締める

その時、一人の男性が歩み出る。
西野准教授だった。

「マルクス先生」西野の声が震える。「私は...」

「言うな」マルクスが静かに手を上げる。「一人の理論家として、最後に君に告げたいことがある」

場が静まり返る。

「君の理論は、確かに未来を変える力を持っている。私にはそれが分かる。なぜなら...」マルクスの目に涙が光る。「19世紀のロンドンで、私もまた、理論の力を信じ、エンゲルスとともに、孤独な闘いを始めたからだ」

「先生...」

「次の戦いは、もっと大きな舞台となるだろう。この東京から、日本全体へ。そして...」

「世界へ」西野が力強く頷く。「環境経済学の理論は、グローバルな課題に応えなければならない」

「その通りだ!」マルクスの髭が誇らしげに揺れる。「理論は、国境を超える。そして実践は、時代を超える」

夜空に、無数のスマホのライトが輝いていた。

「さぁ」マルクスが群衆に向かって声を上げる。「明日は、新しい理論の夜明けだ。諸君の手で、未来を選び取るのだ!」

大きな歓声が、渋谷の街を包み込む。

ネット上には、新しい言葉が流れ始めていた。
『#TheoryIntoAction』
『#NewDawn』
『#理論が世界を変える』


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