映画「ボレロ 永遠の旋律」
この夏の間、何かのきっかけがあり、
ラヴェルの名曲ボレロが頭の中を流れていることが
よくあった。
それなのに、映画「ボレロ 永遠の旋律」が
8月上旬から上映されていることをずっと
知らなかった。
9月に入って初めてこの映画の存在を知り、
是非鑑賞したいと映画館へ向かった。
私がボレロを聴いて初めて感動したのは、昔
フィギュアスケートのペアでヨーロッパ人選手が
ボレロの曲に合わせて演技していたのを
見た時だった。
単調な曲なのに、なぜ心を揺さぶられるのか
不思議に思ったことを覚えている。
フィギュア選手もメダリストで素晴らしい演技
だったということもある。
作曲家ラヴェルの最高傑作とされているボレロは
同じリズムの繰り返しが続き、最初から最後まで
17分間のゆるやかなクレシェンドが続き、
カタルシスとも思われる最後で締めくくられ、
多くの人に聞き覚えがあると思われる曲だが、
映画はその曲の成り立ちとラヴェルの晩年が
描かれていた。
モーリス・ラヴェルの母親はスペインとの国境近くの
バスクの村で生まれ育ち、ラヴェルもまたそこで
生まれ、その後パリで育った。
父親はスイス出身で、音楽への興味は強かったが
エンジニアとしての道を選んだ人だった。
母親がバスク出身、父親が機械の専門家であることが
ラベルの音楽に、特にボレロに大きな影響を
与えたことを興味深く思った。
ラヴェルはある日、人気ダンサーの
イダ・ルビンシュタインから新作バレエの
ための曲を依頼されたが、なかなかアイデアが
思い浮かばない日々が続く。
そのうち、同じリズムで動き続ける工場の
機械音からインスピレーションを得たり、
スペインの音楽「バレンシア」からヒントを得たりで、
ボレロという曲は、ラヴェルの先祖から
受け継がれたものも手伝って作曲されたように
私は思いを巡らせてしまうが、それは
日本人らしい発想なのかなと思う。
またラヴェルは第一次世界大戦時に、
虚弱体質で兵役免除だったにもかかわらず、
自ら従軍を志願したが、結局、運転手の
仕事しか与えられず、自身の不甲斐なさに
苦しんだということに、ラヴェルの人間性が
表れていると思う。有事において、自分の
ことより他を優先する心。
ラヴェルは生涯独身だったが、母親をはじめ
周りには親しく心を通わせる女性たちの
存在があった。そんな中でも夫とは不仲である
美しい女性ミシルとの純愛とも思える悲しくも
美しい関係がこの映画に恋愛の要素を与えていた。
ラヴェルにとっては淡いけれども深い愛。
そして寂しさを紛らわすための娼婦との
これまた淡い関係で、その癒しの時間に
救われていた。
ミシル演じる女優さんには魅力的な大人の
美しさがあり、この時代の裕福な女性が纏う
洋服が素敵で、そこにも目を奪われた。
ラヴェル自身、どのようなセクシュアリティ
の人なのか謎であるが、そんなことは
どうでもいいと思える。
他に、ピアニストのマルグリット・ロンや
家政婦の女性とのやり取りも心が通っていて、
良き男性の友人もいて、様々な試練は
あったものの、心が通じる人々に恵まれていた
ことは幸せだったように思う。
映画の中でも、ボレロの演奏をフルで
3回ぐらい聴くことができて素晴らしかった♪
ボレロが完成し、バレエダンサーの踊りに
合わせて初めて演奏された時、ラヴェルは激怒する。
踊りがあまりにも官能的過ぎたからだ。
ラヴェル自身は、工場の機械のイメージで
作曲したというのに、思いもよらない表現だった。
私自身、ボレロが頭の中で流れているときは
機械的に休むことなく体が動き続けるので、
家事がはかどる感じがしている。
というのは余談でした。
でも音楽鑑賞としてじっくり聴いていると、
やはり曲が進むにつれ、心が波打つのを感じ、
最後は感無量の境地に至る、その後の
一つの人生が終わったかのような静けさ。
いつか生演奏で聴いてみたい。
心を打つ芸樹は、作者が意図していなくても
官能性がその中に流れていて、浮き上がり
人々の心を揺さぶるのだと思う。
映画はボレロが完成して終わりではなく
続きがある。ラヴェルの病気のことは、
実は夏にYouTubeで見て知っていたので
(その動画は映画とは関係なく)、
その時はなんとも悲しい思いでジーンとしたが、
映画では、知ってるしと思って冷静に見てしまった。
また、監督の熱意により、ラヴェルが晩年に過ごした
家がロケに使われたことを後で知った。
そのような前知識なく鑑賞したので、知っていたら
もっと感慨深く観れたかもと思う。
ラヴェルの曲と言えば、私は実は
「ボレロ」と「亡き王女のためのパヴァーヌ」
しか知らなくて、映画を観てから
他の曲も聴くようになった。
モダンで浮世離れしたような音楽という印象で、
流れるような自由さがあり、現実から離れて、
柔らかなベールの向こうに連れて行ってくれるような
感じが、今の私には好み。
最近知った「マ・メール・ロワ」も好きになった。
映画なので、すべてが実話ということではなく
史実から想像して作られたエピソードもある
みたいだが、ラヴェルがどのような人であったかを
垣間見ることができ、また謎は謎のままでよかった。
私は個人的に、20世紀初頭から半ばぐらいの
時代背景のヨーロッパの映画に惹かれる傾向が
あり、勝手に懐かしい気持ちになるので、
この映画の世界にも入り込めて楽しめた。
映像も美しく、ディーテイルの小物も印象的
だったりして、芸術作品として楽しめる映画だった。
ボレロは今も世界のどこかで15分ごとに演奏されている
と言われている。
冒頭では世界各地でジャズなど様々にアレンジされた
演奏を見ることができ、エンディングのオーケストラと
突然現れたダンスもこれまた素晴らしかった。
ヘッダーの写真は映画館を出てから
撮ったものです。