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アイデアの検証に会社や資金は要らない

いま起業アイデアがあり、推し進めるべきか悩んでいたり、その検証のために器となる会社の設立やランニングコストを埋めるための資金調達がまず必要なんじゃないか、と思っている方へ。私は反対です。

VCやエンジェルなどの投資家に会ったり、会社を設立することは実はいつでもできるので、まずはユーザーに向き合いインサイトを得て、仮説を立て、最小限のコストで事業アイデアの検証をすることです。このサイクルをひと回しふた回しして、土台となる確信を深めてから会社設立や資金調達に動いても遅くないと思っています。

なので、いま既に事業のアイデアがある方にはまず下記3ステップでアイデアの検証をして(繰り返して)みることをおすすめしたいです。

1. 【誰】のためにプロダクトをつくるのか?

誰のどのような課題解決やニーズ充足をするサービスなのか」を突き詰めるようによく言われます。私もこれは正しいと思ってる派です。ただ、少し落とし穴があって、日本語の特性上、仮に【誰】が曖昧だったり、【誰】が抜け落ちていても話す本人も受け手の聞く人間も思考や行動を妨げられないことがあります(慣れてくると違和感がすぐ湧きますが)。もちろん課題やニーズに着目することは大事だし当然欠くことはできない。でも【誰】はセットです。「その課題持ってるのは誰でしたっけ?」と聞かれてもすぐに答えられないときは、ユーザーに対する洞察が薄い、または全く無いということですので、そのときは原点に戻って、まずは自分自身や周囲のひとのなかに、その【誰】がいないか探してみてください。

繰り返しになりますが、主語が曖昧であったり欠落しているということは、本来恩恵を受けるはずのユーザー目線からではなく、サービスを作る側の供給者目線(「ここに球場を作れば人がやって来る」のフィールド・オブ・ドリームス症候群)や謎の神目線(社会的な解決すべき課題はこれだ/本来世界はこうあるべきなんだ)からサービスを考えていることになります。もしユーザーを置き去りにしてプロダクトをリリースすると、どれだけお金と時間を掛けて準備をしたとしても、誰もそのプロダクトを使わないという事態に陥る可能性があります。偶然供給者の思惑が消費者にハマるケースもあるとは思いますが、その偶然のプロダクトマーケットフィットを待つには、出口の見えないランウェイを担保するだけの豊富な資金が先に必要なのと、そもそも再現性がないので体力のない初のスタートアップなどではおすすめはできません。

【誰の】=(初期)ターゲットユーザー、が明確に見えたらアイデアの実行フェーズに進みやすいです。上述したようにこれが”自分”であるケースや”身近なひと”であれば尚わかりやすいでしょう。ただし、アップルのジョブズのような圧倒的かつ狂気に近い当事者意識からニーズをプロダクトへ落とし込むタイプもいれば、客観的にユーザーの行動というファクトからインサイトを得て仮説を立てプロダクトに落とし込むタイプの起業家もいますので、必ずしも【誰】=自分、である必要はないと思っていますが。

2. ユーザーに向き合って【生の反応】を見る

ターゲットユーザーを絞り、ユーザーの課題について仮説を立てたなら、もう少し多くの人数と向きあいましょう。ユーザーヒアリング? やってますよ、って方もいらっしゃると思います。でももし「知り合いにだけ」ヒアリングしているのだと少しもったいない。友人・知人バイアスがかかり、良いフィードバックしか来ない可能性もあります。もっと言うとユーザーの大半は自分の課題を言語化出来ていません

ここで大事なのは【他人であるユーザーといかに向き合うか】です。事業が大きく成長していく過程で多くの【他人】があなたのサービスを使うようになるわけですから。仮にコンシューマー向けのプロダクトを考えているのでしたら、PCの前で考え込んでいる場合ではありません。街に出てターゲットユーザーを探し、片っ端から話しかけてみましょう。

この際、アプリやWebでのサービスを考えているのであれば、どうユーザーが使うのかをイメージできる(ペーパー)モックやユーザー遷移のイラストなどを用意しておくと良いと思います(多少でも使えるお金があればランディングページ1枚+リスティング広告で検証する手もあります)。もっと言うと、モックをつくるまでもなく、既存のサービスの組み合わせで擬似的に価値提供をする方法もあります。

ユーザーへヒアリングをするうえで大切なのは、仮説どおりにユーザーが悩みを持っているか、このプロダクトが提供するであろう体験価値を本当に欲しているか、を様々な角度からの質問で、素の、生の反応を観察することで確認すること。決して答えを誘導してはいけません。自分で課題を言語化出来ていないユーザーはあなたの言説に寄りかかります。たとえ表面的に帰ってきた言葉がポジティブでも、一瞬口にするのをためらった言葉や、モックの使い方に迷っているその所作を見逃してはいけません。しつこいようですが、ユーザーは自分の課題を言語化できていないことがほとんどです。行動というファクトで課題の深刻さを漏れ伝えるのです。

さらにユーザーに向き合うことの副次的成果として自分たちが気づけていない他の深い課題があぶり出されることもあるのは見逃せません。

いずれにせよユーザーと真摯に向き合い、客観的に観察するということは、課題やニーズの強度と他の事業可能性を探るということなので、繰り返しにはなりますが、とにかく「これあったら使うでしょ?」と答えを押し付けないこと。「あぁ、良いと思うよ」「出たら使うよ」って反応しか返って来ないときは質問の仕方を見直すべきかもしれません。

3. ユーザーを【感動させられる】レベルを考える

ここまでやって、未開拓のユーザー課題やニーズなんてないんじゃないか、もしかすると自分はnice to haveな(あっても良いけど無くても困らない)プロダクトをつくろうとしているんじゃないか、と思った方。大半の起業を志す方がここで立ち止まりますのでそれが普通です。諦めるにはまだ早いです。

この壁を突破するひとつの方法が、上記ヒアリングをするなかで、ユーザーが抱えている課題を解決するためにいま【仕方なく】使っているプロダクトがないかを探ることです(例えばどんなアプリ使っているかスマホ見せてもらったりします)。ユーザーがニーズを満たすために、機能面や体験面で不満がありつつも仕方なく使っているプロダクトを見つけ、その使いにくいところ、不満を明確にしたうえで、どのような顧客体験(UX)を提供したら、そのユーザーを感動させられリプレイスすることができるか? を突き詰めることが自分たちのプロダクトのヒントになります。 

たしかに、人間はニーズが強ければどんな不便なサービスでも使ってしまいます。仮想通貨が盛り上がっていた時、ICOに参加する投資家は、不便とは思いつつもMyEtherWalletを使っていたはずです。つまり、そこでしか提供されない価値や売っていないプロダクトであればユーザーは渋々、愚痴を言いながらも使うし、買うんです。

裏返すと、UI/UX面で不評なサービスでもユーザーが付いているということは、ニーズの強さを証明していることになるわけです。後発のプロダクトとしては、どう既存のプロダクトの牙城を切り崩すか? どうユーザーの心を奪い取るか、にフォーカスできるとも言えます。もちろんこの場合は敵も日々改善しているわけですが。必ずしも1st Moverだけが勝つわけじゃない理由はこれですね。

ユーザーが定まり、ニーズも見えてきたら、あとは徹底的にどうすればユーザーが感動するプロダクトを生み出せるのか、ユーザーの期待を超えることができるのか考え抜いてみてください。何なら将来のヘビーユーザーになりそうな方をユーザーコミュニティの中心に据え、プロダクト開発のブレストに巻き込んだって良いと思います。

たくさんの軽い「いいね!」がもらえるプロダクトではなく、少数の熱心なユーザーに支持され、構われ、感動してもらえるプロダクトのイメージが固まりさえすれば、十分起業のスタート地点に立ったと言えます。

<まとめ>
1.【誰】がユーザーか決めましたか?
2.そのユーザーの【生の反応】は得ましたか?
3.どうやったらそのユーザーは【感動】してくれますか?

この3つをまず検証してから、今後のスケールの方法や資金計画についての相談をVCやエンジェル投資家としたり、会社設立したり、でも全く遅くありません。とにかく焦らずに、あなたの起業アイデアのコアとなり得る初期ユーザーに愚直に向き合っていただけたらと思います。

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竹川 祐也 / サイバーエージェント・キャピタル
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