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【経営メモ】組織とリーダーシップについて

組織とリーダーシップというと、経営論の王道的テーマであるが、今日は、私が実際に経験してきた目線から書いてみたい。


1. 強い経営陣とは

組織論については、数多くの文献がだされているが、最も有名なのは、ジム・コリンズ氏の「ビジョナリー・カンパニー2」の一説ではないだろうか。

偉大な企業への飛躍をもたらした経営者は、まずはじめにバスの目的地を決め、つぎに目的地までの旅をともにする人々をバスに乗せる方法をとったわけではない。
まずはじめに、適切な人をバスに乗せ、不適切な人をバスから降ろし、その後にどこに向かうべきかを決めている。

「ビジョナリー・カンパニー2」

更に、この本には、もう1つ組織に関する重要なセンテンスがある。

組織の最上層部については、適切な人材がみつかるまで雇用しない規律を絶対に守らなければならない。
偉大な企業への道を歩むとき、最大の損害を及ぼす誤りは、不適切な人を主要なポストにつけることである。
「適切な人材」の意味を見直し、個人の人格をもっと重視し、専門知識への偏重をあらためていくべきだ。
技術は学べるし、知識は獲得できるが、その組織に適した基本的な性格は学ぶことができない。

「ビジョナリー・カンパニー2」

これは、「功ある者には禄を与えよ、徳あるものには地位を与えよ」という書経(約2000年前に書かれた中国の古典)と全く同じ意見である。

経営陣は、人格・人徳・価値観(=「会社のパーパス」に共感する)で人を選ぶべきである。よくあるのが、会社が苦しい時に大きな売り上げを作った営業担当を、その人徳・価値観を確認することなく、出世させてしまうことである。書経には、そういう場合は、報償やボーナスで大きく報いるべきで、地位は与えてはいけないと警笛を鳴らしている。

これが、組織論の根幹であると思う。
経営陣が適格な人達で固められていれば、いろいろな困難に遭遇することがあっても、それを乗り越えて会社は長期に繫栄できる。

経営陣に1人でも不適格者がいる場合、それは、「ドベネクの桶理論」により、経営レベル全体がその不適格者の位置まで下がってしまうということになる。

ドベネクの桶。(図はtauraus.agのhome pageより)


このため、不適切な人には、大きなリソースをかけてでも、バスから下りてもらう必要がある。マネジメント層でボタンを付け違えると、それを修正するのには、膨大なリソースが必要となる。

特に、不適切な人が、とても真面目で性格がよく、長年会社に勤めてくれているとなると、情もでてきて、かなり難しい判断をすることになる。
そこを、日和らずに、腰を落とし正面から構えて、無礼のないような形で当事者との会話を深め、相互理解に持っていくというのが、社長の仕事ということになる。
(大事な案件の時は腰を落として、正面から対処をしないと、場合によっては大怪我をする)

2. 「ビジョン型」リーダーシップの必要性

経営陣についてみてきたが、次は組織とリーダーシップについてみてみたい。
リーダーシップスタイルとその組織の関係については、EQ(情緒指数)を広めたダニエル・ゴールマンの「6つのリーダーシップ」が著名である。

EQ リーダーシップ by ダニエル・ゴールマン

一般には、会社創立期は、強制型か率先垂範型が多いとされ。
組織にキーパーソンが揃い、成熟してくると、「コーチ型」や「ビジョン型」に移行していくのがよいとされてきた。

とりわけ、経済が単純に真っ直ぐに右肩上がりに成長し、給与が毎年大きく増え、個人が家、車、大型家電、海外旅行など、その消費を大きくすることで幸せを感じていた時代は、売り上げ至上主義の「強制型」や、社員全員にハードワークを強いるタイプの「率先垂範型」が多くみられた。

ところが時代が直線的な成長から、不確かなVUCAの時代に移ってきた。
変化が早く、不確実性が高く、過去の成功例が当てはまらないケースが増えてくるかなで、前線の社員の動きが重要度を増し、更には、新しい考え方を持つ若い世代の知見や発想がより必要となっている。
そういった環境変化の中、今、「ビジョン型」のリーダーシップと組織が必要とされているのである。

3.「ビジョン型のリーダーシップ」と「マイクロマネジメント」

これまでの日本の価値観や、多くの著名な経営者が「マイクロマネジメント」で成功を収めたことから、日本では、「マイクロマネジメント」をベースにした、「強制型」や「率先垂範型」のリーダシップが多く見られる。

経営の神様の稲盛さん、日本電産の永守さん、元セブンイレブン会長の鈴木さん。
いずれも、「マイクロマネジメント」で成果を出した名経営者である。

ちなみに、マイクロマネジメントをぐぐると、
「マイクロマネジメントとは、上司やリーダーが部下に対して細かすぎる管理をするなど、過干渉を意味する間違ったマネジメント手法です。
マイクロマネジメントは、社内の人間関係を崩す要因の1つとして、危険視する企業も増えています。」

とでてくる。

幾つか、稲盛さんが「マイクロマネジメント」について語る文章を掲載する。

社長が400人という社員を心血注いで見なくてはならないのです。そのためには、社長が自らその組織の中に入っていく。つまり、会議などにもすべて出ていくのです。

トップが現場を知り、知ったうえでガンガン追及し始めると、今度は社員と社長との人間関係がささくれ立って、雰囲気もギスギスしてきます
しかし、そういうことに同情していては、経営になりません。

結局のところ、トップ自身が現場をよく分かっていないとダメなのです。わかって厳しい追及しているから、毎日の朝礼で昨日の結果を発表したら、効き目があるのです。そういう追及がされていないのに朝礼で話をしても、それはただ意味のわからないお経を誰かが読んでいるみたいなもので、何もならない。

「人を生かす」稲盛和夫

社長の「マイクロマネジメント」を短絡的に、良いか悪いかを決めつけることは、当然できない。

会社の業績状況や、業界の種類、さらには、時代の流れ、会社の文化などにより、「マイクロマネジメント」でパフォーマンスがでて、社員の幸福につながったり。はたまた、社員の不満が貯まり、パフォーマンスが落ちたり、組織崩壊になったり、ケースバイケースである。

世界の働き方と比べると、日本の働き方は「マイクロマネジメント型」であり、欧米は「マクロ型」が多い。
そもそも日本は、業務内容が細かいために、チェックできる項目が多いとも言える。

話しをややこしくしてしまうが、最近Airbnbの創業者が講演で、「賢い人マネジメント層を雇って、仕事を分類して任せるよりも、自分1人でマイクロマネジメントした方が経営が上手くいく」というコメントもあったりする。

社長に圧倒的な能力がある場合は、マイクロマネジメントによる「強制型」「率先垂範型」でVUCAの時代を乗り切ることができるかもしれない。
しかし、多くの組織にこれから必要となるのは、「パーパス経営」であり、「ビジョン型」のリーダーシップと組織である。

4. 「Management by walking around」という手法

日々売り上げを追いかけて、経営を行っている社長が、いきなり「強制型」や「率先垂範型」のマイクロマネジメントから「ビジョン型」に移行するのは簡単ではない。

私のお勧めは、会社にとって肝心なところ、毎月の利益分析、業績の悪い部門、オペレーションの質が落ちている部門に関しては、がっちり「マイクロマネジメント」を行う。

それこそ、その関連の会議にはどんどんでていく。若しくは、自分主催の会議を開く。
疑問があればストレートに発表者の上司に向けて質問をする。その場で要領を得ない場合は、後で私に必ず報告い来るようにお願いする。

一方、業績がよいもの、オペレーションが安定している部門に関しては、私は、「Management by walking around」というスタイルを取る。

安定した部署の会議もinvitationは、入れてもらっておくが、私は参加したり、しなかったり。若しくは遅れて参加したり、途中退席したり。
要するに、社長はふらっと参加するという雰囲気にしておく。

そして、会議中に意見を言う時には、直接指示を出すような意見をなるべく言わず、後で皆で相談してみてという感じにする。(私への相談結果報告は不要ということ。)

「マイクロマネジメント」と、「management by walking around」を組み合わせる事により、稲盛和夫さんの熱い経営と、社員の自主性を保つというのが私の戦法であった。

私の行った「management by walking around」の具体例は以下の通りである。

私の海外販売子会社は、カメラ製品をカメラ専門店に販売していたが、自社でも直営店を5店舗持っていた。私は本社勤務の直営店課長やその上司の部長と同行することなく、自分の時間のある時に、ふらりと直営店を訪問する。

店頭は、お客様がカメラを手にとって自由に試し撮りができるように設計されている。ところが、いざ私が店頭で試してみると、カメラ本体にバッテリーが装着されていないために、写真を撮ることができない。

こういう時に、店長/店員を呼びつけて、「バッテリーが入っていないじゃないか、今すぐバッテリーを入れなさい」とか言ってはいけない。
Management by walking around」の時は、極力直接指示/命令になる発言はしないのがポイントとなる。

この場合は、まず「どうして、バッテリーを入れていないの?」と聞く。
すると店長が「最近、バッテリーが盗まれるケースが起きているので、バッテリーはレジの横に置くことにして、お客さんから要求があった時に、店員がバッテリーを持っていくことにしています」と答える。

私の頭の中には、直営店1店舗のコスト4,000万円/年が頭に浮かぶ。
電池のコスト3,000円の盗難を防ぐために、貴重なお客さんのブランド体験を逃しているのは、もったいない。しかし、敢えて、それを店長にそのままは言わない。

店長/店員には、直営店は、お客様にブランドを体験してもらうとても大切な場所であること。
そのためにメーカーである我々がコストをかけてわざわざお店を持っていることを伝える。

バッテリーの盗難を防ぐのも大切な事だけど、顧客のブランド体験も大切なので、次のweekly meetingで部長/課長と、この件を議論してみて、とお願いする。

そうすることによって、私が忙しく全てのお店を回って、直接指導する必要がなくなる。
直営店部隊の人たちが自分達で議論をして、多少盗まれる事があっても、顧客のブランド体験を優先して、バッテリーを常に装着するということになる。

「Management by walking around」で、私は現場で起きていることを自分の目で直接確認することができ、部長や課長は単に指示を受けるのでなく、自分達で考えるということになる。

ちなみに、今回のバッテリーの件は、私が台湾で働いていた時の実話だ。
最終的には直営店部隊は、なんと、カメラ本体に装着できる、バッテリーの盗難を防ぐ器具(簡単なプラスチックでできたもの)を自作して対応した。

そしてその留め具は、台湾に留まらず、日本、マレーシア、韓国など他国の直営店でも活用されることになった。
あの日、「マイクロマネジメント」で延髄から、「すぐバッテリーを入れなさい」と直接指示をしなくてよかった。
私の頭では、盗難を防ぐ器具を作るというアイディアは全く出てこなかった。

ソニーという会社は、そのパーパスやビジョンが分かり易く、それに共感を持った社員が多く働いている。
とてもよい土台があるので、「management by walking around」が実行しやすいのもしれないが、機会があればぜひ活用して頂けたらと思う。


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