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#458 【東南アジアのカオス】責任者が変わると全て覆る世界
最近、何名かの方から「林さんは、東南アジアで10年近いユニークなキャリアがあるんだから、その話をもっと発信したほうがよいよ!」と言っていただきました。
それを受けて音声配信では、「東南アジアのカオスシリーズ」としても話していきますが、noteでも時々書いていきます。
今日は、こちらの放送でも話した「責任者が変わると全てが覆る」というエピソード+αの話をします。
人に言われて気付いたのですが、東南アジアを舞台に10年弱仕事が出来たこと、しかもそれを20代から経験出来たことは、なかなか貴重なキャリアでした。
しかし、あれだけどっぷり浸かっていた東南アジアの世界も、日本に戻ってきて数年経つと、忘れてしまいそうになります。
ただ、自分の今の物事の考え方や仕事に対するスタンスについて、間違いなくルーツにあるのが「東南アジアでのビジネス経験」になっています。
向こうでは当たり前だったけれど、日本では当たり前ではないエピソードや、日本で起きているあれこれに対して、外からの視点で考えることについても、今後紹介していきます。
責任者が変われば、全て覆る
ビジネスにおいて、「顧客の責任者が変わるリスク」というのが、主要なリスク項目の1つに挙げられることは少なくありません。
それまでの意思決定が変更となるリスクもありますし、人によって重視する判断基準も随分と違いますから、そのあたりの価値観にうまく適合できない可能性もあります。
だからよく、「口頭でのやり取りとせずに文書の形で決定事項を残すこと」であったり、「契約の条項などで規定すること」というのが、一般的なリスク対策として行われます。
しかし、東南アジアにおいては、そんな文章の効力や、ハイコンテクストな前任者の意思決定を尊重する、みたいな話は、まるで通用しないことなんてザラにあります。笑
例えば、私がミャンマーで初めて担当したシステム開発のプロジェクトでは、開発期間が2年程度の比較的大きなプロジェクトでした。
システム開発の手法は、大きく「ウォーターフォール開発」と「アジャイル開発」の2つに分かれますが、ある程度大きな規模のシステムになると、「ウォーターフォール開発」のほうがメリットが大きくなります。
「ウォーターフォール開発」は、「水が上から下に落ちる」というその名の通り、基本的には不可逆な開発プロセスです。
何かのシステムを作るとき、まずは「何を作るか」をお客さんと合意して、それを「基本設計」→「詳細設計」→「コーディング(プログラミング)」→・・・と段階的に詳細化していきます。
その後、小さな単位からモジュールを結合していきながら、システム全体としての動きに問題がないかテストを繰り返していきます。
ここで、はじめの「何を作るか」のところが変われば、当然その後ろに続く「設計」→「コーディング」→「テスト」の工程もやり直しになりますね。ここでの手戻りは、コスト増にしかなりませんから、「後で変更が不要なように、プロトタイプなどの動くものでイメージを合わせて作るものを合意しておく」か「後で変更が入ってもシステム変更が不要なように、あらかじめ柔軟に設計しておく」という工夫が上流工程に必要になってきます。
日本のお客さんであれば、後でやむを得ず「何を作るか」の変更=仕様変更が必要になったら、そこにコストがかかることは基本的には理解いただいていることが多いように感じます。
しかし、ミャンマーで私が実際に経験したのは、お客さん側の納品工程直前になったタイミングで顧客のキーパーソンが代わり、「これまでの議論はいったん白紙。私が仕様をすべて決め直す!」というお客さんとの出会いでした。
なぜ、このようなことが起こるか?
日本的な組織においても、軍隊的といいますか、「上の言うことが絶対!」みたいな文化の組織があります。東南アジアにおいても、特にお役所組織などでは、日本とは非にならないくらいに「超トップダウン」だったりします。
人間関係を重視する文化ということもあってか、新しい責任者の決定が優先されやすい面もあるかと思います。
もちろん、交渉スタイルとして、わざとやっているということもありますが、「私がこれから決める仕様に従わないのであれば、私たちはシステムを検収しない=支払はしない」みたいなパワープレーを仕掛けられることもあります。
私自身も、「Yuya、お前はこの変更を飲めるのか?飲めないのか?YesかNoで答えろ!」と打ち合わせで2時間問い詰められ続けるという経験もありました。
「技術的には出来るけど、予算と期間の理由で出来ない」というスタンスを貫き、時々他の方がフォローに入ってくれようとしますが、「Yuya、お前に聞いている。どっちなんだ、答えろ!」と指を刺され続けるという、なかなか貴重な体験をしました。
事後に打ち合わせの状況を聞いた当時の上司からも「何故途中で私を打ち合わせに呼ばなかったんだ」と厳しくお叱りを受け、散々な1日でした。まぁこんな理不尽に直面したり、日本で常識だと思っていたことが、全く通用しないこともあるのが東南アジアです。
では、どう対応すればよいのか?
重要なマインドセットとして、「人間関係を重視する」という点を丁寧にやっていくことです。
交代後の責任者には、これまでの経緯や現在の状況について、こちらから積極的にインプットしに行く。これをいかに素早くやるか、丁寧にやるかが非常に重要になってきます。
また、責任者に話を通しやすくしてもらうためにも、担当者の中に信頼関係がおけるキーパーソンを普段から見定めておくことが極めて重要。ここは、打算的にも聞こえるかもしれませんが、要は「普段から困った時に、お互いフラットに頼れる仲間をお客さんや協力会社の中に見つけておけるか」というシンプルな人間関係の話なんですね。
東南アジアでは、他組織の人を見るのに、「役職」なんて通用しません。彼ら・彼女らは、かなりシビアに「人」を見ています。
自組織に対しては、上述したような「超トップダウン」なコミュニケーションが行われる一方で、外に対する目線は、常に「人間力」。つまり、こいつは信用できるかどうか?ということなんですね。
だから、普段から役職で仕事をしている人は、全く歯が立ちません。「部長の俺の言うことが聞けないのか!」と憤っても、「はい、聞きません」で終わります。社長でも同じ。
役職関係なく、困った時にバイネームで招集されるか。ここが極めて重要です。
このあたりが、シビアでもありながら、私が東南アジアのお客さんや現地の仲間が大好きな理由です。
みんな、人間として好きか嫌いかがとても分かりやすい。本音と建前を分けて、後でゴニョゴニョしてる日本人同士の関係よりも、すごく気持ちがいいです。
超パワープレー満載なお客さんも、味方になればそれほど頼もしいことはないですよ。ミャンマーのとある行政手続で、何週間も全く進まなかった手続きについて困っている、と相談したら、その場で「ちょっと待ってろ」と言い、すぐに知り合いに電話してくれました。
すると、それまで何度状況確認しても進まなかった手続きが、一瞬で終わったのです!
「超トップダウン」であるが故に、押すべきボタンを押せば一気に事が進む。このあたりの人間らしいダイナミズムも、東南アジア独特の面白さです。
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