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私小説

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ゆずる私小説まとめ。
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【私小説】#4 彼女と渋谷とオープンマイク

【私小説】#4 彼女と渋谷とオープンマイク

「ねぇ、波瀾万丈な人生を本に書いてみたら?」
渋谷のバーのカウンター席で、ビールジョッキを傾けながら彼女は言った。

彼女とは、かつて親子関係だった。
彼女は父の三番目の奥さんで、父と離婚しても私達三姉妹とは時々近況報告をし合い、年に一度は飲む仲なのだ。
今日も三女は欠席で、次女はこの店のオープンマイクで弾き語りをするため準備で控えている。
しばらくの間、私と彼女の二人で飲みながら次女の出番を待っ

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【私小説】#3 サンタブーツ

【私小説】#3 サンタブーツ

子供の頃クリスマスの朝には決まって枕元にサンタブーツが置いてあった。

サンタブーツの片方にお菓子が詰め合わせてあり、11月末のスーパーの特設コーナーで山のように陳列されているあれだ。

クリスマスイブの夜子供達が寝静まると、父はサンタのようにそっと忍び込んで、枕元にサンタブーツを置くのだった。

両親が3歳の頃に離婚して父方の祖父母に引き取られてから、父は時々祖父母の家に顔を出した。
私が幼稚園

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【私小説】#2 合体ホールケーキ

【私小説】#2 合体ホールケーキ

子供の頃、クリスマスケーキに特別感はなかった。
三姉妹のうち二人が12月生まれのため、クリスマスには二人分の誕生日ケーキとクリスマスケーキが合体してひとつのケーキでお祝いをするのが習わしだった。

三つのイベントを一つのケーキにドッキングされ、複雑な心持ちだった。

生活拠点を別に持ち、たまにしか帰ってこない父がホールケーキを用意して持ってくる役割だった。

「買ってきたぞ」

そう言って手渡し、

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【私小説】#1 鵺と恐竜と私たち

【私小説】#1 鵺と恐竜と私たち

11月末。
私たちは数年ぶりに都内の中華料理店に集った。

実の三姉妹のうち、長女である私と次女。そして、かつて継母だった彼女の3人だ。

彼女は父の3番目の奥さんだった。彼女と父が離婚してからもう15年経つが、離婚をしてからも三姉妹と彼女の4人で飲みに出かける仲だった。
しかし新型コロナ騒動があり、ここ数年会わずにいた。今日は久々の集まりである。

近況報告を一通り済ませた後、彼女が中座した。

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