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梅雨の晴れ間の京都旅②
梅雨とは思えないくらいぴかぴかの晴れ間に旅した京都のこと、二日目の話です。
1.朝ごはんを堪能
満腹で幸せに眠り、8時ごろ起床。いそいそと朝食に出かける。今回お世話になった宿は、朝食ブッフェのラインナップで決めたのだった。
触れ込み通りの品ぞろえだった。具がたっぷりのお味噌汁に、みずみずしい生野菜、種類豊富なおばんざい、揚げたての天ぷらまで!
昨日あんなに食べたのにしっかりお腹がすいている、いつもの旅先マジックに感謝しながらむしゃむしゃ食べた。
ありがたかったのが、ホテルのエントランスに無料のコインロッカーが置かれていること。チェックアウト後に観光の予定があるとき、ホテルに荷物を預かってもらうことがあるのだけれど、混雑しているホテルだとそれが少し申し訳なくなるので、遠慮なく預けられる工夫をしてくれているのはすごくうれしい。また泊まりたいな。
2.鉄道博物館で午前を使い切る
引き続きかんかんに晴れた京都市街へ繰り出す。ずっと気になっていた京都鉄道博物館に行くのである。
朝ごはんの腹ごなしがてら、京都駅からそのまま歩くことにする。タキイ種苗の本社を横目に線路沿いを歩き(お花が植わったエントランスと女神のレリーフが素敵)、梅小路公園をつっきる。
博物館の入り口を抜けてすぐの空間に、SLから新幹線まで多彩な「本物の車両」が展示されていてテンションがブチ上がる。中には入れないものが多いけれど、窓から今はなき食堂車、貴賓専用の豪華な寝台列車なんかの様子を見られて楽しい。蒸気機関車の足元の機構に大興奮する。
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屋内の展示室にもリアル車両がいくつも展示されていて、ちびっこも大人も目を輝かせて駆け回っていた。その間を縫うように、鉄道に関するあらゆるものが展示されている。蒸気機構の巨大なレプリカ(ボタンを押すと実際に動く)、おびただしい数の模型たち、日本の鉄道の歴史に関するパネル展示(現存している鉄道会社の裏話なんかが知れて結構面白い)、遮断機や架線、パンタグラフの動くレプリカ、実際に乗り込めるSLの運転室。
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どの展示も面白かったのだけれど、一番気に入ったのは「保全」に関する一角だった。レールのリプレース現場の動画が流れていて、実際に使われる工具の展示と一緒に食い入るように見てしまう。200メートル以上のロングレール(継ぎ目が少ないから電車の振動が抑えられるんだって)を作業者の方があざやかな手さばきで切断し、ねじを取り外し、専用の機械で新しいレールと古いレールをあっという間に入れ替えていく。か、かっこいい。
保全専用の車両がある、というのも初めて知った。線路を走行するだけで様々なデータを集められたり、線路の歪みを補正できたり、バラスト(レールの下の砂利)を掘削できたり! それぞれの車両の模型と一緒に、実際に動いているときの動画を見ることができて、ずんぐりした車両やアームをたくさんくっつけた車両が健気に働いている様に目が離せなくなる。動いているとなんだか生き物みたいに見えるんだよな。
じゃあそういう専用車だけで安全確認が全部完了するのかといえば、2週間に一度、人力での見回りも行われている、という話があったりして。職人技と最新技術の結集、という風情にしびれた。
夢中で見ている後ろを親子連れが通りかかって、お父さんの「そろそろご飯食べに行く?」という問いかけに幼い声が「いまそれどころじゃない!」と答えるのが聞こえた。わかる。
大満足の屋内展示を経て、クライマックスは文化財にもなっている、扇形車庫と転車台のある広場へ。なんで京都に鉄道博物館なんだろう、と思っていたら、これがあるからだったのね。
大きな機関車が、引退した歴戦の戦士の休息、という風情で体をごろりと横たえるさまをパノラマで見られる迫力!!
日差しが強すぎて、車庫の中の暗闇と青空のコントラストにくらくらした。
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今まで生きてきた中ではあまり触れることのなかったジャンルの魅力にどっぷり浸かる数時間だった。時間があればすぐ近くの京都水族館にも寄ろうか、と言っていたのだけれどあえなく断念。昨日からこのパターンばかりだな。
3.鉱石を喰べ、古書を食む
JRに乗って二条駅へ。これも行きたい行きたいと思いながら後回しにしていた、「ウサギノネドコ」の本店へ。
ウサギノネドコを知ったのは、「sola cube」という、透明なアクリルキューブの中に植物の種子や花、鉱石を封じこめたインテリアがきっかけ。植物のはかなさ、造形の美しさが、アートとしてそのまま昇華されている様子に何とも言えず惹かれて、雑貨屋さんなどで見かけるたびに手に取っている。直営店ではそのほかにも素敵な品がたくさん見られるということで、一度行ってみたかったのだ。
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黄成り色の暖簾がかかった小さな引き戸をがらりと開けると、屋号の由来にもなった薄暗く細長い空間のそこここに、きらめく鉱石、ひっそりとした存在感を放つ標本、それらにまつわる書籍がひしめいている。鞄がそれらにぶつからないようそっと押さえて見て回り、とても決めきれなかったのでいったん隣のカフェで休憩することにした。同じくウサギノネドコが運営しているカフェである。
一歩店内に入ると、博物館のように薄暗い隣の店舗とはがらっと雰囲気が変わった、都会的な雰囲気のカフェだった。でも、入ってすぐのところの棚に大きな動物の頭骨が置いてあったり、ガラス製のテーブルの天板の下に鉱石や植物標本が透けて見えていたり、キッチン上の飾り棚にアルマジロの標本が置いてあったりで、世界観は健在。
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朝食をたくさん食べたのであまりお腹が空いておらず、甘いものをお昼ご飯のかわりにお願いする。
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ゼリーやスポンジケーキをたくみに使って本物の鉱石そっくりに仕上げられたお菓子が、おいしくて奇妙できれいで楽しい。
特にカバンサイトは母岩を模したケーキスポンジの着色が迫真すぎて砂岩にしか見えず、フォークに乗せた時の不思議さが群を抜いていた。
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再現度重視のお菓子だと思っていたので味にはあまり期待していなかったのだけれど、どれもしっかりおいしくて二度びっくりする。
カバンサイトはスポンジにしみ込んだ柑橘系のシロップがさわやかで、そこにナッツのカリッとしたアクセントが楽しい。ジルコンは濃厚なガトーショコラと甘酸っぱいドライフルーツの組み合わせ、アメジストはしっかりした葡萄味のゼリーにパンナコッタの優しい甘さが映える。ガーデンクォーツが意外性にあふれていて好きだった。もっちりした食感の、くずもちみたいに透明なゼリーの中に、とろんとした食感のティラミス。
昔から天然石を見ると「飴やゼリーみたいでおいしそう」と思ってしまう性質だったので、今回「鉱石を食べる」という体験ができて、長年の夢を叶えたような気持だった。
2階はギャラリーになっていて、天然石と人工物を組み合わせた展示を行っていた。
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のんびり休憩して、隣の店舗に舞い戻る。何もかもほしかったけれど、結局ウニの骨格標本を二つと、結晶と母岩をモチーフにしたロックケーキを購入。あれこれ集めて、部屋の一角を博物館みたいにしたくなった。
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大満足で二条を後にし、烏丸御池まで地下鉄で移動してふらふら散策。パンを買ったり、薫習館でいろいろな香りを嗅ぎすぎてわけがわからなくなったり。
夕飯の予約の時間が近くなったあたりで、古本屋さんがたくさんあるエリアに迷い込んで大散財する。
中でも仏教専門らしき本屋さんが、新刊・古書入り混じっていて楽しかった。お会計をお願いしようと思ってレジのほうに行くと、すぐそばの天井近くまで高さのある棚に、和綴じの古書が整然と分類されてぎっしり詰まっていた。京極堂じゃん!!
(店構えが素敵すぎてあとから調べたら建築好きの間では有名な書店だった)
4.仕上げの生ビール
歩き疲れて18時、夫おすすめの居酒屋へ滑り込む。
ちょっと癖のある店名に身構えるも(身体によい薄味の食べ物しか出てこなさそう)、メニューを開いた瞬間お店に満幅の信頼を置いてしまう。酒に合う食べ物しか載っていない。「京都」という響きに求める繊細さとお酒にしっかり合うがっつり味が両立する不思議なメニューたち。
一日炎天下のなかを歩いていたので、ビールがここ最近で一番おいしかったことをご報告いたします。
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一日目のブッフェランチのときと同様、食材や調味料の組み合わせに一ひねり入ったメニューが多くて真似したくなる。
豚しゃぶのユッケを頼んだら、カウンターの中のお兄さんが満面の笑みで「それめっちゃご飯ほしくなるやつなんで、白米要るならいつでも言ってくださいね!」と言ったのでちょっと笑った。実体験感。
ほんとに白米のために生まれてきたような味なので、米由来の液体もぐいぐい進んだ。
酔っぱらっても一時間かからずに帰れるご近所旅の有り難さを実感しながら帰宅。
やっぱりちゃんと満喫しようと思うとそれなりの準備が必要と実感した京都旅だった。
観光地に臨むわくわくした気持ちと、近場に足を運ぶときの気軽さのいいとこどりができるよう、精進していきたいなと思う。