変な人 (48)ご近所を走る、二刀流チャリンコおやじ。
二刀流おやじは、自転車に様々な道具を積み、静かに走り去った。
ある週末、近所のコンビニに買い物に出かけ、近くの歩道を歩いていた時のこと。
後ろから自転車がゆっくり走る音が近づき、そして私を追い抜いて行った。
70歳くらいの痩身のおやじが、ゆらゆら揺れるように自転車をこいでいる。
黒いジャージに、長年愛用しているのが一目でわかる、透けるようなペラペラのポロシャツ。
片手には、ゴルフのアイアンが握られている。
自転車のカゴには、ボールが入ったグローブと金属バット。
どこにでもある風景。
休日、近くの広場に出かけ、身体を動かしてきたのだろう。と、ここでふと不思議に思った。
このおやじは、この道具で、何をしたのか。
ゴルフクラブは分かる。
どこか広い場所で素振り。ありがちな日常である。
バット。まあ少々周りに迷惑かもしれないが、広い場所であれば70歳のおやじがバットで素振りをしてはいけないということもない。
ただ、公園で一人バットを振るおやじを想像すると、かなり鬼気迫るものはある。
しかし、かごに入れられたグローブとボールはどう使ったのだろう。
この道具を使って70歳のおやじは、どう身体を動かすのか。
今どき、ボールを当てて跳ね返らせるような立派な壁が設置されている公園はない。
もしや自分で空に向けてボールを投げ、落ちてきた球を自分でキャッチする、あの懐かしい「自分キャッチ」を、このおやじもやっていたということか。それはそれで泣けてくる風景ではあるが。
まさか、公園でキャッチボール仲間と落ち合い、投げ合いを楽しんできたとか。
あるのかなー。
まさか、相手は孤独な少年。少年と老人が公園で親しくなりキャッチボール、なんて、たけしの映画みたいな展開があり得るのか。
でも、そうするとゴルフクラブが余計である。
子どもが来るのを待つ間、ゴルフのスイング。
そして二人でキャッチボール……。だから二刀流。
ちがうな。無理がある。
そんなことを思いながら、ゆっくりと走るおやじの姿を私は見送るばかりなのであった。
おやじよ、正解を教えてくれ!
(つづく)