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ズボラよ鍋で米を炊け

単身赴任が決定し、ひとり暮らし用に家電を買いそろえる際いちばん思い悩んだのが「炊飯器、どうする?」だった。

そんなの適当に買えばいいでしょ、という話かもしれないけれど。
ご存知ですか、安い炊飯器で炊いた米は、あまりおいしくない。

就職し、初めてのひとり暮らしを開始した際購入した炊飯器は、たしか3,000円程度の安物だった。
炊飯器の値段はどこに出るか。機能の豊富さやデザインにも出るだろうけれど、私の考えるに、いちばんは釜の厚みである。かの炊飯器の内釜は、もはやそれ、アルミホイルでは? というレベルのぺらぺら加減。それで炊いた米は釜の薄さを反映したかのごとく薄っぺらい味で、実家に帰るたびきちんとした炊飯器で炊かれたごはんを食べては「お米、おいしい!!」と咆哮を上げていた。

そんならきちんとしたものを買えばいいじゃないかという話ではあるのだけれど、こちとら他にも洗濯機だの冷蔵庫だのベッドだの照明だのデスクだのなんだのかんだの、無限にものを買わなければならぬ身である。人ひとりが自分の住処を整えるのに、なんとたくさんのモノが要ることか。
そしてそれに比例して、じゃんじゃかお金がかかる。炊飯器にそんな、二万円も三万円もかけている余裕なんてない。単身赴任が解消されても自宅で使えるならまだしも、大阪の本宅にはちゃんとした炊飯器(夫がauのポイントでもらってくれたやつ)があるのだ。

それに、置き場所。

単身用マンションのキッチンは、狭い。
住む予定の住居の間取りは1Kで、居室から玄関に向かう廊下の片側にシステムキッチンが据え付けられている、よくある間取りだ。シンク下と上部に据え付けられた棚のほか収納はなく、当然食器棚なぞを置けるような廊下の幅でもない。冷蔵庫は上にものを置ける仕様のものを選んだけれども、そこには電子レンジを置く予定である。

じゃあ炊飯器はどこに置くのよ。居室か?
実際初めてのひとり暮らしの際は、居室に炊飯器を置いていた。置いていたともさ。

ああ、なぜ炊飯器という家電はあんなにあか抜けない存在なんだろう。居室の片隅に鎮座しているそれが目に入るたびに、テンションが下がっていた記憶がある。またあの暮らしに戻るのか?
別に特段美意識が高いわけでもないくせに炊飯器のフォルムやボタンの色、そこに印字されたフォント(たいてい丸ゴシック。なぜなの)がやや許せない女、それが私。

見えないところにしまっておけばいいと言っても炊飯の際に水蒸気が出るので使うときは出さないといけないし、いちいち出してしまってをできるようなマメな性質でもないし。
今はおしゃれなやつも出てるって? 知ってるよ、The Gohanでしょ。だからさ、そういうのは高価いんだって!

呻吟しているうちにはたと思いだしたのが、いつかの誕生日に母がくれたル・クルーゼの鍋だ。確か、これを使ってご飯を炊くとおいしいと聞いた覚えがある。そのときは「うーん、めんどう」と思って実行したことはなかったのだけれど。
……これで米を炊けば、そもそも炊飯器を買わずに済むのでは?

鍋で米を炊く。そんな、丁寧な暮らしの権化みたいな行いを、このズボラな私ができるのだろうか。なんかほら、水加減とか火加減とか、難しいんじゃないの?
それに保温機能も予約炊飯機能もないし。不便なんじゃないかなあ。

いろいろ不安に思いつつ、まあうまく炊けなければ観念して炊飯器を買えばいいやと思い、4月から鍋炊飯生活を開始した。
そして意外や意外、全く支障なく半年を過ごしている。それどころか、ズボラな性質だからこそ鍋炊飯を覚えてよかった、と感じる瞬間多数だ。

まず、鍋炊飯、思ったより簡単。お米と水を鍋に入れて火に掛け、沸騰したらコンロの火をいちばん弱い火にして10分炊いた後、火を止めてもう10分蒸らすだけ。
所要時間は30分足らず。本宅にある炊飯器の早炊きモードと同じくらいだ。炊き始める前に米を浸水したほうがよいらしいけれど、それも気が向けば……程度でやったりやらなかったり。浸水しない場合も、水を気持ち多めにすればちゃんとおいしく炊ける。

心配だった水加減や火加減は、ル・クルーゼの公式HPに従えば問題なかった。私は少し固めのごはんが好きなので、水の量は少しだけ試行錯誤したかも。公式ページでは米1合に対して水1カップと書かれていて、これでも十分おいしく炊けはしたけれど、私の好みでは米3合に対して水550mlくらいがちょうどよかった。
火加減もかんたん。古の教え(はじめちょろちょろ中ぱっぱ、赤子泣くとも蓋取るな)が頭にあって、難しいもののように感じていたけれど、水が沸騰するまではガンガン強火にかけていいし、沸騰したかどうかがわからなければ蓋を取って確認してもいい。ル・クルーゼ社は吹きこぼれ防止のために内蓋(インナーリッド)の購入を推奨しているが、内蓋なしでも沸騰後に火を小さく小さくしてしまえば別に吹きこぼれない。

そしてズボラ民にとって何より有難いのが、後始末をしやすいこと。

すごく怒られそうなことを告白するのだけれど、私これまで年に何回かは必ず、ご飯を腐らせていたんです。お米を炊いておかずと一緒に食べて、余ったご飯は洗い物のときにでもちゃんと冷蔵なり冷凍なりすればいいものを、「粗熱が取れてからでいいか」なんて後回しにして、そのまま忘れ……というパターン。農家の皆さま、本当に申し訳ありません。

それが鍋で米を炊くようになって解決した。コンロの上にまあまあ大きい鍋が鎮座していると、目立って忘れようがないのだ。
なんなら炊き上がりにそのとき食べる分だけを残して、即座にラップに包むことが多い。炊き立てのごはんを小分けして保冷剤で急冷すれば、食事が終わるころには粗熱が取れている。洗い物のついでにそれを冷凍庫へ放り込めば万事OK、というわけ。

炊飯器に比べて、パーツが単純なのもよい。炊飯器って、内釜だけでなく内蓋とかそれを固定する部品とか、蒸気が出てくるところの蓋とかパッキンとか、地味に部品が多いのだ。ごはんを炊くたびにそれらを全部洗うなんて全然やりたくないけれど、放っておくと雑菌が湧きそうで嫌。あれらはいったいどれくらいの頻度で洗えばよいの。

(今検索したら、下図の①~⑦は毎回洗えと書いてあって衝撃を受けた。そ、そうなの??)

東洋ライスHPより

その点鍋はね、本体とフタだけなのですよ。入り組んだ部分もないから、食器と一緒にスポンジでごしごしやれば間違いなく清潔が保たれるという安心感。なんて安らか。

保温や予約炊飯ができないのも、いざそれなしで生活してみるとどうってことなかった。鋳鉄のぶ厚い鍋なのでちょっとおかずを仕上げているくらいの時間では冷めないし、私の場合3合炊いて小分け冷凍すれば1週間くらいはもつので(3食ぜんぶ米食べるわけじゃないしね)、予約ができないとて困る場面はほぼない。

「鍋で米を炊く」と聞くと反射的に、そんなのマメで家庭的な人でないとできないことだ、と思ってしまっていた。けれど実際は、私のようなズボラの民にこそメリットの多い行為だったようだ。思い切って「炊飯器を買わない」という決断をしてみて、よかったと思う。

あ、利便性に感動しすぎてそのことばかり書いてしまったけれど、もちろん味もおいしいです。「お米が立つ」ってこういうことを言うんだなあ、という感じの、ぴっかり艶々の炊き上がり。重たい蓋をそうっと持ち上げるたび新鮮にうれしくなって、思わずちょいとひとくち頬張ってしまう。

そんなこんなで長い付き合いになりそうな鍋炊飯である。二人暮らしだともしかすると勝手が違うかもしれないけれど(やっぱり保温機能が欲しいってなったりね)、単身赴任が解消されてもできれば続けたいな。

***

私が炊飯に使っているお鍋はこちら。
同じものを買わなくても、普通のお鍋や、もちろん土鍋でもおいしく炊けると思うので、ご興味のある方はぜひ試してみてください。




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