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日本詩の芸術性と音楽性(3)-若い詩人の皆さんへ「自由韻文詩のすすめ」-

定型詩でも散文詩でもない「自由な音楽性を持つ詩」を「自由韻文詩」と呼んでその構造(つまり創作法)を一つのシンプルな基本式として提案します。(全10回)
  
     日本詩の芸術性と音楽性(3)


 心なき身にもあはれは知られけり
   しぎ立つ沢の秋の夕暮れ

言うまでもなく西行の代表作ですが、本歌は新古今和歌集の白眉であるだけでなく日本詩歌の最高傑作の一つとも言えるでしょう。

この短い三十一拍に日本語のリズムとメロディーの音楽的技法が存分に駆使されていますが、シンボルとしての言葉の配合・構成から見ても秀逸で、秋の夕暮れの物悲しい静寂の中で飛び立つ鴫の一声が、その映像世界の静けさ寂しさを一層際立たせています。
まさに静寂の中の音楽性と映像性において日本の侘び寂びの精神世界を見事に描き出し、永遠に日本詩歌の読者の心を打ち続ける事でしょう。

Kokoro(3拍)naki(2拍)Minimo(3拍)awarewa(4拍)Shirarekeri(5拍)
Shigitatsu(4拍)Sawano(3拍)Akino(3拍)yuugure(4拍)

このように定型の五七五七七拍を意味も考慮して分解し、現代の我々にも分かり易いように敢えて現代語読みで子音母音をローマ字表記してみると、「各拍の組合せの妙(拍数の穏やかな連続変化)」と「拍と拍を結合する押韻の連鎖」(短詩なので必ずしも隣の拍同士である必要は無い)が見えて来ます。(拍数の表記も見やすいように英数字表記します)

但しこの拍数の分解の仕方については議論の分かれるところでしょうが、ここでは「押韻との関係を考慮して拍数分解を行う」事を基本とします。

先ずリズム構成はどうでしょうか。

初句は通常5拍と数えますが、この歌の場合は押韻効果の上から敢えて初句を3拍と2拍に分解します。
上の句は3拍からスタートして2拍に落としそこから3拍4拍5拍と拍数を増やして歌に勢いをつけて行きます。そして下の句へは上の句最後の第五拍目5拍から下の句頭の4拍3拍へと拍数を減少させ、最後に3拍4拍と復調させます。

歌全体に一貫しているのは、なだらかで穏やかな「2拍」から「5拍」までの拍数の変動、つまりこの歌独自のリズムの変化ですね。

次にメロディーの面も見てみましょう。

この歌の子音と母音は、歌全体を通して頭韻となり脚韻となり、母韻・子韻となって有機的に連携していますが、何と言ってもこの歌のメロディーの特筆は、第五拍目から第七拍目に掛けての子音Sの三連続頭韻であり、そのSの音質によって寂しさ侘しさを強調しています。
また上の句初句頭から現れる k の子韻( k の濁音 g を含む)は歌全体の骨格を引き締め、母韻 i の配置が歌にテンポと歯切れの良さを生み出しています。
そして第二拍目から現れる母音 a の頭韻と母音 o の脚韻も歌全体の連携には有効であり、その他の母音子音含めて構成される全ての拍が有機的に連携し合って見事なメロディーを奏で、o と a と i を全体の主母音としながら、最後にyuugureと u 押韻(拍内押韻)に転調して余韻を残して歌い締めています。

このように穏やかな拍数の変動つまりリズムの変化と各種押韻連鎖によるメロディーの彩りが、この歌の詫び寂びの詩情を音楽的にも見事に整合させ表現し尽くしているのではないでしょうか。

                日本詩の芸術性と音楽性(4)に続く


                   


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