虎に翼 第125回 膝枕で胡蝶の夢?
鼻血を噴いた航一(役名・星航一、岡田将生)、等一郎(役名・桂場等一郎、松山ケンイチ)に膝枕で介抱されるの回。
尊属殺を扱うのは時期尚早だと言われ、なるほどわかりました、といったんはのみこんだものの、いや、やっぱりわかりません(どんっ!と調査書類の束を桂場の机に置く)、時期尚早とはどういうことでしょうか、と問うた航一。
機械的に桂場、第122回で寅子に向かって若手判事の人事で大鉈をふるった件での言い訳「政治家たちが難癖をつけてくる格好の隙になる」をほんの少しバージョンアップしただけの言葉を連ねる。そのとき寅子は「純度の低い正論は響かない」と、かつての桂場自身が言った金言をブーメラン返しにしたが、航一は「法は法、道徳は道徳」と、やはりかつて穂高が尊属殺に反対票を投じたときの意見書からの言葉を引いてみせた。
それに対し「人は間違う。だから法について考えるときは万全な時を選ばねばならない」と言う桂場に、航一は「たとえどんな結果になろうとも判決文は残る。人権蹂躙から目をそらすことの、何が、司法の独立ですか」とひとことごとに急激トーンアップして激昂。鮮烈にして濃密なシーンでした。
長官の「部下のかた」に呼ばれて駆けつけ、膝枕のふたりに「はて?」となる寅子に「開口一番それかっ!」と桂場。←わだかまりが一瞬で蒸発している。
航一さん、と声をかけながら表情筋を不自然に動かしてしまう寅子。それを膝枕の上から見おろす桂場の顔が、カメラに映っていないからこそ、どんな渋面か、はたまた誰も知らない困ったデレ顔かと、つい想像してしまう演出の余白w 実際、寅子が向きなおった時点ではかなりの、ほころびだらけの渋面でした。航一が鼻血を噴いた瞬間に至るまでの桂場の顔面アップも、素晴らしく表情がわかりやすく、つい見惚れました。
「桂場さんは若き判事たちに取り返しのつかない大きな傷を残しました。私は彼らには許さず恨む権利があると思う」は、おそらく穂高教授への花束授与拒絶事件の再現だな。と思ったら、すぐ「何を君はガキのような青くさいことをと返す桂場。そういえばこのひと、あの穂高の引退祝いの会場の横で「ガキっ!」と寅子を叱りつけたっけね。
「法律を知った頃の若い自分」は、つまり寅子が桂場と出会ったころか。穂高より先に桂場に声をかけられたんだものね。優三さんにお弁当を届けにきた夜学の講義で。「でも、どの私も私」は、明律で梅子さんが花岡に言った台詞の再現だしね。
「さすが桂場さん」と、まるで穂高が興亜事件の判決文を書いた桂場を労ったときの記憶を辿るような。穂高に認めてもらってよほど嬉しかったか、あまり飲めないのにウイスキーを呷って、汚い足で踏みこんでくる政治家どもめ、とか、あの猪爪とかいう小娘だって何もわかっちゃいないくせに、と腰を振るダンスもどきを踊っていたんだよね。なんだか切ないなあ。
ここまで読んでくださってありがとうございます。
虎に翼も、残りあと5話です。
特に寅子たちが東京に戻ってきてからは、ぎゅーっと濃縮された人間描写やリーガルドラマが並行して進み、何度か「サイコーに面白いのは間違いないけど、こんなに内容を把握するのが大変だなんてどういうこと?」と自分の飲み込みの悪さ(まーね、頭悪いと言ってしまえばそうなんだけど)にがっくりする連続でした。でも、どこを切り取っても凄まじい吸引力で、スルメなみに噛めば噛むほど味が深くなる。
すごい作品だと思う。
こんなドラマをリアルタイムで体験できて本当に幸せだと……いや、幸せかどうかはあとになってみないとわかんないかもですが。こんな、見たこともないような風景を体験させてくれてありがとう。