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テクノロジーからの課題提起:三体II 黒暗森林/劉慈欣

コロナ禍により、フルフル在宅勤務になってしまった僕には、なんとも爽快でした。

 前作で垣間見えたものの、予想を上回るスケールで展開していく物語。中国の歴史観を下敷きにSFを書いたらこうなるのかと、時間軸の長さにも納得をしました。
 智子の監視によるテクノロジーのサチュレーションという巧みな状況設定が持ち込まれたこともそれを可能にした一因だとは思いますが、普段あまりSFに馴染みのない僕としては、SFのビジョナリーな側面と、併せて科学的論理的に整合を取ろうとする全体設計を見た気がしました。ここのところSFのビジネス展開が嘘のような本当の話として紹介されていることにも納得がいったところです。アブダクティブに発想を飛ばして、ロジカルに検証、裏付け、構造化する。ビジネスに求められる思考力とも同じですよね。

 図らずも今の環境を地としてみたときに、課題提起的な視点があったことも興味深かったです。宇宙に進出した人類のありようをどう考えるか。作中では宇宙で生まれた、いわば無重力ネイティブな人類(から生まれた生命体)はすらっと背が高く、顔も間延びした、地上ネイティブの人類とは少し異なるフォーマットを持ったものとして描かれます。
 また、かくかくしかじかで深宇宙に出て行った艦隊が生存のために他の艦隊を駆逐するという選択をしたとき、あまりの悲惨さから既存文明から、あれは異なる文明なのだと位置付けられます。
 イーロンは人類のセーフティーネットとして火星移住をビジョンとして持っています。火星で人類がサステナブルに生き続けるには110名の人間を送り込む必要があるとの生々しい研究まで出てきました。では、果たして、生存することを目的として、全くかけ離れた環境に置かれたとき、全くかけ離れた倫理判断に迫られたとき、それは人類と言えるのだろうか?文明と言えるのだろうか?それは何かを守ったことになり得るのだろうか?そんな課題提起を感じました。
 僕としては、知的生命体としての人類が生き延びることだけに意味を見出せるとは思えない。知的に築いてきた人間としての倫理を。豊かな自然と、生存すること以上の余剰を産んだ経済を背景に培われてきた文化を。これらを伴ってこそ、この宇宙で生存する価値があるのではないかと思いたいです。知は尊い、他にもないのかもしれない(三体の解としては、腐るほどある、という仮説=黒暗森林ですが…)。それでも何を保存することに価値があるのか、それをこそロジカルに、排他的にではなく、生っぽい人間として判断する必要があるのだと思います。

 もうひとつ。SFとして、物語をどう解決するか。インセプションと海獣の子供は愛で解きました。愛がつなぐ多次元世界、愛で駆動するマハーバーラタの創世神話。これらも好きです。普遍的な人間としての愛、なんとも感動的です。三体は違う軸でした。智子に理解不能な人間の頭の中、面壁者の頭に委ねる。よくわかってないけど人間が抱えこんだ脳の、飛躍できるクリエイティビティで解決する。この軸も、愛の軸と同じように、もしくはそれ以上に強く共感できました。シンギュラリティ、AIに対する人間の存在意義、コロナを経たベーシックインカム、これらが社会システムや文明としての課題として叫ばれる今という時代性がリンクして、この問いが切実に感じます。

 三体IIIは既に中国語、英語では発刊済み。日本語版は来春〜秋発売とのこと。楽しみです。三体世界との本格的なインタラクションが描かれるのか?羅輯の生存にかかっている地球の運命は?系外に取り残された二つの変質してしまった文明の将来はどうなる?IIが最高傑作だとの声も目にしますが、次作も楽しみに待ちます。


そういえば、オラファー・エリアソンの光の屈折は引力の作用の結果にも見える。(掲載写真)

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