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【経営メモ】契約書のマネジメントについて
今回は、契約書のマネジメントについて書いてみようと思う。
1. 転ばぬ先の杖としての、契約書のマネジメント
社長が契約書に関して、何か特別に首を突っ込む必要があるのか? と思った社長の方は、運のよい、恵まれた会社経営をされている可能性が高い。契約書が一番スポットライトを浴びる時、それは、会社が何かトラブルを抱えた時である。
例えば、販売代理店と揉めて、ビジネスを止めようとする時、顧客の支払い遅延がひどく契約を解消したい場合、突然事務所の大家から退去を通告された時、顧客管理システムの保守契約が切れ、OSのup dateに多額の費用を請求された時などなど。。。
ビジネスやオペレーションがスムーズに回っている時は、契約書を見返すことはない。一旦トラブルが発生して、相手方と、ある意味、大喧嘩のような状態になった時に、慌てて契約書を引っ張り出してきて細かくみる、法律専門家にその解釈を確認する、いうことになる。
契約書とは、そもそもそういうものである、もうこれ以上議論しても埒(らち)が明かないと言う時に、契約書に基づいて片を付けようとなる。
会社がトラブる度に、社長というのは、契約書に詳しくなっていくのと同時に、転ばぬ先の杖として、契約書のマネジメントを真剣に考えるようになるものである。
2. 契約書で重要となるキーポイント
1. 契約書のサイン権は基本社長のみ
契約書のマネジメントで、まず大事なのは、契約書にサインする権限は、社長オンリーとすることである。ある程度の規模のある会社では、営業関連の契約は営業部長が、システム開発関連の契約はIS部長が、というように、権限移譲されている場合があるが、契約書は場合によっては、会社の運命を左右するので、サイナー(サインをする人)は極力、社長一人とするべきである。
よくある事故のケース。社長が知らぬところで、営業部長が顧客へのリベート契約にサイン。営業部長が退職後の年度末になって、顧客から請求されて、慌てるケース。法務担当のチェック無しで、営業部長が勝手にサインしていたとなると、コンプライアンス違反で、営業部長の過失責任を問うことができるかもしれない。
しかし、実際にトラブルが起きるケースは、法務的なチェックはちゃんと行われているケースである。しかしながら、法務チェックの際には、ビジネスディールの内容に関しては、法務担当はあずかり知らず、契約書の文言などのチェックのみをしているというパターンである。
本気で会社を不用なリスクに晒すことなく、守るというのであれば、契約書のサイン権限は、社長オンリーにするのが理想である。
若しくは、DOA(権限移譲)の設定と運用を厳格にできる仕組みが作れれば、契約内容により、サイナーを替えることができる。そして、それに合わせて、決済者も異なるというような管理も理論上は可能であるが、オペレーションが複雑化し、形骸化しやすい。
会社の規模が数百人程度であれば、契約書のサイン権限は社長というのがシンプルで、最も安全である。
2. 契約書のテンプレート化
契約書のサイン権限は社長のみを原則とするといったが、契約書の中には、それほど重要度のないものがあるのも実情だ。守秘義務の契約書、単発の販売契約、サンプル販売契約など、内容がシンプルで頻度が多いものは、契約書のテンプレートを作ることがお勧めだ。
DOA(権限移譲管理リスト)を作成し、テンプレート化できる一般的な契約内容に関しては、サイン権を移譲すればよい。例えば守秘義務は、管理部長がサインできるとか、サンプル販売は営業部長ができるなど、定めればよい。
3. 契約期間は1年が理想/経費管理の観点から
何の契約をするにも、契約期間と契約条件は、必ず社長の目で確認にするのがよい。契約期間に関しては、1年間が理想。長期に渡る内容だとしても、1年契約とし、双方の合意に基づいて更に1年延長するという内容にしておくのがよい。こうすることにより、長期間に渡る契約書も、1年に一度、延長契約作業の時に、社長がその内容を確認することができる。
こうしておくと、経費管理の際にとても役立つ。こちらがサービスに対してお金を払うような契約で自動延長などにされていると、毎月あるいは毎年お金を払っているが、その支払い内容を社長が見る機会がなくなる。
-契約は基本1年契約
-双方同意で1年延長
-サインは社長しかできない
としておくと、社長は一年に一度はそういう経費を確認することができる。もし、現契約の支払いが高いと思えば、契約が切れる頃を見計らって相見積もりを取るようなactionが取れる。
4. 契約期間は1年が理想/ビジネス停止に備えて
更に、1年契約しておいて、よかったとなるケースに、販売代理店や顧客との関係が壊れた場合に、容易にexitできるということがある。販売代理店が思うように機能しないので、直接販売に変更したいとか、別の販売代理店に依頼したいなどのケース。更にはBtoB等の顧客で、会社の戦略として別の顧客にフォーカスすることとなり、現行の顧客との取引を止めたい場合など。
1年間の契約期間にしておき、無条件で単純に契約を延長しませんとすれば、トラブらずに、スムーズにビジネスを止めることができる。
但し、契約書は基本、相互に対等となっていなければならない(対等原則)ので、1年契約の場合は、こちら側が1年で契約を切ることができる代わりに、相手からも、同じようにされるということを忘れてはいけない。
5. 契約解除項目について
更に契約書の中で重要なものに「契約解除項目」がある。これも社長自らが確認した方がよい。
先ほど例としてあげた、販売代理店が思うように機能しないケース。話が本当にこじれて、もうどうしょうもないということになった場合は、1年契約の期限切れを待ってビジネスを止めるという選択になる。
本来であれば、販売代理店にやってもらいた仕事(役務)を契約解除項目として、契約書に載せておくのがよい。そうすることにより、相手側に対して、「契約書に謳っている通りの業務をしっかりとしてくれないと、契約解除になりますよ」、と、交渉のプレッシャーとして活用することができる。
しかしながら、本当に関係がこじれたしまった時は、「やった、やらない」の水掛け論に発展して、法律的な争議をするのにも、時間とリソースがかかるため、1年契約の期限切れを待つことが多い。
3. 代理店契約
販売契約の中で、代理店契約には特別な注意を払った方がよい。私の経験では、揉めることが多いのは、代理店契約である。自分の会社の商品やサービスの拡販を急ぐあまり、あせって販売代理店契約を結んではいけない。
ここでボタンを付け違えると、その修復には莫大なリソースと時間が必要となる。販売代理店との契約においては、以下の項目を詳細に確認した方がよい。
販売するエリアを明確にする
当たり前だが、販売するエリアを明確にしておく必要がある。酷い代理店になると、勝手に世界中に販売するかもしれない。
On-lineでの販売を明確にする
商品やサービス、目指す市場等によるが、代理店がOn-lineでの実売をしてもよいかどうかは、検討した上でハッキリさせておいた方がよい。
(国にもよるが、多くの国において、販売契約時にOn-lineでの販売を禁止する条件は通常入れることができない。その場合は、明確に該当する商品が何故on-lineでは販売できないか、消費者への販売に際して、face to faceの説明やサービスなどが必要である理由がなければならない)
独占契約にしない(exclusive契約にしない)
独占販売にしないことを強くお勧めする。万が一独占契約を結んだ代理店が上手くワークせずに、契約も直ぐに切れない場合、別の販売代理店を使うわけにもいかず、販売活動が完全に止まってしまう可能性がでてくる。
販売先の顧客名、販売実績の提出(月毎がよい)
海外ではよくあるが、販売代理店が販売先を開示したがらないケースがある。そういう代理店に限って販売力があったりするが、長期的ビジネスの観点からは、販売先顧客名や販売実績の情報を出さない代理店の組むのはお勧めしない。
販売店の月末在庫情報の提供
在庫の価格補填のあるなしも、含め、代理店在庫、更には、その先の販売顧客の在庫情報まで分かると、とても透明性の高いoperationとなる。
リベートの計算
販売ディールの内容にもよるが、上記顧客への販売実績や、顧客在庫などの情報を元に、リベート計算ができるのがよい。そうすることにより、代理店傘下の顧客の中でポテンシャルがある顧客が特定でき、また、その顧客に対して、スペシャルなサポートをすることができる。
不良品、アフターサービスに関する取り決め
商品やサービスの内容によるが、こういったことも予め決めておき、契約書に謳っておくのがよい。
4. DOA (権限委任)について
契約書は基本、社長が全てサインするのがよいと書いたが、もし、会社の規模がそこそこ大きく、多数の役員が存在しているというような場合は、会社として、正式にDOA(権限委任)のチャートを作成するのがよい。
契約書の内容や金額に合わせて、誰に最終承認権限があるか、若しくは、承認のカスケードで、誰が承認プロセスに加わるかなどを、明確にしておく。
また、DOAのカスケード承認プロセス、例えば、営業担当者が申請して、課長、部長、法務、管理部長、社長が承認するなどを設定する場合、IT テクノロジーを使って、極力承認プロセスを簡素化し、効率をよくすることを忘れず考えてもらいたい。
まず、承認プロセスを紙からOn-lineに移行する。そして、このケースの場合、承認者から、営業課長や営業部長を省き、CCで情報が届くようにしておくということができる。
営業担当が申請するものは、事前に課長や部長とは相談済みという取り扱いにして、法務、管理部長、社長という管理系マネジメントが、同意して承認すればOKとするのである。
5. 複雑化する管理項目とプロセス
最後に、社長以外の人も契約書サインの権限を持つとか、DOAを細かく設定するなど、会社の安全を考えれば考えるだけ、いろいろと管理項目が詳細になり、複雑化する。更には、コンプライアンス案件などもあるので、たまらない。
これは、単に、管理プロセスにかかる工数や時間が増えるだけでなく、著しく、社員のやる気をそぎ、仕事のモーメンタムを大きく阻害する。
世界のエクセレントカンパニーを見渡すと、社内のoperationをシンプル化して、業績を上げた会社がいくつもある。steve jobsがアップル社長復活した際に、数十もあった商品ラインアップを、僅か4つ(Apple デスクトップとノート、Apple pro デスクトップとノート)に絞り、業績を向上させた話しは特に有名だ。
古典にも「一事を生やすは、一事をへらすにしかず」という言葉があり、それだけ、物事を減らし、シンプルにするというのは、オペレーションにおいて、とても大切なことである。
以前に、オペレーションのシンプルに関して、記事を書いているので、参照されたい。
参考文献