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#427 京都信用金庫のAI時代戦略。「人ならではの価値」の追求と変化のスピードに見る組織力
いかがお過ごしでしょうか。林でございます。
「捨てられる銀行」著者の橋本卓典さんが、今後の地域金融機関の在り方として好事例であるとご紹介されていた金融機関の姿を深掘りし、これから生き残っていくであろう組織とそうでない組織について考えてみたいと思います。
橋本さんは、ご自身の取材と野村総合研究所が2024年11月に公表したレポートをもとに、デジタル時代に根強く残る、まだまだ「紙ベース」の業務がもたらすヤバさを語られていました。
もちろん多くの紙を無駄にしているとか、生産性が低い、というのも大きな問題なのですが、そのヤバさの本質は、「社員のやる気を削いでしまう」ということだと捉えています。
つまり、自分で何か創造的なことがしたいとか、地域活性化関連の取り組みがしたいと思って入社してきた若い優秀な人たちが、愛想を尽かして流出していく問題です。
課題は山積みで、改善の余地はたくさんあるけれども、それをやろうという気になれない、やろうとしている人を応援する組織でない、ここにヤバさの本質があると考えています。
一方で、橋本さんがご紹介されていた京都信用金庫さんの「課題解決型店舗」導入の話は、それとは逆の動きで、今後、このような取り組みを名実ともにやっていける金融機関は、強いと感じています。
今日は、京都信用金庫さんの取り組みを取り上げて、今後の金融機関が目指す姿、金融機関以外のあらゆる業態におけるAI時代の生き残りのポイント、私たち個人としての示唆について、考えていることを話していきます。
京都信用金庫の「課題解決型店舗」
「地域の課題解決に力を入れる金融機関」を標榜する金融機関は大変よく聞きますが、ATM削減のようなマクロな話以外で、実際に「地域の課題解決に力を入れる」ために「やめること」を実行に移している金融機関をあまり私は聞いたことがありませんでした。
京都信金さんの「課題解決型店舗」が定めた「やめること」は、窓口受付時間の短縮です。
現状の業務は変えずに、「私たちはこれもやります!」というのは簡単ですよね。簡単だからこそ、みんな言える。みんな言えるからこそ、「本当かな?」と感じてしまう人も少なくないのではないでしょうか。
デジタル化の議論でよくある「既存のやり方での対応は残しつつ、デジタルの入り口も作る」という話は、「デジタル化の矛盾」であると捉えています。
デジタルが苦手な人のために既存のやり方は残し、得意な人はデジタルツールを使う、というのは聞こえは良いのですが、サービス提供側の視点では、既存業務とデジタル化に必要な業務がダブルとなり、デジタル化で実現するはずの業務効率化とは真逆の結果を生んでしまいがちだからです。
大事なのは、デジタル化の目的であり、デジタル化により「業務効率化して空けた時間で人ならではのサービスに特化するとか、より付加価値を高めていくための取り組みに集中すること」です。手段であるはずのデジタル化そのものが目的と化してしまうと、このような結果を招いてしまいます。
その点、京都信金さんの「課題解決型店舗」拡大の動きは素晴らしいです。
これまで「平日9:00〜15:00」を窓口受付時間としていましたが、「通常窓口受付時間」は「平日9:00〜12:00」に短縮、「12:00〜13:00」を休憩時間として、「13:00〜15:00」は予約制の事業相談の時間に変更するとのことです。
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https://www.kyoto-shinkin.co.jp/whatsnew/pdf2024/n24-0520.pdf
橋本さんの話では、予約制の事業相談のほか、銀行員には午後は客先を回るための時間としているとのことでした。
2024年6月から先行して一部の店舗で導入されていました(21店舗)が、週明け1月14日(火)から、さらに26店舗が「課題解決型店舗」にシフトするようです。
当然、スマホアプリなども提供されているので、通常取引に関してはデジタルチャネルを使うことで対応可能です。
先日まとめた600以上の地域課題解決に貢献した二宮尊徳も、まさにあらゆる地域で現場をまわり、融資だけでなく事業相談やアドバイスもしています。地域金融機関の強みは本来、事業相談や地域課題解決のアドバイスのはずなので、これをするために「やめること」を決めて実行に移している、というのが素晴らしい点です。
実際の行動に「変革の意思」が見える
AI時代・デジタル時代において、「人間が本来やるべき仕事に集中して、付加価値を上げていくべし」という話に異論を唱える人は少ないと思います。
しかし、「総論賛成、各論反対」という言葉があるように、実際にそれを行動に移すフェーズになるとなかなか事は上手く運びません。
「午後にしか来れないお客様もいるから午後の窓口をクローズすることは出来ない」とか「スマホアプリがあるとは言え、高齢のお客様も多いから使えない人に考慮する必要がある」とかいう話が出てきて、結局実行に移せない組織も多いとよく聞きます。
ただ、こういう「とはいえ」の事情は、京都信金さんにも必ずあるはずです。
信金という事業形態上、当然顧客層には高齢者の人も多いはずですが、そのような反対意見や抵抗があるにも関わらず、「課題解決型店舗」を加速させているのです。
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しかし、そこを振り切れるからこそ、地域企業はより金融機関と事業相談できる時間を持つことができます。また、人材確保の面でも「地域活性化に貢献したい!」と考えている地元の優秀な若い人にとって、魅力的な仕事ができそうだと感じるのではないでしょうか。
「地元企業の人手不足対策、デジタル化、後継問題、商店街活性化が出来ます!」と謳っていても、現行業務で手一杯であれば、それらに本腰を入れられないのは当然ですからね。午後の時間はそれらに集中する、という姿勢が事実として分かるので、そのような業務をここでは経験できる!と感じられそうです。
「変化のスピード」で得られる先行者利益
このような通常営業時間短縮の動きを、それがあまり一般的でない状況でチャレンジされていることが持つ意味が非常に大きいです。
人手不足が今後ますます進んでいき、デジタル化も加速していくのは誰が見ても自明だと思いますが、先を見据えて「打つべき手」をいかに早い段階から打っておけるか、が本当に大事。
10年後、京都信金さんのような動きが金融機関全般で当たり前になっていたとしても、やはり早めに動いた京都信金さんは、他とは違った動きをしているであろうと思います。
事業相談ノウハウなんかは一朝一夕では身につかないでしょうから、表現としては同じ「うちは企業相談もやってます」と言っていても、その質に違いが出てきているはずです。
また、事業相談の効果が出始めて、実際に稼ぎを大きくする法人が地域に増えていれば、地域全体としての価値が高まっているはずです。これは2024年から始めた地域と2030年になって、そこでいよいよ必要性に駆られて動き出す地域とは、明らかに競争力の差が生まれているでしょう。
私たち個人に置き換えても同じです。
周りの様子を伺って、いよいよマジョリティになってきたな、と感じてから行動を変化する人と、今後こういうことが求められてくるだろうな、を察知した段階で周囲がやっていなくてもとりあえず動く人の間には、雲泥の差が生じるはずです。
大原孫三郎の有名な言葉、「10人のうち、2〜3人がいいと言う間にやるべし」は、本質を突いていますね。
今後、このような元気な地域金融機関が出てくると良いなと思いますし、私が関わる仕事の中でも、「今やるのと、将来やるのとでは、雲泥の差がある」ことを肝に銘じてやっていこうと思います。
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