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たった今、さよなら。


さよならを伝えられないからこそ、私はセフレ止まりなのかもしれない。

昨年の冬にセフレになった私と、好きな人は、一年の月日が経った今、何でもない2人に戻ろうとしている。最後に会った時からは4ヶ月。連絡を絶ってからは1ヶ月。好きな人の好きな人になれなかった私は、2人がいた無機質な部屋に思いを馳せた。

日に日に短く淡白になっていくセックスと、増えていく彼のタバコの本数。泊まった次の日には予定があるからと言って帰された。

駅までの道を覚えてしまってからはさよならは必ず玄関先。いつも寂しかったけど寂しいなんて言えなかった。私の気持ちも、好きじゃなくてただの執着だって気づいていたから。

彼女だったら、駅まで来てって甘えられたのだろうか。多分逆なんだと思う。甘えられていたら、とっくに私は彼女だった。とことん都合の良い女だったと今さら振り返って思う。そんな都合のいい私のことを嫌いになれなかったから厄介だけど。

セフレになりたての頃は、好きだったけど、ぬるくて幸せで退廃的で甘美な、この空間を手放したくなかった。だから、告白は怖くてできなかった。お互い、きっと相手から言われれば付き合ってたんだと思う。プライドが高くて人任せ、面倒くさがりな2人の間にあった、ゆるっとした連帯感。

もうここには来ないかもしれない。冗談めかしてそう言った私に、なんで?と彼。だって、いつまでもこのままじゃいけないでしょ。そうだよね、と彼。

最後のあの日、どちらからも付き合ってという言葉が出なかったのは、タイミングを逃したことを悟っているから。時間が経ちすぎてしまったから。

足りない言葉を補うためにセックスに頼りたかったのに、頼らせてくれなかったその瞬間、2人はセフレとしても終わったと思った。身体目当てのほうがマシだったのに、身体さえも要らなくなったことが1番悔しくて絶望していた。

さよならが言えてない私たちの関係は多分よくない。さよならを伝えたとしても、きっと寂しがってくれないけれど。さよならが言えるなら、それよりまえに好きだよが言えていたと思う。

一緒にお菓子作りをしたときに借りたタッパーを返してないのは、返さなければいつでも会う口実が作れるから。私のために買ったバイブを持って帰らないのは、私といた痕跡をちょっとだけ部屋の隅に隠し持っていて欲しいから。

確かに好きだったことをここに残して、たまに思い出します。

たった今、さよなら。


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