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#354 生成AI時代における「AI人材不足問題」。私たちはどのように向き合っていくのか
いかがお過ごしでしょうか。林でございます。
これまで何度か取り上げてきた生成AIをテーマにした記事ですが、今日は「生成AI時代におけるAI人材不足問題」というテーマで整理してみます。
昨日もご紹介した通り、11月に企業向けの生成AIワークショップを企画・開催することになりまして、その準備のために政府・各社の公表資料にも目を通しています。
この1年間でも本当に多くの機関が生成AIに関するレポートを出しており、改めて注目度が高い分野であることを再認識するとともに、本日取り上げる「AI人材不足」の観点からは、今後求められるスキルセットが大きく変化しつつあることをより強く感じるようになりました。
政府を中心に色々と対策は検討されつつあるものの、企業活動としても競争力により直結してくる部分なので追いついていく必要があるし、個人のキャリア戦略の観点でも、この変化をキャッチして構えておくことは重要だなと。
今日も、各種レポートを見ながら、「AI人材不足」の概観と求められるスキル、私たちはどのような対応をしていくのが良いのか、考えていきたいと思います。
AI人材不足の概観
まず、大和総研が2024年7月に公表している「不足するAI人材の育成は間に合うのか」のレポートを見ていきます。
経済産業省が2019年に公表した調査によると、2030年に最大12.4万人のAI人材不足が指摘されています。AI人材は「AI研究者、AI開発者、AI事業開発者、AI利用者」の4分類に分けた時のAI利用者以外を指しており、単にAIを使う側ではなく、AIモデルの研究開発、システムへの実装、AIを活用したサービス・製品の企画販売を行う人たちのことです。
ただし、この数字は、2022年11月にOpenAIがChatGPTを公開した以前のものですから、現在はより需要側が増えているはずです。
企業の人材育成
AI人材不足に対するアプローチとして、当然企業側も人材育成に力を入れる必要があるわけですが、企業による従業員へのリスキリング支援の取組は、日本は米国より進んでいないことが分かっています。
下図の通り、2022年度における「企業による従業員へのリスキリング支援の取組の米国比較」では、米国の96.7%が従業員に対して何らかの支援を行なっていると回答したのに対し、日本では56.1%にとどまっています。
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https://www.dir.co.jp/report/research/economics/japan/20240711_024496.pdf
これは、生成AIに限らず、先端技術に対する企業の取り組みの温度差が表れているとも言えます。
AI開発力で海外企業に遅れを取っていることが指摘されていますが、要因の一つとして、そもそも企業のAI利活用が進んでいないことが挙げられます。
米国では、7割を超える企業がAIを導入済、または実証実験段階にあると回答しているのに対して、日本は4割弱に留まっています。日本における社会人のリスキリングは企業主体で行われることが多いですが、AI利活用に消極的な企業も多く、従業員教育が十分に進んでいません。
個人のスキルアップ
視点を個人に移すと、「従来型IT人材」の約4割は「先端技術・領域の学習や仕事がしたい」という「先端IT人材」への転換志向を持っています。一方で、その中で実際に新たなスキルの獲得を行った人材は3割程度に過ぎません。
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その理由として言及されているのが、「学ぶ対象や目的が不明確になりがち」という指摘。大人なんだから、そのあたりも含めて自分で組み立てるべきでは?という気持ちも若干ありつつ、せっかく学んでも、実務の中で活かせる機会がないと続かない、という事情も理解できます。リスキリングだなんだと言っても、実務経験によるスキルアップが、結局一番学びも大きいでしょう。
新規領域に生成AI活用を持ってくる
下図のとおり、情報処理推進機構(IPA)が公表している「DX白書2023」によると、米国におけるAI導入目的が「新サービスや新製品の創出」に主軸が置かれているのに対し、国内企業では「品質向上」、「ヒューマンエラー低減」、「生産性向上」といった、既存ビジネス延長での業務効率化や品質向上に主眼が置かれています。
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https://www.ipa.go.jp/publish/wp-dx/gmcbt8000000botk-att/000108048.pdf
昨日解説した「金融機関における生成AI活用領域」においても、「生産性向上、コストカット」が圧倒的に大きな割合を占めていたわけですが、既存サービスを維持する前提での導入となるため、なかなか利活用領域で思い切ったことが出来ず、結果として実務での利活用機会も制限されてしまいます。
多くの金融機関が生成AIの活用を前向きに捉えている一方で、日常業務への取り込みや、新規ビジネスへの取り込みが停滞気味なのは、「生成AIが堂々と間違うハルシネーションのリスク」や「情報漏洩リスク」があるなんて言われてしまい、どうしても既存ビジネスへの影響を懸念して躊躇してしまう面があると考えます。
だから、生成AIの利活用を考える時に、よく取り上げられる「(既存業務の)効率化」や「コストカット」という思考の枠をいかに外せるか、が鍵になってくるのかなと。
AI活用を日常的に考える機会作り
経済産業省が2024年6月に公表した「生成AI時代のDX推進に必要な人材・スキルの考え方 2024」では、「目的志向のアプローチを徹底すること」が強調されています。
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/digital_jinzai/20240628_report.html
簡単に言えば、そもそも多少は間違ってもいい仕事に適用するという考え方です。
生成AIに100点の答えを求めようとするアプローチではなく、あくまで確率的に概ね合っていればいい仕事に適用すると割り切る。答えを出すところはあくまで人間中心で行い、問いを深めるために利用するものであるとの視点を持つことが重要です。
ソフトバンクでは、「生成AI活用コンテスト」が毎月開催され、出てきたアイデアは累計11万件以上に上るそうです。これくらい日常的に考える機会を設計し、そこにインセンティブを持たせないと、冒頭述べたような「AI事業開発者」すら育ってこないと思います。
また、「AI事業開発者」育成の面では、自社だけでやってても限界があります。
経産省のレポートでは、「体験、ビジネス、技術」の観点から、こんなことができるのでは?これをやれば新しい価値が生まれるのでは?と考え、すぐに実験してしまうメンバーが中核にいると、生成AI活用事業の構想は圧倒的に速くなる」とありますが、現実的にはこんなスーパーマンはなかなかいませんよね。
だから、「利用者」の専門家、「ビジネス化」の専門家、「技術(実装)」の専門家がチームとなって、会話量を増やすための仕掛けが必要だと考えています。
11月にチャレンジする企業向け企画も、そのような場の必要性を感じて開催するものです。
単発ではなく持続的なものにしないと目的が果たせないので、このあたりを特に意識して取り組んでいこうと思います。
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