性、バイオレンス、メカ。三種の神器。
Netflix『ラブ、デス&ロボット』のシーズン3を一気観した。おかしい。「彼女の声」のクオリティはちょっとありえないレベルだ。スパイダーバースのデザイナー/アートディレクターが監督してるらしい。「これはCGか?」というよりもむしろ「実写だろう」と思わせる水準のデジタルアニメーションであることはもちろん驚くべきことだが、計算されつくされたカメラワーク、被写界深度の浅いレンズを通したようなボケ感のある画、カット割りなどは至高の域に達しており、筆舌につくしがたい。観ている最中はまるで塚本晋也の映画を彷彿させる美しい映像だな、などと感じていた。どこかで「作りモノ」感を払拭できない現代のフルCG作品だが、この映画ではそれがほとんどないのである。まるで自主映画、あるいは名作映画を観ているような感覚でありながら、しかしCGでしかありえないような構図、モーションをやっている。あたかもデジタルアニメーションと実写作品の収斂進化を感じさせるあじわいだ(その両者にはさほど違いはないのだが)。
無視してはならないのは劇中のあらゆる物体のモーションの表現である。踊子のまとうきらびやかな装飾、その舞いによって金のチェーンがあでやかに揺れる。騎士たちの跨がる馬は筋肉の動きや息遣いが感ぜられるまでに精緻に描写され、踏まれる灌木、揺れる叢は我々が普段見ている現実の景色とまったく相違ないほどだ。騎士のからだと生い茂る草木は、当然のことながら触れるとその動きをなぞるように動く。けして重なることはない。映像を完璧にコントロールすることで生まれる、あるいはそうすることでしか生まれ得ぬ「動き」の表現。処理には厖大なコストがかかるはずだが、ある種のごまかし方、見せ方に熟達したクリエイターなればこその映像表現なのだろう。常識的に考えて、あそこまで物量的な映像を描画することなど不可能に近いのではないか。実写らしく見せることを平然とやってのけた上でカメラ・映像表現に凝る。あるいは後者の作家性とも換言できる技倆こそが、映像を実写に接近させている要因なのかもしれない。
ストーリーも僕好みで、生物学的特質(「障がい」とされる)をひとつのモチーフとして使う手法には非常に興味がある。デンマーク映画『THE GUILTY/ギルティ』『ダンサー・イン・ザ・ダーク』などは好例だ(後者は自身の境遇と被る部分があるため、傑作であることは疑いようがないものの、なかなか再見できない。あと前者はジェイク・ギレンホールでリメイクが同じくネトフリで出ている。まだ観てない。というか一発ネタだと思うが、リメイクやる意味あるんだろうか)。ネタバレになるためつまびらかにはしないが、この「彼女の声」にもそういった要素がある。大好物である。
ゲームをやらない人、あまりCG映画を観ない人にこそこの作品を観てほしい。なんとなれば、これは現代のデジタルアニメーションの閾値といえるからだ。
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