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#392 地域金融機関における「紙ベース」仕事の弊害
いかがお過ごしでしょうか。林でございます。
今日は、「捨てられる銀行」の著者、橋本卓典共同通信編集員の対談を聞き、言及されていた、NRI社が先月公表していたレポートを取り上げます。
「地域金融機関における決算書の入手・登録事務に関するアンケート調査結果」ということで、地域経済の発展を支える地域中小企業を支える地域金融機関において、データ活用による法人取引業務の効率化や高度化に繋がる業務改革の余地があるかを調査する目的のアンケートのようです。
法人取引で必ず発生する「決算書の入手・登録事務」について、2024年6月に456先の地域金融機関にアンケートを行ったところ173先から回答があり、多くの決算書がデータで保管されているものの、まだまだ紙ベースの事務が根強く残る実態が明らかになったとのこと。
紙ベースの業務プロセスをデジタル化することで、単純に金融機関内の業務プロセスが効率化されるだけでなく、中小企業側の生産性向上にも直結しますし、生産性が低いと言われる日本で一番マズイのは、付加価値を生まない仕事が働く人のモチベーションをジリジリと奪い取ることだと考えています。
本業にも近い領域で、よりリアリティ持って抑えておきたい分野でもあるので、今日は本レポート内容をもとに、実態に迫っていきたいと思います。
アンケート概要
本アンケートで回答を得られた対象の金融機関ですが、第一地銀が28件、第二地銀が12件、信用金庫が97件、信用組合が36件となっています。
調査項目の概要は以下引用の通りですが、全企業数の99.7%を占め国内雇用の7割を創出する中小企業からの決算書の入手事務、OCR登録、信用保証協会とのコミュニケーションチャネル、これら業務負担の度合いを問うものとなっています。
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まず、いきなり驚きだったのは、WEBでの回答が62件に対して郵送回答が111件だったことです。
私の中で「郵送」という手段は、WEB環境がないなどのどうしてもやむを得ない場合の最終手段、というイメージがあり、社内での様々な手続きや他社とのやりとりにおいて、郵送はほぼ使いません。
しかし、全体回答の約64%にあたる111件が郵送で回答があったということで、まだまだ「郵送」というのがマジョリティの世界なんだなぁと。保険の加入状況通知や、ふるさと納税の寄付証明書も家に郵送されてくることが多いですが、希望者だけ郵送、みたいに早く変わらないかなといつも思います。
私の場合、家に郵送で届いても、結局確定申告する際は、楽天ふるさと納税のサイト等で発行できる電子証明書を使いますし、すぐに捨ててしまうだけなんですよね。どのように証書を受け取りたいかは人によって価値観が異なるので郵送をなくせとは言いませんが、せめて不要だと思っている人には送らないでほしいなと。
私のように、どうせ家に届いても10秒くらいで捨てられてしまう資料を郵送する人が相当数存在すると考えると、人手不足なのか、人手余りなのかよく分からなくなってきますね。紙の郵送物が届くたびに、いつも感じることです。
全くサステナブルでない紙ベースの業務
企業からの決算書の入手方法ですが、下図の通り「現物」と「コピー」という紙ベースでの受け取りが86.4%を占めています。
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このような現物志向は、事業者に対する牽制機能として「真正な決算書を入手したい意向の表れ」ではないか?との見解が述べられており、確かにそういう意向であるとは思うものの、本当に「紙」=「真正なもの」なのか?というそもそも論に早く立ち戻ったほうがいいと思います。
橋本さんの話では、悪意ある企業では、決算書を二重に作ることもあり得ると指摘されていますし、紙ベースの決算書では、受け取った銀行員でそれを判断するのは至難の技なはずです。それよりも、電子的に提出する資料は一元化して、それを参照させるとか、デジタル証明書のような仕組みで本物であることを証明する仕組みの方がよほど「真正なもの」だと考えます。単純にデジタル化への抵抗のために、最もらしい理由を付けているだけのように感じます。
決算書の登録件数から試算すると、本業務における全ての紙をかき集めてくるとA4用紙2,000万枚以上になり、並べると東京からハワイに到達する距離(約6,470Km)だと言います。
決算書を受け取った金融機関が信用保証教会に提出するのも紙が97%(郵送50%、メール便23%、持込20%、FAX4%)。中小企業、小規模事業者の44.5%が信用保証教会を利用しており、年間で本業務で印刷される紙を全て集めてくると東京からマニラに到達する距離(約2,995Km)になるとの試算です。
毎年これだけの紙が「真正なもののように感じる」という理由で無駄に印刷されている現状を見ると、「サステナブルな社会を目指します」なんてとても言えないですよね。。
付加価値を生まない仕事は、優秀層を遠ざけるだけ
紙で受け取った決算書は、若い行員がPDF化して本社に送りデータ化するらしいですが、スキャン時にズレが起こったり、決算書に書き込みメモなどがあるとOCR読み込みエラーが起こったりで、決算書情報の手入力が発生します。
「決算書を手入力することで財務や事業内容の理解に繋がる」という声もあるようですが、法人の場合30分以下、個人事業主の決算書の場合15分以下で作業が終わるということで、機械的な作業になっている感は否めないです。
本当に事業内容の理解をするのであれば、紙の決算書を流れ作業的に手入力していく「作業≠仕事」はやめて、1枚の決算書にじっくり向き合って読み込む方が効果が高そうです。
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また、金融機関が企業や個人事業主から受領した紙の決算書を信用保証協会に提出する際も、郵送だと1〜2日かかるから持込とする場合もあるようで、信用保証協会の物理的な場所が離れている金融機関では、持込に1件当たり60分を超える地域金融機関はなんと16先もあるとのこと。
電子データで扱えば物理的な移動は不要なのに、「紙を持ち込む」という作業≠仕事のために、60分以上の貴重な人の時間が奪われています。
紙の決算書をPDF化したり、流れ作業的にデータ入力したり、紙を運んだりと、「真正なもの」に見える紙ベースの仕事のために、優秀な人のモチベーションが削がれている現状・・変化への抵抗が、若くて優秀な人を遠ざけている実態が透けて見えます。
紙はやめて付加価値を生み出す仕事を
今後の方向性については、本レポートの括りが全てかなと。中小企業側に存在する「データ化されている決算書」をわざわざ紙印刷して金融機関に持ち込み、金融機関側でデータ入力し、紙を信用保証協会に運搬するという謎プロセスは極力早くやめて、中小企業・地域金融機関・信用保証協会間で決算書をデータで取り扱うようにするだけで、膨大な紙と人の作業が削減できます。
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全体でかなりの人の時間を生み出せるので、本来地域金融機関がやるべき、地域経済の発展につながる事業者支援に集中できます。
DXやデジタル化と言われて随分時間が経ったような気もしますが、まだまだ実態として追いつけていない業務があることを改めて理解し、まだまだ日本の生産性向上には伸び代ばかりであることを実感しました。
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