#331 観光需要を地域に取り込むために大切な5つのこと
いかがお過ごしでしょうか。林でございます。
今月、3歳の息子を連れて2泊3日で参加した狂犬ツアー@長門湯本で学んだことが多すぎて、なかなか別のテーマに移れなくてすみません。笑
今日は、普段観光関連の仕事をしているわけでもない素人の私が、本ツアーに参加して、長門湯本温泉街の再生キーマンから直接話を聞いて理解した「観光需要を地域に取り込むために大切な5つのこと」というテーマでまとめていきます。
観光業というと、すでに一定の観光資源があり、観光地として地の理がある地域がさらに強力な観光コンテンツを準備して伸びていく、というイメージを持っていました。しかし、今後の消費者の旅行に対する嗜好性を考慮するとむしろ逆で、地元にいいものがあると感じながら、現在なかなか観光需要を取り込めていない地域のほうが「知る人ぞ知る」場所になり得る可能性が高く、ポテンシャルに溢れていると感じました。
以前、↓の記事で観光白書の内容を自分なりに理解しようとしたことがあって、その際は「1泊2日の国内観光を2泊3日に伸ばすこと」、「1客室あたり売上(=RevPAR)を大きくすること」の重要性は理解できたものの、より具体的なアプローチについて、イメージアップすることができていませんでした。
しかし、今回の長門湯本での経験を通じて、もう少し地に足着いた形で理解を深めることができたため、自分なりの言葉でまとめてみます。
1. 観光客数でなく、一人当たり観光消費額を大きくする
まずは、「とにかく沢山の人に来てもらう」という発想を捨てて、「一人当たり観光消費額を大きくすること」です。その時に、金額ベースでも成長率でも重要な消費カテゴリとなるのが、「宿泊費」です。
そのためには、単純に宿泊における価格を上げるだけではダメで、「いかに付加価値を高めていくか」という視点が重要。
上図の「観光白書(令和5年版)」によると、2019年の日本の付加価値率は、「観光産業(49.0%)」および「宿泊業(47.0%)」が「全産業(53.0%)」より低い水準にあり、国際比較で見ても低いことが分かっています。
一方で、イタリアやスペインでは、「観光産業」および「宿泊業」の付加価値率が全産業と比べても高い傾向にあり、「観光産業」や「宿泊業」そのものが付加価値が低くなりやすい産業ではなく、日本特有事情であることを理解すべきです。
また、今回の旅仲間で自らゲストハウスを運営されている方もおっしゃっていましたが、付加価値の高いサービスを提供していくには、優秀な人材獲得が必須で、それには、観光従事者報酬を上げないとどうにもならないとのことでした。
上図は、一人当たり雇用者報酬の国際比較を示したものですが、全産業に占める「観光産業」「宿泊業」の報酬額は、全産業の半分程度に留まっていることが分かっています。特に、海外インバウンドを取り込むならば、「円ベース」で価格を決めるのではなく「ドルベース」でのプライシングが必要。
一人当たり付加価値額を高めて、それを従業員報酬に反映させること。より具体的に単価を上げる時に重要なことについては、先日の記事で更に深掘りしてまとめてありますので、ぜひこちらもご覧ください!
2. はじめから行政と民間の連合チームで進める
長門湯本で学んだ最先端の「エリア滞在型観光の魅力形成」に必要なことは、各旅館や飲食店による「囲い込み型」の観光モデルではなく、「集積型」でエリアそのもののバリューアップを図るということです。
「集積」を実現するには、どうしても行政だけ・民間だけ、でできることには限界があります。行政が「観光客が複数のお店を徒歩で体験できる」ためのインフラ整備に投資し、民間が「徒歩で楽しめる個別の面白いお店を仕掛けていく」という両輪で進めていく必要があります。
そのためには、インフラ整備の段階で民間側のコンセプトを反映しないといけないし、インフラを整備した後、その土地でお店を持ったり、民設民営で自分たちで投資してエリアのバリューアップを図れる人が集まってくる必要があります。
だから、はじめから行政と民間の連合チームで進めることは必須。
しかも、自分のビジネスだけ上手くいけばいいと考える「囲い込み型」の人ではなく、「集積」という全体目線で物事を考えられて、一定の裁量権がある人と組まないと話が進みません。
通常は、ある一人の力強いリーダーシップで進められることが多いですが、長門湯本のようにドミノ倒し的に仲間が集まってくるパターンもあります。
「集積」型を実現するために具体的に必要なことは、先日の記事で深掘りしてるので、こちらもぜひご覧ください!
3. 公民連携チームでマスタープランを作る
長門湯本の場合、約3年でマスタープランが完成したとのことですが、まちづくりを進めていく過程で必ず方向性に迷いが生じることもあると思います。
そんな時に原点に戻れるプランがあることは大切。
有識者会議などは開催しつつも、マスタープランをほぼ行政側で作ってしまうことも多々あるようですが、いかに最初の段階から地元の民間側の有力者を参画させられるか、も重要だと感じます。
先日、組織へのコミットメントの度合いは、いかに「情報」を早く関係者に浸透できるか、というマネジメントの際の留意点をご紹介しましたが、まちづくりにおける協力者の巻き込みも同じ原理だと考えています。
一部の人で「色々決めているようだけど自分はあまり知らない」という人が出てきてしまうと、プラン自体には賛同できても、感情的に協力したくないと感じてしまうため、特に計画策定や企画構想の段階では、「一部の人で勝手に進めた」と受け入れられないように、少人数で意思決定してグッと進める部分と、丁寧に広く説明をしながら進める部分を両輪で進めて、全体構想を練り上げることが重要です。
4. 質が高いお店を、ある程度自分たちでセットアップする
3のマスタープランとセットで進めるべくは、「景観のガイドライン」です。
おそらく観光地に何があると良いのか?は、人によって大きく異なり、絵という分かりやすい形でイメージを共有し、「共感できる」観光のコンセプトを設計することが大切。
さらには、ただ絵を描くだけでなく、最初の数店舗のセットアップには、自分たちが描きたい「集積型」のまちのイメージに合うお店をセットアップすることで、他の観光地には「ご当地○○ちゃん」があるから・・とマネではない「質を維持した」空間を維持することができます。
先日、下北沢でも感じましたが、エリアにどのような店が集まっているかって本当に大切。「集積によるエリアのバリューアップ」の観点では、「多くのお店に来てもらう」ことよりも「質の高いお店に来てもらう」ことの方がはるかに重要です。
5. 「現在の横」ではなく「自分たちの過去」に目を向ける
自分たちには、他にあるような魅力的な観光資源がない!と考える地域ほど、「現在の横」、つまり「いま、他の地域がやっていること」に目を向けて成功事例を探しがちです。
しかし、単なる他地域の成功事例のマネごとでは、決して上手くいかないのは、上述した有料記事でご紹介している通りです。
真に必要なアプローチは、「自分たちの過去に目を向ける」こと。
現在と未来だけを見ていても、自分たちの強さは分からないものです。
地域の過去に目を向けて、長い時間軸の中で「ここではないとダメな理屈」を見つけ出すことが大切。時間の蓄積は、他が一番真似できない唯一無二の強みです。
日本は特に、「地域の歴史は面白くないもの」というイメージが強すぎるように感じます。しかし、それは学校教育の中で地域歴史教育をあまり重視していないことがルーツにあると考えています。
だから、「地域の歴史を面白く語れる人」であったり、自分たちの地域の歴史を振り返って共有し合うような取り組みを通じて、奥行きを持って自分たちの地域を見ることで、「ここでないとダメ」な替えの効かない良さが見えてきて、それを知るためにわざわざそこを訪問する人が出てくるのです。