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#355 生成AIが業界に与えるインパクト。業界とユースケースから生成AIの得意技を考える

いかがお過ごしでしょうか。林でございます。

11月に生成AIの企業向けワークショップを企画していることから、自社の取り組みだけでなく、政府や他社レポートもインプットにしながら、頭の体操をしています。

今日は、マッキンゼーが2023年6月に公表しているレポート「生成AIがもたらす潜在的な経済効果」を取り上げて、生成AIの出現によりどのような領域・仕事の種類で事業価値が創出される期待が高いのか、という点を整理していきます。

生成AIに対する需要額の見通し

はじめに、電子情報技術産業協会(JEITA, Japan Electronics and Information Technology Industries Association)が2023年12月に公表した「生成AIの需要額見通し」によると、世界全体の生成AI需要額の見通しは、2023年の106億ドルが2030年には2,110億ドルと7年間で約20倍日本における生成AI需要額も2023年の1,188億円から2030年には1兆7,774億円と約15倍の伸びが期待されています。

出所:JEITA 「生成 AI 市場の世界需要額見通しを発表」
https://www.jeita.or.jp/japanese/topics/2023/1221-2.pdf

上図の通り、生成AI関連アプリケーションは年平均46.6%増が見込まれ、2030年には1.5兆円を超える需要額に、生成AI関連サービスは、2023年には117億円程度ですが、2030年には2,000億円を超える需要額が見込まれており、この先数年で生成AIを活用したアプリやサービスがより一般化してくることが見て取れます。

上図の利活用分野別需要額見通しを見ると、「製造」→「金融」→「通信・放送」の順で利活用需要が多いことが見込まれており、特にこれらの分野に属する人はより生成AIの利活用変化のトレンドに対応していけるか、がポイントになってくると考えます。
需要があるということは市場が伸びるポテンシャルを秘めているということですから、うまく供給側を適応できるところは市場成長率とともに成長していくことができますが、供給側の適応ができないところは、市場成長率のスピードに追い付けず、他社から大きく引き離されます。

各業界とビジネス機能別の生産性改善のインパクト

マッキンゼーの予測では、分析対象の63のユースケースにおいて業界全体で2.6兆〜4.4兆ドルの価値を生み出す可能性が指摘されています。

出所:McKinsey & Company「生成 AI がもたらす潜在的な経済効果」
https://www.mckinsey.com/jp/~/media/mckinsey/locations/asia/japan/our%20insights/the_economic_potential_of_generative_ai_the_next_productivity_frontier_colormama_4k.pdf

上図が面白いと感じるのは、業界別の生成AI利活用がもたらす生産性改善のインパクトだけでなく、ビジネス機能別のインパクトを評価している点です。

青色のセグメントが濃いところが、生成AI利活用による生産性改善のインパクトが大きいと検証されているところとなりますが、傾向として以下のようなことが分かってきます。

・「マーケティング&セールス」の分野では、「公共・社会セクター」を除くほぼ全ての業界において、生産性改善が期待できる
・最も高い生産性改善が期待できるのは「ハイテク分野」における「ソフトウェアエンジニアリング」の領域
・「顧客対応」への利活用がより効果的なのは「銀行」「保険」「通信」業界
・「製品・研究開発」への利活用がより効果的なのは「製薬・医療機器」
・「SC・オペレーション」への利活用が効果的なのは「教育」「ヘルスケア」

本レポートにより踏み込んで、私が現在、利活用領域を模索している「銀行」への具体的なユースケースを取り上げてみたいと思います。

銀行における生産性改善のユースケース

まず、銀行業界全体の生産性改善の期待値は、同業界の年間売上高の3〜5%にあたる2,000〜3,400億ドル相当に上るということで、非常に高い可能性を秘めているといえます。

銀行業界には、生成AIのメリットを得やすい特徴が幾つか存在するからです。例えば、「メインフレームに代表されるレガシーITシステムを抱えながら、デジタル化への取り組みを継続してきた」、「B2Cや中小企業の顧客と対話機会が多く、コールセンターやファイナンシャルアドバイザー等の従業員依存の業務が多い」、「規制が厳しく、リスク管理、コンプラ、法務関係のニーズが無数に存在する」、「生成AIと特に相性が良いホワイトカラー産業」であるなどです。

これら特徴から、生成AI利活用ユースケースの方向性が幾つか示されています。

バーチャルエキスパートによる顧客対応

まず、一つ目が顧客接点ポイントの付加価値向上を目的としたバーチャルエキスパートです。

現在の経費の大半は、顧客提案や対話に費やされていますが、顧客との対話をAIチャットボットに単なる置き換えるというよりも、CRM(顧客関係管理)の向上が期待できると理解しました。

例えば、売上高営業利益率50パーセントを叩き出しているキーエンス社の強みと言えば、圧倒的な営業力が有名です。もちろん営業担当者が高い営業力が鍛えられる環境ということもありながら、これだけ高い営業力を維持できるカラクリは、営業面での組織能力の高さがあると考えています。

元キーエンス営業担当者の話を聞いたことがありますが、とにかく営業先の全社での顧客情報管理を徹底しているそうです。

現場顧客が認識している課題、設備投資のタイミングなど、「顧客が求めるタイミングで、欲しいものを持っていく」というのが強みの源泉とのことで、生成AIが顧客業界の動向、課題、公表情報等から、顧客ニーズの仮説設定ツールに活用できれば、このあたりの事前調査や提案を効果的に行うことができます。

迅速なソフトウェア開発支援

銀行業務は、ITシステムと切って離せない関係にありますが、近年はレガシーシステム技術者の高齢化や、顧客の利便性向上に寄与するデジタルサービスをいかに早く世の中に出していけるか、が大きな課題になっています。

技術者の高齢化問題に対しては、ブラックボックス化・スパゲティーコードをメンテナンスしやすいものに置き換えていく必要があり、ソースコードから設計書をリバースエンジニアリングするところに生成AIの活用が期待できます。

世の中の反応を見ながらサービスを改善していくアジャイル型のサービス開発では、いかに短期間でサービスを修正していけるかが一つの大きな競争力のポイントになりますが、生成AIをソフトウェア開発に取り込むことで、Fail Fastのサイクルを短くして、多く試すことができます。

昨日も述べた通り、大きくチャレンジできる新サービスへの適用がAI活用人材の育成にも繋がりますから、システム開発の単なるコストカットではない効果が期待できます。

まとめ

今日は、銀行業界と生成AIの親和性と、代表的なユースケースを取り上げました。

個々のユースケースを場当たり的に理解するよりも、生成AIの得意技を理解したうえで、活用領域に対する段階的なロードマップを設計していくことが肝要かと考えています。

明日は、生成AI活用を検討していく中で論点となるであろう「それ、生成AIでなくてもよくね?」の話について、より広義な「デジタル化」検討のアプローチとして考えてみたいと思います。

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林 裕也@30代民間企業の育児マネージャー
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