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#357 人的供給制約はどの程度進むのか?「労働市場の未来推計2035」から労働需給のギャップを見る

いかがお過ごしでしょうか。林でございます。

あらゆる業界で「人的供給制約」の問題が顕在化しており、特に地方部では「従業員が提供可能なオペレーションの制限から、温泉宿の稼働率をあえて100%にしない」みたいな話も出てきました。
タクシー業界の人手不足や「物流2024年問題」など、あらゆる業界で供給側の制約による対応が求められています。

日本全体で「人手不足」が深刻化しつつあるのは何となく実感する場面が増えてきたけど、実際のところどれくらいの予測なの?ということが気になっていた矢先、パーソル総合研究所さんが約2週間前の2024年10月17日に「労働市場の未来予測2035」を公表していました。
前回の調査は、同社が2018年に行った「労働市場の未来予測2030」ということで、6年ぶりのアップデートです。

今日は、こちらの公表資料を見ながら、労働需給のギャップはこの先10年でどのように変わっていくと予想されているのか、そして私たちはどのような対応が求められるのか、について考えていきたいと思います。


2035年の労働力不足の見通し

まず、全体の概観となりますが、2035年時点の国内全体の「労働需要」は、1日あたり34,697万時間(=7,505万人相当)になるのに対し、「労働供給」側は、1日あたり32,922時間(=7,122万人相当)で、労働力は1日あたり1,775万時間(=384万人分)不足するとの推計結果となっています。

出所:パーソル総合研究所「労働市場の未来予測 2035」

この不足感は、2023年と比較すると1.85倍深刻になるということで、現状でも人が足りていないと困っている状況が、現状の約2倍近い深刻さになるということです。なお、労働需要は、企業の就業者数だけでなく、人材を確保できていない求人の数も含めており、労働供給側の数字には、外国人就業者も加味した数字になっているとのことです。

2023年実績と比べて、全体の就業者数は400万人程度増加の予測です。これは、今後の国の様々な施策や経済状況から、シニア層、女性、外国人の労働参加が増えることを根拠にしています。
一方で、働き方改革の効果により就業者1人あたりの年間労働時間は2023年比で163時間減少し1,687時間程度になる予測で、「就業者数 × 労働時間」のトータルで見ると2023年実績比で供給側は約40億時間減少となっています。

2035年の労働市場の見通し

個別パラメータの予測

性年代別労働力率

上述の通り労働参加率は2023年か2035年にかけて上昇していく予測となっており、特に女性の労働力率の上昇幅は大きいです。

2023年実績においても、20代後半から50代前半にかけて80%以上が働いており、60代後半で43.7%と半分を下回る数字となっていますが、これから10年後には60代後半であっても69.8%と7割近い人が何らかの仕事をしているという予測となっています。男性も、60代後半においても労働率は76.0%ということで、現状は60歳で定年を迎え、再雇用のような形で65歳まで仕事をし、そこでリタイアという方も少なくないですが、リタイアのタイミングが70歳くらいになるのが普通な感覚になる未来がほぼ確実にやってくるという予測になっています。

だからこそ、我々現役世代は、キャリアを中長期で捉えて構えておくことが大事で、50歳を超えたとてまだ先20年近くありますから、学び続けて職能を磨き続けるのが大切ですね。常識なんてすぐに塗り変わると思っていて、私が20代後半の2010年代中盤〜後半にかけても「30過ぎると転職は厳しい」なんて言われて、自分の会社でのキャリアアップを目指すか転職するかと悩んだ日もありました。しかし最近では30代どころか、40代に入ってからの転職も全く珍しくないですから、自分たちの時代では70歳を超えても仕事をしている可能性も普通にありうる、との前提に立ってロングランを意識しておきたいところです。

名目賃金と実質賃金

もう一つ気になったパラメータは、名目賃金と、消費者物価指数に基づく物価変動影響を差し引いて求められる実質賃金の推移予測です。
下図の通り、名目賃金は2023年で1,917円から2035年では2,023円と106円プラスになっていますが、物価高に追いつかず、実質賃金は2023年から逆に106円マイナスの予測になっています。

これは結構真剣に向き合わなくてはならないと思っていて、マクロでの物価影響は個人レベルではなかなかどうしようもできない問題ですから、しっかり収入を増やすか生活コストを下げることを考えないと、普段の生活における可処分所得がさらに減っていくということですね。
人的労働制限により、企業側が提示する報酬は上がっていく傾向にはあるものの、それだけでオールオッケーにはならないわけです。

労働力不足への対応

本レポートでは、労働力不足に対する対応策として、「働きたいシニアの活用」や「年収の壁」緩和による「パートタイム就業者の活用」、「副業希望者の活用」などもあげていますが、個人的に注目したのは「教育訓練投資」と「生成AI活用」です。

なぜならば、シニア活用の労働力増加効果予測が593万時間/日、パートタイム活用が518万時間/日、副業活用が290万時間/日という効果予測なのに対して、「教育訓練投資」は853〜1,438万時間/日、「生成AI活用」は398〜2,450万時間/日ということで、労働者数を増やすアプローチよりも労働生産性向上のアプローチのほうが2〜6倍程度の効果が期待できるからです。

教育訓練投資

面白い試算だと思ったのは、「教育訓練(Off-JT)」投資による労働力増加の効果です。

厚生労働省の「能力開発基本調査」によると、企業が1年間で就業者1人にかけるOff-JT費用は2022年で1.5万円となっていますが、経済産業研究所が2018年に公表している研究結果によると、Off-JTは生産性向上に正の貢献をしており、収益率に換算すると、有形の資本設備と比べて高い収益率貢献となっています。

Off-JT投資が1%増加することによる労働生産性向上率は0.03%ということで、仮に企業が就業者1人にかけるOff-JT費用を2035年に年間2〜2.5万円になるように増やし続けた場合、2035年には853〜1,438万時間分の労働力増加が見込まれるということで、なかなか個別企業の中だけだと短期的には効果が分かりにくいOff-JTですが、人への無理ない投資増加がこれだけんインパクトをもたらす可能性があるわけです。

生成AI活用

本推計では、生成AIを活用しないシナリオにおいても、就業者一人が1時間働いた際の労働生産性は今後0.69〜1.05%で成長していく見込みですが、先日もご紹介したマッキンゼーのレポート(McKinsey & Company(2023)「生成 AI がもたらす 潜在的な経済効果」)によると、生成AI活用によりさらに上乗せで0.1〜0.6%向上のポテンシャルがあるとされています。

仮に、生成AIをうまく活用して、労働生産性向上率を最大まで引き上げられた場合、冒頭に触れた2035年時点で「1日あたり1,775万時間」供給が不足するとされている未来に対して「1日2,450万時間」を生み出すことができ、逆に需要を上回る労働供給量が達成できるのです。

これは楽観シナリオで、現実的にそう上手くはいかないと思いますが、生成AIにこれだけのポテンシャルがあるということは事実で、上手く使えば労働力不足に対する抜本的な解決策になり得ることは認識して利活用に取り組んでいくことが重要だと考えます。

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林 裕也@30代民間企業の育児マネージャー
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