見出し画像

November diary ~イチョウのはなし~

2024.11.23



学生の頃によく使っていたこの駅に降り立ったのは本当に久しぶりだった。
古びた駅舎の面影は残っているが、券売機や駅名標、トイレやエレベーターなどが新しいものに入れ替わったり塗り替えられたりしている。

11月下旬の朝、晴れていても空気は冷たい。最近喉が乾燥しがちなのでマフラーを巻いて家を出た。まだ時期が早かったのか、家から駅までの間、マフラーを巻いている人は見かけなかった。

土曜日の朝の電車はそれなりに混んでいて、空席の方が少ない。外の景色を眺めるのが好きなので、下りる駅に着くまで開かないと分かっている方の扉近くに立つ。
“あの頃の私たち”を思わせるような年下の女性たちが、並んで座りながら会話を楽しんでいた。はじける笑顔。また友に会いたくなる。

電車を降りて少し歩く。今日はとある検定の受検会場へと向かっていた。休日はテキストとにらめっこばかりしていたので、歩くだけで最高の気分転換になる。
景色に色づいた樹木が増えてきて、秋のステンドグラスに導かれるように通りを進むと、正面がガラス張りの大きい施設にたどり着いた。

去年も同じ時期にここを訪れた。玄関前の広場から建物の側面へとつづくイチョウの木々はどれも大きく立派で、記憶と同じく黄金色にかがやいて美しい。
去年は友人との待ち合わせにこの施設を利用した。ロビーで友人を待つ間、カウンター席に座ってその時の景色や想いをスマホに綴っていた。(後日noteに投稿しました。)


あの日と同じように、ガラス窓に面したカウンター席のひとつに腰かける。すでに座っている人が何人もいる。
辺りを見回すと、カウンター席だけでなく丸や長方形の形をしたソファーにも多くの人が座っていて、ほとんどの人が番号の書かれた小さな紙を手にしていた。
「整理券をお持ちの方は・・・・・・」
向こうでYシャツ姿の男性が声を張り上げている。何か特別なイベントが催されるようだ。
同じ空間にいながら、これからの予定も、見ているものも、考えていることも、私とまるで違う人たちが今だけここに集まって、同じ時間を過ごしている。


バッグから水筒を取り出して、一口飲む。
マフラーは歩いている途中で暑くなり外してしまった。顔はマスクをしているけれど空気に触れていた手指はひんやりしていて、お茶の温かさにほうっと息をはく。
窓の外を見れば白い雲がふたつみっつ青空にただよい、イチョウの葉がそよりと風に吹かれている。旅立つ葉が音もなく地面に落ちて、厚みのある極上の絨毯を作り上げる。

時計を確認すると、会場の集合時間までまだ余裕があった。持ってきたテキストを開く代わりにスマホのメモ画面を開いてこの文章を打つ。(勉強は十分してきた・・・・・・つもり。)
数行書いてふたたび外に視線を向けると、少し強めの風が吹いた。

天使が光の粉をまといながら青空へ飛んでいく、そんな具合に枝から軽やかに離れた黄色い葉たちが光を浴びて高く舞う。

青い空を泳ぐように、時には宙返りしながら、黄色い葉はゆっくりゆっくり遠回りして、たくさんの仲間たちに抱きとめてもらった。


気付くと、2つ隣の席の女性もスマホを操作していた指を止め、顔を上げていた。彼女も舞い散るイチョウに目を奪われているように見える。同じタイミングで、同じものに心を動かされた。その小さな共有が嬉しい。


試験は難しかった。来月の結果を待つのみ。



いいなと思ったら応援しよう!