#186 心のエンジンを駆動する目標設定とは
いかがお過ごしでしょうか。林でございます。
先日、職場の2024年度キックオフに出ていて感じたことから、目標設定に関する気付きについて話したいと思います。
2024年度に入り、皆さんの職場でも今年度キックオフが一通り終わるくらいの時期ではないでしょうか。
私は社員数が海外も入れると10万人を超える大企業に勤務しているため、複数のキックオフに参加することが常です。
全社キックオフ、ビジネスドメイン毎のキックオフ、事業本部キックオフ、事業部キックオフ・・・という感じです。
また、管理職の役割として、配下のメンバーの24年度の目標設定を一緒に立てたり、また自分も今年度目標を立てて、上司と面談する時間もありました。
そのため、組織レベル・個人レベルそれぞれでの目標設定を見てきましたが、特に組織レベルの目標設定においては「人の心を駆動するようなワクワクする目標設定」と「一緒にこのチームで今年度も頑張っていきたい!とはあまり思えない目標設定」があることに気付きました。
もちろん、キックオフに参加して、どの部分が刺さるか・共感するか、は人それぞれだと思います。ただ、自身も自分のチームを持つマネージャーとして、メッセージの伝え方、目標の打ち出し方次第で、メンバーのワクワク度が結構変わるぞ・・というのが重要な気付きでしたので、「心を惹きつけてやまないワクワクする目標設定」と「あまり惹かれない目標設定」の違いについて考察します。
「業績目標」と「行動目標」のバランス
私が皆さんにおすすめしたいのは、キックオフのような場で今年度目標が上位から示された時に、「業績目標」と「行動目標」のバランスを冷静に分析してみることです。
業績目標(売上・利益)は当然大事
民間企業の場合、売上や利益といった「量」の成長が当然求められるため、「業績目標」がメインになる面は一定あると思います。
私も20代の時はよく理解できていなかったのですが、毎年会社の事業戦略室から、昨年よりも高い売上目標、利益目標が現場に提示されてきて、それをひたすらクリアしていくことに疑問を感じていました。
「前年度もかなり苦労して何とか売上目標、利益目標を達成したのに、今年度はさらに高い目標なんて無理ではないか?」と。
その後理解していったのは、「自社の成長」というのは常に相対的なものであり、あくまで市場全体の成長の中で自社はどうなのか?という観点です。
日本が「失われた30年」と言われるのも、別に30年間ひたすら劣化していたわけではなく、むしろ30年前と比べて便利になった面も多いと感じます。
ただ、ここで重要な観点は、世界全体の成長率と比べた時の日本の成長率なんですね。
周囲の国が毎年5%程度の成長率の中、日本が1%程度の成長率に留まっていれば、相対的に成長率が鈍化していることになる。
こちらは、外務省が先月公表した「主要経済指標」からの抜粋ですが、例えばIMFの見立てによれば2024年、2025年の日本の成長率はそれぞれ0.9%、1.0%なのに対して、米国では2.7%、1.9%、中国は4.6%、4.1%、新興・途上アジアでは5.2%、4.9%に至っています。
世界全体としては成長拡大し続けているため、自国として成長をしていたとしても他国の成長率よりも低ければ、相対的に成長率が低いということになる構造です。
業界全体の成長率に対する自社の成長率も同じで、現場に落ちてくる売上目標は、大抵業界全体のCAGR(年平均成長率)を勘案し、そこにチャレンジ目標が加担されています。
だから、前年度も頑張ったんだから前年度通りで良い、としてしまうと、マーケットの中では相対的にポジションを落としていくことになってしまうのです。
マーケットの中でポジションを落とすということは、これまで自社の売上または利益に貢献してくれていた顧客の売上が縮小または他社に移転してしまうということです。そうなると基本的には利益も下がり、利益が下がれば投資ができなくなりますから、人の成長に対する投資もできなくなる。
ここが「成長なくして投資なし!」と言われる所以です。「成長か分配か?」の議論も、成長がなければ当然分配のための原資を確保できませんから、まずは成長が前提なのです。
だから、しっかり人財に投資を回していくためにも、利益を出すことは必要で、利益を出すための「業務目標」とそれをいかにして達成していくかの戦略の提示は、当然示されるべき話です。
「業績目標」だけになっていないか?
しかし、注意すべきは、「業績目標」の提示の部分にかなりのウェイトが置かれていないか?という点です。
「業績目標があれば、私はワクワクしてくるのだ!」という人もいるとは思いますが、それだけで「ぜひ自分もこのチームの目標達成のために貢献したい!」と思えない人の方が多いのではないでしょうか。
実際に、私も参加して「つまらないな」と感じたキックオフでは、業務目標と戦略の説明に終始留まっていて、「この事業を通じて自分たちは社会にこのような貢献をしている」とか「この事業を通じて自分たちはこういう成長ができる」みたいな話がスッポリ抜け落ちていました。
何のために利益を作るのか。もちろん、株式会社であれば株主への配当という形での投資のリターンは大切ですが、上述したように「人材への投資」の観点は欠かせません。
「人材に投資できる組織」には、当然いい人材も集まってきますし、いい人材が集まるから、事業自体も良くすることができて、更なる利益を生み出し、より多くの人材への投資に回す・・という好循環を作れます。
それにはやはり「組織の行動目標」が「各個人の行動目標」に繋がること、つまり「自分ごとにできる行動目標」の提示が大切になってきます。
組織のリーダーは、人の心のエンジンを駆動するビジョンをいかに打ち出せるか。
過去記事でも述べている通り、リーダーは自分たちの活動に「意味」と「意義」を与えることが肝要です。
ピーチアビエーションのビジョン
格安航空会社のピーチアビエーションを立ち上げた井上慎一さん(現ANA社長)は、ピーチ設立の理由を「戦争をなくすため」と話しています。
格安航空で値段がどんどん下がれば、アジアの若い人たちがどんどん海外に行けるようになる。そうすると、それぞれの国に素晴らしい人や文化があることを知り、世界中に友達ができるようになる。海外に友達がたくさんいると戦争にならないから、世界平和に必ず貢献する、という話です。
井上さんは、もともとANAで「うちも格安航空会社をやることになったから、お前が社長をやれ」と言われた時に「ふざけるな!安いだけのエアラインなんて、従業員が大変になるし、給料も下げないといけないのでやる意味ない」と猛反発したそうです。
しかしそれでも何度も「やってくれ」と説得される中で、「自分がこの会社でやる意味は何か」を一生懸命考え、「若者の交流を促して世界平和の実現に貢献する」ということが浮かんだ瞬間に、本気でやりたい事業に変わり「むしろやらせてください」となったとのこと。
おそらく、このビジョンに共感してピーチで勤務されている人も多いのだと推察します。それくらい事業の「意味」に着目した行動目標は、人の心のエンジンを駆動する力を秘めているのです。
それでは、今日もよい1日をお過ごしください。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました!