虎に翼 第121回 理想はうざがられる
くたびれた口調で「雀荘で週に二回ほど働くことにしたから」という優未。わかったわ、と空元気っぽく応じる寅子と、そんな寅子を見ながら「……なるほど(納得していないふう)」とグラスを片手に言う航一。
昭和45年、働く女性は増えていたとはいえまだ少数派で、何者でもない娘が就職するにしても職種は限られていたうえ、キャリアを築く、もしくはお金を稼ぐ前提での人生設計を実現できる人は多くなかった。
のどかが結婚して、その結婚はもしかすると寅子が「社会的に認められるための方便として決めた一度目の結婚」と同じくらい、異色のものであったかもしれないのだが、それでもいちおう星家の長女は独立して家を出て行った。子どもたちの中で、優未だけがいまだに実家住まいのすねかじりの身の上なのだ。笹竹で雇ってもらったというのも、裁判官の両親の目からすると、実家住まいだからどうにか成立する「小遣い稼ぎ」のように見えてしまうのだろう。
見守るしかない、とトラ子が不安を押し隠したところへ、朋一がやってきて新しい辞令のことを報告。自分の家に戻って妻にそのことを告げるよりさきに同業先輩である父に話しに来た口調は硬い。「息子はとても優秀」と父である航一が断言する程度にはエリートとしての道を進んでいたはずの朋一にとって、左遷としか思えない人事だったのだ。
背景はわかりやすい。
与党幹事長である寒河江が桂場のところへ押しかけてきて、司法の公正が揺らいでいるのでは、と対決口調であれこれ言った場面。要は政治家の目からすると「おまえらうぜーんだよ(すいません言い方!)」という、自分の出身選挙区の名士から苦情がきたら、それをいちばん相手に恩を売るかたちで解決してみせるのが政治家のおしごとなのだから、必要に応じて、各所に圧力をかけてみせるのも自然な流れ。その時、少年法をどうにかしろという苦情にあわせて、若手裁判官で傾いた思想の者が多いという話も聞く、と。
政治家が司法に介入してくることを何よりも嫌う桂場が、汐見さんに向かって「つけいる隙を与えなければいいのだ」と言った、その「隙」をなくすために、青くさい理想を振りかざす、なまじ優秀なゆえに小うるさい若手をまとめて左遷させた。大雑把には、そういうことらしい。
職に就く。リクルートする側は、ともかく優秀な若者を選ぶことに血道をあげがち(というイメージ)だが、いったん新人として育成するとなると、思想とか理想とか文句言わずに機械のように使い勝手がいい「人材」ばかりをほしがるんだよね。
まったくもう。