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抜け落ちてた熱量

爪を削っている。
便宜上、私は右手だけ爪が長い。
これはクラシックギターを弾くためである。
我ながら気持ち悪いなぁ、と
思うのだけれど、
背に腹はかえられぬ。

勿論、日常生活においても
なかなか不便なものだ。
例えば
袋ラーメンの火薬などを開ける際
非常に開けづらく感じる。

他にも
細かなシールを貼ったり
豆腐の蓋を剥がしたり
落ちたピックを拾ったり、と
その不便さは多岐にわたる。

でも致し方ない。
たまに加減がわからず掻きすぎて
痛てっ、となることもあるけれど
ギターを弾くためだ。
CDやレコードの熱圧縮バルクなんかは
職人のようにサクサク剥けるではないか。
そう悪い事ばかりでもない。

まあとにかく
爪を削っている。
長すぎは長すぎで良くない。

黙々と爪やすりで
シャッ、シャッと削っていると
先日、別件で紙やすりを使った事を思い出した。

屋内の引き戸、
これの滑りが悪くなったので
そのレールにあたる部分を削ったのだ。
手持ちの紙やすりは2000番代まであったので
数種類のやすりを用意し
意気揚々と削り始めた。

いやー、捨てずに取っといてよかったなー。
過去にエフェクター作りに使ったものの残りが
しまってあったのだ。

まずは100番くらいでいいだろう。
少しずつ、ジャッ、ジャッと削る。
ふむふむ、良い感じだぞ。
だがこれでは効率が悪いな。
と、思いレールの端から端まで
一気にやってやろうと思った。

一番右端に紙やすりをセットし
指をしっかりのせ、
それっ!とレールを滑らせた。


あっっっっちぃ!!!!!

そうだ、私は忘れていた。
何かを大きく削るということは
そこに摩擦熱が生じるのだ。

もう熱すぎて一瞬で心が折れ
紙やすりを丁寧に仕舞い
無言で掃除機をかけ
私はホームセンターへと走り
迷わずレールの滑りが良くなるテープを買いました。

いや、ほんとに忘れてた。
そういえばエフェクターのケース削ってた時も
熱くて大変だったな。

作ったモノの音や塗装の具合、
回路図なんかは薄っすらと覚えていたものの
すっかりと記憶から抜け落ちてました、
摩擦熱。

いやはや
記憶というのはやはり
都合がいいもんだな、
なんて思ったりもしますが
そんなことより摩擦熱。

これは凄いですね。
いとも簡単に人の心をへし折る熱量。
久しぶりに体感しました。
よく考えたら火おこしなんかする時は
この摩擦熱を利用したりしますよね。

熱って言い換えればエネルギーでしょ?
こんな簡単に生み出せるエネルギーがある
ということに、なんだか感心してしまいました。

何にも考えないで虫眼鏡で葉っぱ焦がして
ヘラヘラしたりしてたけど、
思い返せばなんだか凄いことしてたんだな。

そんなことを思いながら
削り終わった爪でギターをポロロンと弾く。
ふむ、いい塩梅である。

私が作った歌たちも
誰かを動かすエネルギーになっていればいいな。
そう願っている。
かつて私が音楽に救われたように
誰かの糧になり得ることを
ただ願うばかりである。

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安野幽汰
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