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虹ヶ咲 完結編第1章の感想よもやま話
2024年9月6日に劇場公開された「ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会 完結編 第1章」(えいがさき)。
いつも通り頭に残ったトピック単位で感想を残しておきます。
舞台が沖縄になった理由
作品舞台(地元)だから描けることもありますが、一方でその街の枠組みからはみ出たことを描くことのは難しく、それはそれで物語を描く上での制約だと感じていました。そういう意味では、お台場を離れたことは好感触でした。
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ただ、同時に「何故沖縄なのか?(何故お台場を出るのか?)」を理解しようとする必要も生じました。
結論としては、新章であるスクールアイドルGPX開幕の盛り上がりにふさわしい温度感・エネルギー・季節感を演出できる舞台として沖縄を選んだように捉えました。意図されているのか、作中の虹ヶ咲学園と東雲は雪が積もる灰色の景色として対照的に描かれています。
・虹ヶ咲の新章として、気分の高揚に繋げやすい舞台 (南国の暖かさ、アウェイ感、新奇感)
・GPXを通して競い合う熱気を表現できる地域 (冬でも画面内が寒く見えない地域)
・アウェイな場所に置くことで、逆説的にニジガクの不変性を描く目的 (お台場とは似つかない場所としての沖縄)
言い換えれば、上記を表現するために沖縄が選ばれたように見えます。
2月頃であっても隅から隅まで生き生きとした景色を描けるのは、おそらく国内であれば沖縄くらいでしょう。(海外でも良かったのよ)
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こう解釈してみると、同時に第2章の輪郭が浮かび上がる感触もあります。
第2章のティザービジュアルでは大阪が登場し、再び大都市圏が舞台となる予感がしています。つまり、今度は2月らしい冬の景色を舞台とした物語が見られる気がします。
その季節感は当然物語とも絡んでくるように見え、第1章とは異なるテイストを感じられるのではないかと期待しています。
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よりシリアスな展開があったり、"卒業"が遂に顔を見せるのだろうか...。
進んだことで起きる変化に向き合う物語
競い合いを通して変わっていくメンバーの姿が描かれた第1章。
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個人的には、えいがさき第1章までの作品展開をこのように捉えています。
テレビアニメ → 1人1人が一歩踏み出そうとする物語+同好会として歩んで行く物語
NEXT SKY → 前に進もうとして立ちはだかる壁の物語
第1章 → 進んだことで起きる変化に向き合う物語 (ソロとして・同好会として)
これまでは調和や協調としてそれぞれの好きを伸ばし、メンバーを繋ぐ同好会の場が描かれてきました。それが今回、パラダイムチェンジとして競争(GPX)が登場します。競争を介してそれぞれのスクールアイドルがどう受けとめて自分を表現するのか。
大まかに言えば、えいがさきの見せ方は以下のように感じました。
1.この子ってこういう子だったよね?(アニガサキで描かれてきた姿を振り返る)
2.競争に接してこう考えているよ (その子の自己表現のあり方を提示する)
3.だからこう変わっていくよ (この子はこう羽ばたいていくよと歌に変換されていく)
そうした環境変化や前進(成長)をひっくるめて、一言に落とし込むと『どこにいても君は君』の曲名に集約されているのが見事でした。
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沖縄組が辿り着いた答え
作中では、GPXに向き合うニジガクが辿り着いた考えや答えが要所で登場します。色々ありますが、備忘として取り上げたいものを残しておきます。
🐑「私たちはソロだとしても、ひとりはいやだよね」
一人で表現することと孤独は違う。虹ヶ咲の基本姿勢が凝縮されていました。
🍞「やっぱり誰かと競い合うなら相手の気持ちを感じてやっていきたいから」
エマらしさが凝縮されているセリフでしたが、同時に、どのライバルに対しても相手を理解した上で挑むという強かさも感じるのが好きです。
🎀「元々バラバラだった私たちが本気で競い合ってお互いの心をぶつけあったら、その先はどうなるのかな?」(後略)
🖤「それでもみんな進み続けるんだよ」
競い合った先の同好会がどうなるか今は分からないけれど、物語は進み続けて戻らないという変化の肯定。踏み止まりそうな歩夢を遮るように一押しする瞬間も印象的です。主人公のセリフ以上に作品からの気迫にも感じます。
🐑「二人で高め合ってる」
💧「どんな競い合いの場でも、私たちらしくいればいいんだって」
GPXとの向き合い方の答え、すなわち競い合うことは互いの表現を洗練させる前向きなものであると知った場面。かなしずで描かれた起承転結をきちんと二人で結んでいて隙がない点も特筆に値します。ここで解が出たからか、二人ともこの後は別々に描かれてるんですよね…。
「このドキドキは理屈じゃない!」
考え込んでいた歩夢に競い合いを「楽しみだから!」と感じさせる突破口になった下り。侑とランジュを介して1期終盤・2期の下りを想起させながら変わっていく歩夢が良すぎました。
残るかすみは背後から同好会とGPXを支える立場を担い、ステージに立つのを忘れる程でした。その為、彼女自身がGPXと向き合って何を感じ取っているかは今のところ明らかになっていません。「真打ちは最後に登場するのです」は、メタな意味でも本当にそうなりそうです。
作中に様々な考えと答えを提示しながら、ランジュの台詞で第1章は幕を下ろします。
「グランプリはまだまだこれからよ。」
第2章でフォーカスされるメンバーがGPXを介してどのような答えを得るのか。そこが見所になるのかなぁと考えています。
「一番にならなければ意味がない」
スポンサーとなっているランジュの母からは、参加者全員を贔屓しつつも「一番にならなければ意味がない」とも語られています。
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その意図はさておきランキングの形で成果が表現されるGPXに対して、言い換えればレールを敷いた大人のメッセージに対して、当事者は何を考えどう向き合うのか。同好会をはじめ、参加するスクールアイドルがどのような回答を得るかが三部作で描かれる価値の軸のように感じられました。
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上原歩夢と競争について
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自分を知ってもらいたい意識は持ちつつも、競争や順位(優劣や上下)を付けることに抵抗感を覚えていた歩夢。ランジュとの対話でスクールアイドルを通した活動が他者に力を与えていると気づくことになり、憧れを持って挑もうとするランジュの熱意を受け止め、競争する意義を見出します。
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「Stellar Stream」は流れを感じさせるタイムラプスと砂時計、高みを示唆するような宇宙など、変わりゆく歩夢と同好会の環境やこれからの道筋を描いているようでした。「Dream with You」「Awakening Promise」の映像表現とも呼応していて27話分の歩みを重ねているのが凄く好きです。
(すごすぎない?)
「かなしず」が描いたこと
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美ら海水族館を訪れた二人は、お互い同好会に助けられたおかげで好きなことに自分本位で取り組めるようになったと話していました。先立って「先手必勝」が指し示したように、しずくは2期6話で答えを掴み自己表現を追求しているようでした。
後にGPXが同好会へもたらす波乱を前に、もっとも迷いのないしずくが真っ先に飛び込める一番手として選ばれたように感じました。そんなしずくが彼方に合いそうな舞台を選び会話を通して「Daydream Mermaid」へ繋がっていきます。
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ところが2日目に入ると、競争意識からソロ活動になったことにしずくが困惑します。しずくが抱えた新たな悩みを受け止めたのが彼方であり、「ソロだけどひとりはいやだよね」と皆の気持ちを代弁してくれます。その後しずくは、エマと天のステージを見て競争が表現を洗練させる前向きなことと理解します。一方の彼方は仲間の印として同じ珊瑚のアクセサリーを渡してくれます。
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一連の流れを整理すると、場所選びと会話をリードしたしずくによって彼方の歌が生まれ、新たに悩めるしずくを彼方が受けとめる。お互い同好会に助けられて今があるからこそ、"ソロ"と"ひとり"(孤独)で行き来する物語の核心に触れられる。そしてコラボステージがしずくに競争の意味を与え、二人の物語に起承転結の結びが与えられる。
個人的に念願叶った「かなしず」は単なるファンサービスに留まらず、お互いの心遣いが互いを動かしながら、競争と同好会の向き合い方(メインテーマ)を描いたペアだったのでしょう。
…何を食ったらこんなエモエモな話を描けるんだ!!!
取り乱しました。
以上、「かなしずをありがとう」を言語化したらこうなりました。
かなしずをありがとう。
全てのスクールアイドルと渡り合えるエマの強み
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天の対話する力を引き出すために、コラボステージを組んだエマさん。
「競い合うなら相手の気持ちを感じてやっていきたい」ということは、私はスクールアイドルの数だけ渡り合えますという意味に取れます。だからランキングという数値はさておき、エマさんを超越するためにはGPXに出場せず逃げ回るしかないような、そんな凄みをも感じました。
その一方で、「Cara Tesoro」の映像にはスイスから異国の日本へやってきたエマのアンニュイな一面のギャップも見えました。エマさんは強いけれど、彼女もまた、新しいことに挑む上で抱えてきた等身大の悩みが表現されてるようですごく好きです。映像でも語ってくるのが良いですよね…。
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メタい「PHOENIX」と未来の思い出
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振り返れば、歩夢に対するアピールがとても激しかったランジュちゃん。部室では早速「負けないわよ」と宣言し、プールでも「いくわよ!」と一方的にビーチボールを放ちます。でも歩夢に問われればきちんと理屈立てて説明するし、それでいて最も強く抱いていたのは尊敬する歩夢に挑みたい想い(「理屈じゃない!」)でした。
ランジュがGPXに向けていた想いを知ってみると、真剣勝負の場にランジュママがもたらした早とちりというのは、相当にショックを与えていたことでしょう…。
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かすみの仲裁もあって無事に披露された「PHOENIX」では、未来と思しきランジュが沖縄滞在を振り返るようなメタい映像が登場します。
どこか潤いを失ったランジュが沖縄を回り、ニジガクとGPXで得た体験をなぞって活力を取り戻す。それだけランジュにとってGPXがスクールアイドルとして大きな契機になったことが伝わります。歌と歌詞は今まさに目の前で披露している鐘嵐珠そのものなのに、視覚的にはどこか未来から振り返っている部分も感じられる不思議な心地でした。
そうしたことから、映像的にはこれからの未来へ進んでいるような見え方も出来る「PHOENIX」は、文字通り完結編の完結を見据えたような展開で寂しさもひときわ感じる歌でした。
折しも虹ヶ咲 7th Live!が振り返りをコンセプトとしていたことで、法元さんのパフォーマンスと合わせて最も印象に残る一曲になりました。
舞台がお台場から離れた恩恵
もはや病気みたいなものですが、お台場で描かれると、どうしても場所や物語との位置づけが気になってしまいます。
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それが土地勘のない沖縄になったことで、フィルターを挟まずに物語に接せられました。ただ、舞台をまとめることに決めていたので最終的には場所を意識してみることに変わらずでした。それでも、いつもとは逆の正攻法で楽しめてちょっと嬉しかったです。
移動を可視化するのは野暮だったという反省
本作も綿密かつ広範囲にロケハンされていたことが分かります。
登場した舞台を整理するなかで、沖縄での移動を可視化したところ非現実的なムーブが判明したりします。
えいがさき第1章、日別で誰が沖縄のどこへ移動したかメモした資料を作ってあったので、なんか役に立つか解らないけど置いときます。
— ざっかりー (@Zacharylion) October 29, 2024
DAY0は推測&DAY3は前後関係諸説あると思う。
(ステージ中に出る場所はワープしちゃうので割愛してます)#えいがさき #虹ヶ咲めぐり pic.twitter.com/F7lZoFONUm
例えば、ランジュを引き留める為に瀬底島から牧港のA&Wまで移動し、再び備瀬に戻った流れが一例です。1期5話で果林さんをお台場中へ連れ出したエマさんのムーブとはスケールが異なります。
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ただ、移動の非現実性にツッコミを入れるのは野暮なことでした。
そこにリアリティを求めると登場範囲が狭まりますし、テレビアニメシリーズに引き続き、今回も物語×人物×場所を掛け合わせて最適な場所を選んでいるように感じます。
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例え普段からスクールアイドルを限りなくノンフィクションとして捉えていても、そこにフィクション性を与えてしまう(水を差してしまう)ようなことだったのは若干反省点だと感じました。
沖縄の地理感を知れるという意味では、可視化したのは面白い取り組みでした。そして広範囲を描いてくれたことで、沖縄を様々な角度から楽しむことができました。
(一度にほぼ全部回るのはまぁ大変でした)
キャラデザ論争の着地点
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ハイライトになる場面ではけろりらさんが手がけてるように見え、それ以外では横田さんのデザインを踏襲しているカットも多くありました。
その結果を踏まえるに、当初からけろりらさんの作風に寄せきるつもりではなく、要所を押さえて起用したように見えます。
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以前書きましたが、「トラペジウム」もそんな感じでしたね。
とはいえ、エマと天が歌作りする場面が良い例ですが、笑顔や諭すような場面で引き立つ柔らかさは、けろりらさんならではの魅力です。前向きな評価をすれば、沖縄の暖かい気候と表情、そして物語の親和性が非常に高く見えました。
個人的にも虹ヶ咲には様々なキャラクターデザインが存在するため、新章で変更することは挑戦的な取り組みとして楽しみにしていました。(とはいえ、当然アニメから入ってきた方には抵抗感があるものでしょう。)
一方では節々からキャラデザ変更の意図を感じつつも、一方から後ろ向きな評価もするなら、むしろ統一されていない理由が結局よく判らなかったなぁとなりました。(そもそも統一されて然るべきなのかという議論もありますが)
例えば、キービジュアルが公開された時点で制作はかなり進んでいると考えられ、そこから反応を踏まえて手直ししたとは考えにくいです。
まぁ腑に落ちないところはありますが、「新しい虹ちゃんも見どころ多くて可愛いからOKです!」がファイナルアンサーでした。
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終わりに
まだ1作目ながら、新しいニジガクの物語を描いてくれたことに感謝が絶えない作品でした。
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虹ヶ咲から長らく遠ざかっていた競争(ライバル)をテーマに据え、そこに向き合い次へ進んでいく姿を描いてくれました。
かつて行われたマンスリーランキングで不満だったことは、とにかく競争に身を投じられ評価される理不尽なところでした。作品に触れた当初抱いていた残念さに回答をもらったように感じます。
同時に、今回新曲が披露された子達はこうして自分の道を進んでいく...と見送る寂しさみたいなものもあります。今後第2章の子達が競争とどう向き合い、そして同好会の場はどうなっていくのか。
違う個性を同じ土俵に乗せてぶつけた先に、何が待っているのか?
その先がどうなるか分からないけど、進みたい方向へ進み続ける。そんな侑の答えは物語内の人物のみならず、そこを描く作品(制作陣)自身、ひいては視聴者自身にも問いかけられているように感じます。
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思えばPDPが発表されたのは2017年でした。長い付き合いですが、当然考えや環境も変わり、これまで自分がやってきた接し方と向いてる方向性の乖離が強くなってきた1年でした。そんななかで、図らずも第1章が伝えてくるメッセージには背中を押してもらっています。
第2章は2025年冬公開ということで、まだまだ時間があります。
NEXT SKYの感想でも書きましたが、次にスクリーンが上がるまでに自分もここまで進んだよと答えを持って臨みたいですね。
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最後まで読んで頂きありがとうございます。ではでは。
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