「生きている兵隊」(4)
以上概要を示したが、内容的に整理すると次の通り。
① 日本兵の残虐行為の記述
女狩りを示唆する兵士の嵌めてきた銀の指輪。「生肉」の隠語。
「捕虜は捕えたら殺せ」。「命令ではなかったがそういう方針が上部から示された」。
下関における逃げ去ろうとする中国兵への攻撃の描写。両岸からの機銃攻撃。止めを刺す駆逐艦。
② 被害者としての中国人の記述
水牛や馬の徴発に抗議する年老いた農婦。抗日中国兵の処刑。
母親の死を嘆き悲しむ若い女の声、苛立つ兵士たち。夜中になって耐えられなくなった平尾が刺殺してしまう。
砂糖を一掴み盗んだ容疑だけで斬首されてしまう徴発された中国人炊事夫。
③ 反戦、平和、聖戦への疑問等を示唆する記述
貨車の窓から垣間見た中国人農夫の働く姿をみて「ここには平和が来ている・・・・」(倉田)。子供たちに手紙を書きながら往時を回想する倉田「それはなんという平和な生活であったろう!」
自らの歌に涙する平尾。戦友が明日の戦死を黙々と期待している気持が悲しい。
死んだ戦友を焼いている平尾。錯乱し始める平尾。大言壮語(戦闘での一番乗り!)することで辛うじて不安を抑える。
兵士たちが心の安らぎを感じるのは、支那人と片言の会話を交わす時であった。
平尾のロマンシズム;「支那4億の民、悠々として古きこと長江のごときだ。・・・
蒋介石が新生活運動で彼らを変えるのは無理だ。同時に、日本がいかに支那全土を占領しようと、彼らを日本流に同化するなど夢の夢のまた夢だ。・・・支那は恐るべきもんだ、ああ、支那は恐るべきもんだ」。
④ その他
北支戦線では徴発には対価が支払われたが、南方では補給が間にあわず略奪に。
従軍僧自ら攻撃に参加。又、宗教の教えに反してでも中国兵を弔わない(疑問に思う連隊長)。
敵国の馬でも憎いのか、扱いが乱暴。役に立たなくなればそのまま放置する描写。
12歳の少女が背後から日本兵を射殺。
南京における敗残中国兵の略奪行為。
敵の死体を集めてきて寒さ除けにする笠原。それに慣れてくる倉田。
倉田少尉は、「重い義務を追うて行動する場合の一つは、目を外した心の状態を身につける」ことで、戦場を是認し心の安定が得られるようになっていく。
繰り込んできた日本人商人。ドル(現地通貨)を買いたたき、上海で、定価で円に換え鞘稼ぎをする実態が描かれる。
勝手に中国人宅を占拠、拠点として商売を始める日本商人。中国人の抗議を無視する態度を見て、敗戦国民の哀れさに平尾は涙する。
上海の酒場で「生きている」実感を有難く感じ取る近藤。生命への執着を感じ始める。戦場に帰って自分の命を大事にしようと思いだした。
中年の召集兵の終戦への期待感。交替への期待を表す駅構内での鉄道警備兵の会話。