ポワソンダブリルと春
苺が出る季節に、作りたくなる料理がある。
それがポワソンダブリルだ。
ポワソンダブリルとは、直訳すると「4月の魚」、フランスではエイプリルフールのことを指す。
起源には諸説あるが、
このポワソン(魚)はサバのことを指し、4月になるとサバは面白いように釣れるので、騙される人を容易く釣られてしまうサバに例えてこう呼ぶようになった・・・というのがこのフランス流エイプリルフールの始まりらしい。
4月1日には魚の絵を描いた紙を誰かの背中にこっそり貼るイタズラが許されたり、パティスリーには魚を模ったスイーツが並ぶそう。
私の知っているポワソンダブリルは苺のカスタードパイで、スーパーに並ぶ真っ赤な苺を見ると、どうしてもこのポワソンダブリルを作りたい衝動に駆られてしまうのだ。
ポワソンダブリルのレシピは三好万記子さんのもので「おうちでおまつり気分世界のごはん」というフェリシモのプログラムが出会いだった。
毎月1か国、2パターンのパーティー料理が作れるように8メニューずつレシピが届くプログラムで、普段作らない料理に挑戦できるのが魅力的だった。
スーパーにて。ポワソンダブリルだけを作るつもりで冷凍パイシートと苺を買い物かごに入れると、むくむくとレシピに載っていた他のメニューも作りたい欲が湧き起こる。
よし、今日の夕飯はフレンチにしよう。
スイッチが入ってしまった私は、結局普段買うことのない生クリームや鯛やレモンを買い込んで帰路についたのだった。
本日のメニュー
・ジャガイモと新玉ねぎのポタージュ
・キャロットラペ
・ミモザサラダ
・鯛のポアレ ジャガイモのうろこ仕立て
・ポワソンダブリル
・チョコムース
料理は作業効率が要である。
私は自然と「料理の鉄人」モードに突入した。
帰宅するなり炊飯し、レンジでできるゆで卵器に卵を入れスイッチを押してゆで卵を作っておく。その間子ども達と一緒にスイーツを仕込む。
料理の鉄人であれば、彼らは助手という位置付けであろう。
しかしどっちが生クリームを泡立てたいだの、どっちがパイを魚型に切り抜くかだのでいちいち揉めるので、大幅に時間をとるタイプの助手達である。
なんだかんだでチョコムースとカスタードクリームを作り冷やし、パイ生地を魚型に切り抜いて端をフォークで抑え、卵黄を塗ってオーブンで焼く。
パイ生地がオーブンに入るのを見届けた助手達は満足したようで、何も言わずにキッチンスタジアムを去っていった。
ここからは一人の闘いらしい。
パイを焼く間に野菜を洗い、切り、茹で、下準備をし、鯛に塩を振って置いておき、エビを白ワインと塩で洗って茹でる。
茹で上がったエビを盛り付けておいたサラダの上にのせ、ゆで卵を刻んで振りかける。
パイが焼き上がるまでにキャロットラペの味付けをし、サラダのドレッシングを作る。
パイが焼き上がったら取り出し、下準備しておいた鯛をオーブンで焼く。
パイにカスタードを流し込んだら、半分に切った苺と一緒に食卓に出し、子ども達に鱗状に並べてもらう。
その間洗えるものは全て洗い、あとは鯛が焼き上がる頃に合わせてポタージュに牛乳を加えて温め直すのみという完璧な状態だ。
食卓に料理を並べていくと、娘が感嘆の声をあげた。
「え!ママいつの間にこんなにたくさん作ったの?!」
ありがとう娘よ。密かに一人料理の鉄人を繰り広げていた私にとって、最高の褒め言葉だ。
ポタージュを仕上げ、焼き上がった鯛にレモンを添えて食卓へ。
夫は帰宅が遅いので、夫の分をとりわけておき、3人で食卓を囲んだ。
子ども達はいつもは食べないアスパラガスやベビーリーフをもりもりと食べ、
「レストランみたいで楽しいね」
「ポワソンダブリルだけじゃなくて、このメニュー全部、春につくって食べようよ」
「毎年春がきたら、毎年みんなで作って春が来たパーティーを開こう。そうしよう」
と盛り上がっていた。
確かにいいかもしれない。
毎年同じ季節に、同じメニューの料理を作り、家族で食卓を囲む。
春の記憶と共に、思い出される団欒の風景。
彼らが大人になっても、心の片隅で家族のあたたかな記憶として残ってくれるかしら。
そんなわけで、
毎年春の休日には「春が来たパーティー」を開くことが決まったのであった。