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#283 分業前提の会社員こそ!最低限のファイナンス知識を押さえておこう (2/2)
いかがお過ごしでしょうか。林でございます。
昨日からお届けしている「分業前提の会社員こそ、全ての活動から切って離せないファイナンスの基礎知識は全員が持っておこう!」の話の後編となります。
自分が企画の仕事であれ、商品開発の仕事であれ、スタッフであれ、会計や財務の基本的な考え方からは逃げられません。
普段の生活における家計経営においても同じ考え方が適用できますし、基本的な考え方だけでも一度身に付けて置いて損はありません。
今日ご紹介するNPVやIRRといった投資判断に使う基準についても、個人レベルで自分の時間を何に投資するか、という話に通じるものがあります。まさに人生経営そのものへの適用ができると考えています。
昨日の記事をまだご覧になられてない方は、ぜひこちらも合わせてご覧ください!
今回の参考文献はこちらです。
前回のおさらい
簡単に前編を振り返ります。
ファイナンスによく似た言葉として、会計があります。会計とファイナンスの違いは、前者が過去の行動の記録であるのに対して、後者は未来予測にあるということです。また、会計は利益を扱っていますが、ファイナンスはキャッシュを対象にしています。
ファイナンスでは、はじめに資金の調達手段に着目します。
企業が何か事業活動を行う時に必要なお金は、「有利子負債」として銀行等から借入を行うか、「株式発行」の形で株主から集めるか、の大きく2つの手段で調達します。
社債やCP(コマーシャル・ペーパー、短期で資金調達するための無担保の約束手形)などもありますが、これらはクーポンを付けて返済が必要な債務になるので、前者の「有利子負債」の仲間です。
大事なのは、資金の供給サイドの視点で見ると、これらは2つとも「投資」だということです。
「有利子負債」であろうと「株式」であろうと、供給サイドとしては自分で手元にお金を持っておくよりも、その企業に投資して運用してもらう方が、リターンが大きいと見て「投資」を行なっています。
この「投資」に対して、「投資者」がどれくらいのリターンを期待しているか、を表したものが「WACC(ワック、Weighted Average Cost of Capital)」です。
WACCは、銀行が企業への融資によって元本+利子で得るリターン(企業視点では債務コスト)と、株主が企業からの配当金や株価上昇により得られるリターン(企業視点では株主資本コスト)を加重平均したものです。
企業視点ではWACCは資金調達コストであり、「有利子負債」が契約時に定められた利子と元本がリターンとして戻ってくるのに対して、「株式」の場合、企業の業績が悪ければ「無配」という選択肢も取れる分、リスクプレミアムが付くので、後者の方が資金調達コストは高くなります。
ファイナンスとは、投資に関する意思決定の話
何のためにファイナンスを理解するのか?というところに立ち戻れば、究極的には「投資するしないの意思決定、資金調達手段の意思決定、運用して得たお金をどう配分するかの意思決定」を適切にできるようにするところにあります。
極端な例ですが今年度に売上を計上できるけれども、キャッシュの回収タイミングは3年後になるという仕事の場合、本当にそれをやるのか(やれるのか)という判断が必要になるんですね。
一般的には、キャッシュインよりもキャッシュアウトのタイミングの方が先に来ることが多いですよね。製造業であれば、先に原材料の仕入れがあり、それを加工して販売するので、先に原材料調達のためのキャッシュアウトが必要になります。
私の本業であるシステム開発の仕事も同じです。
大きめの開発プロジェクトになると、一社で全ての開発を担うことは少なく、複数の会社に仕事をお願いしながらシステム開発を進めます。
お客さんからの売上金回収のタイミングは先になり、開発工程を一旦終えたところで委託先の成果物を検収して支払をすることが常なので、キャッシュインのタイミングがアウトよりも後になります。
で、当然キャッシュアウトしてからキャッシュインするまでの間を持ち堪えるためには、その分の運転資金が必要で、どれだけの期間を凌げるのか、というところが企業の体力勝負になってきますね。キャッシュリッチな企業であれば、一定期間持ち堪えられますが、キャッシュアウトとインまでの間が1年なんて到底待てない、という企業も沢山あります。
このあたりの感覚が、特に大企業にいると感度が下がってしまうところです。
NPVとIRR
NPV(Net present value、純現在価値)とIRR(Internal Rate of Return、内部収益率)は、代表的な投資判断基準の指標ですね。
NPVは、将来的なキャッシュインフローの現在価値からキャッシュアウトフローの現在価値を差し引いたものです。何かのプロジェクトに投資するということは、そのプロジェクトが将来生み出すフリーキャッシュフローを購入するのと同義ですから、シンプルに考えるとNPVがプラスということは、プロジェクトが生み出す価値が価格を上回っているということで、投資してもよい、という判断になります。
ファイナンスの視点から企業活動を捉えると、社内の各プロジェクトのNPVに本社機能のNPVを加えたものが「企業価値」で、そこから「有利子負債」を差し引いたものが「株主価値」となります。
IRRを採用している企業も少なくないと思いますが、IRRとは、このNPVがちょうど0になる割引率、すなわちプロジェクトの価値と価格が均衡する時の割引率となります。
例えばIRRが6.5%のプロジェクトに投資するということは、預金金利6.5%の銀行にお金を預けることと同義となります。
会社が持ってるお金を銀行預金として、銀行に投資して金利を稼ぐのか、プロジェクトに投資してリターンを得るのか、という投資判断となるわけです。
当然、預金として預けておくよりもプロジェクトリスクがある分、リターンは大きくなります。プロジェクトのリスクマネジメントをするということは、プロジェクトの期待するリターンをより確実に得られるための行動ということですね。
IRRを採用している企業のうち、7%あればまずまずかな、とか感覚的に捉えてしまっているところも多いようですが、本来はWACCと比較してはじめて意味があります。
つまり、資金調達コスト以上の収益率で運用できないと本末転倒ということです。
このIRRには弱点もあって、プロジェクト規模は反映しないという特徴があります。
IRRが6%のプロジェクトと、30%のプロジェクトでは、IRRだけを見れば後者に投資すべき!となりますが、前者が100億円、後者が1000万円のプロジェクト規模であれば、後者のほうが企業価値の向上に貢献するインパクトをもたらすということです。
前者であれば、100億×6%で年間6億円の年間利回りを生みますが、後者は1000万×30%で300万円の年間利回りとなるからです。
私が担当しているプロジェクトは、3年近くにわたる大規模なものですが、システム開発の工程が進んでいく度に実際の委託先企業への支払状況などを見ながらNPVとIRRの見極めをしています。
ITというとプログラミングの知識とかデジタル技術に関する知識が求められそうなイメージがあるかもですが、それだけでなくプロジェクトマネジメントや事業運営における知識も必要になります。
勉強しないといけないことばかりですが、その分得られるものも多しです。
ITだけでなく、プロジェクトベースのあらゆる仕事には投資の考え方で成り立っていますから、ファイナンスに関する基本知識を抑えておくと、日々の仕事との向き合い方も変わる気がします!
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