【私小説】#4 彼女と渋谷とオープンマイク
「ねぇ、波瀾万丈な人生を本に書いてみたら?」
渋谷のバーのカウンター席で、ビールジョッキを傾けながら彼女は言った。
彼女とは、かつて親子関係だった。
彼女は父の三番目の奥さんで、父と離婚しても私達三姉妹とは時々近況報告をし合い、年に一度は飲む仲なのだ。
今日も三女は欠席で、次女はこの店のオープンマイクで弾き語りをするため準備で控えている。
しばらくの間、私と彼女の二人で飲みながら次女の出番を待っていた。
彼女が母親だったのは高校入学から五年間だが、小学校中学年の頃から父の