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#220 並列の戦略ですか?それとも直列の戦略ですか?

いかがお過ごしでしょうか。林でございます。

今日は、以前にもご紹介した楠木建先生の書籍から着想したことについて、話したいと思います。


箇条書きの戦略になっていないか

いきなりですが、皆さんが勤める企業や自治体の戦略は、やることが並列で書かれているでしょうか?それとも、順番で書かれているでしょうか。

企業であれば「中期経営戦略」が該当すると思いますし、自治体であれば「総合計画」が該当するかと思います。

もちろん全てを見たわけではありませんが、企業も自治体も「順番ではなく、並列でやることが記載されていることの方が多い」印象があります。
特に、総合計画なんて、どの自治体も記載事項の網羅性の方が重要視されていて、公的な存在であることもあり「ウチはまずここからやっていく」という順番で書けない事情もあるのかと推察します。

なぜこんなことを聞いたかと言うと、上述した書籍に「プロの凄みは何をやるかではなく、やることの順序、シーケンスに表れる」という表現が出てきます。
つまり、いい戦略やTo doと言うのは、決して箇条書きではなく、順番で表現される、ということです。

何かの課題を解決しようというときに、人はすぐに「飛び道具」や「画期的なアイデア」といった必殺技に頼りがちですが、現実問題としてそんなものはないですね。
そうではなく、やることは当たり前のことでいいから「手を付けていく順番を組み立てる」ことと「組み立てた作戦を最後までやり抜くこと」の方がよほど重要です。

物事を順序立てて構想できる人は、ズバリデキる人です。
楠木先生らしい並列と直列の違いの具体例を紹介します。

「ビンタ・抱きしめ」と「抱きしめ・ビンタ」では、「ビンタ」と「抱きしめ」が並列で表現されているので、いずれが先でも意味は同じですね。
一方で「ビンタ→抱きしめ」あるいは「抱きしめ→ビンタ」とすることで情景に奥行きが出てきます。ビンタしてから抱きしめることと、抱きしめてからビンタすること。勝手に二人の登場人物を頭に思い浮かべて、その心情を想像してしまいませんか?

これは組織や個人における戦略も同じで、AとBをどちらからでも良いから手を付けていくのではなく、AとBどちらからやろうかな?と言うのを決めるのが大事です。順番って本当に大事。でも、順番を構想せずにやることを羅列したアクションプランは、皆さんの周りでも蔓延っていませんか?

「横串組織」「ワーキンググループ」「シナジー」の危うさ

よく組織の風土改革や新しいビジネスをどう作っていくべきか?みたいな議論になると、「部署横断の組織」や「他部署を跨いだワーキンググループ」、「複数組織のシナジーを生む」みたいな話にならないでしょうか。

私はこういう議論になると身構えるというか、「あ、ちょっとヤバい方向に議論が進みそう」という危険信号が頭の中に鳴り始めます。「グループの総力を発揮して」とか「組織間で手を取り合って」とか「グループ間で強連携して」みたいな表現も、何も言っていないのでは?と感じてしまうのです。

なぜならば、「部署横断の組織を作る」や「シナジーが生まれる」というのは、直列の構想がないからです。
当たり前ですが、部署横断の組織が出来てシナジーが生まれて組織風土が魅力的になったり、新しいビジネスが生まれるのであれば、どの組織も魅力的で新しいビジネスが日々生まれ続けているわけです。
でも、それがとても難しいのは、「部署横断の組織を作っても、シナジーが生まれることはない」からです。

時間配列の中で、やることを綿密に組み立てて地道に実行した結果、シナジー効果は生まれるのであって、横串組織を作れば自然にシナジー効果が生まれるわけではありません。

本の中でご紹介されている例が、サントリーの新浪剛史社長の米ビーム社買収後の動きです。
サントリーがビーム社の買収を公表したのは、2014年1月です。その後、新浪さんがサントリーの社長に就任したのは2014年10月。つまり、買収が決まってから就任し、ビーム社とのシナジーを作り出すことが大きなミッションの1つであったわけです。

新浪さんは、ひたすらビーム社の現場に足を運び、「ウチではこうやって作ってるけど、ビーム社ではどうやってるの?」とやり方を学ぶことから始めました。
ビーム社では、社長が現場に来ることなんてありえなかったそうで、そうやって現場の心を掴んでから、山崎の蒸溜所にビーム社の幹部を集めて、サントリーのスピリットを徹底的に共有し、サントリーの歴史を学ばせていったそうです。
これも「並列ではなく順番」という話で、現場の心を掴む前に「サントリー社のスピリッツを叩き込む!」とビーム社の幹部を集めたところで、買収後に逆に軋轢を生むだけの結果になりそうですよね。

このように、長い時間をかけて順番に1つずつ組み立ててようやくシナジー効果というのは出てくるもので、組織や個人レベルでやることも同じ考え方が当てはまります。

優れた問題解決とは?

組織風土改革の議論でも、新規ビジネス創造の議論でも、真面目な人ほど「網羅性」にこだわりすぎて、「順番」にまで頭が回っていないケースが多いように思います。

問題解決のシーンにおいても、問題と思われる事項を全てリストアップして、そこに担当者を割り振って、できるところから1つ1つ順番に対応していっても、なかなか上手くいかないことが多いです。

そうではなく、「まずはここに集中する!」という最初に取り組むべき問題を決める。Aがクリアできると、BもCも楽になってくるはず、という本質的な問題を見定めて、そこにリソースを集中させるのが、マネジメントの役割です。

数年前に社内で難易度が高いプロジェクトに参画していた時に、私がリーダーを務めていたチームが担うプロジェクトのスコープが当初想定よりもかなり大きくなってしまったことがありました。
私も含めて現場の人間は、目の前で起こる問題をできるだけ早く解消していくことに手一杯だったのですが、そのタイミングで新しく来たマネージャーは、「人が明らかに足りていない」と判断して、社内の経営層へのエスカレーションと協力会社への人出しにいきなり動きました。

それまでも、「人が足りない」ということは私もマネージャーにエスカレーションしていましたが、「今後も含めてどこが足りないか整理して持ってきなさい」という宿題を出され、でも日々が忙しすぎるからその宿題対応ができるのも時間がかかり、なかなか人が投入されない、という状況が続いていました。
しかし、そこで着任されたマネージャーは、私と一緒に「いつのタイミングでどのくらい人が必要なのか」を整理するのを手伝ってくれて、着任して2ヶ月後には10人以上の増員を果たしてくれて、そこからちょっとずつ楽になっていきました。

これが正しく「順番の問題」なのだと反芻している実体験です。
目の前の仕事で一杯一杯な中、私自身も責任者として「スコープが増えた原因や再発防止策」に対する社内上位層への説明対応などに追われましたが、これをやり切ったから自分のチームメンバーの状況も改善されました。

皆さんも、日々の仕事や生活の中で数々の問題に向き合っているかと思いますが、「やることそのものも、その順番が大事」ということを意識しておくと、状況が改善するケースがあると思うので、よければ参考にしてください。

それでは、今日もよい1日をお過ごしください。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました!

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林 裕也@30代民間企業の育児マネージャー
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