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「ニュース」と「ニュース風動画」の差は何か?徹底検証してみた話

どうでもいい日常をニュース番組風の紹介するYouTube動画が話題です。「新しい私服を購入した」「為替投資で65円儲かった」など…これがまた本当にくだらなくて、面白い。エンタメとして楽しむだけならそれでいいのですが、ふと、疑問に思いました。「これが本物のニュースになれない、決定的な違いは何なのか?」ーこんなことにマジメに取り組むこと自体が、すでにくだらないのですが笑、今回、徹底的に検証してみました。

そもそもニュースとは何か

どうでもいい日常を「ニュース番組風」な動画として投稿しているのは、サンミュージックプロダクション所属のお笑い芸人・わっきゃい(YouTubeX)さん。アナウンサー風の口調で、ツッコミどころ満載な内容を淡々と読み上げるギャップがなんとも言えず、見る人を楽しませてくれます。

どの動画も完全に「ニュース構文」となっており、映像表現も含めフォーマットはニュースそのもの。しかしなぜ、本物のニュースにはなり得ないのでしょうか。

まずは、そもそもニュースとは何か、チャットGPTに聞いてみました。

ニュース(報道・ジャーナリズム)の目的は多岐にわたります。以下にその主なものを一部リストアップします。

1. 情報の提供: 報道の最も基本的な目的は、人々に信頼性のある情報を提供することです。これには、政治、経済、社会、文化、スポーツなど、あらゆる分野の出来事と事実を伝えることが含まれます。

2. 啓蒙と教育: 報道は視聴者や読者に新たな知識や視点を提供し、社会的な課題や問題、科学的な発見などについて教育する役割も果たします。

3. デモクラシーの維持: 報道は政府や権力者の行動を監視し、公正に報じることで、社会全体の透明性と説明責任を保つ重要な役割を果たします。

4. 公衆の意見形成: 信頼性のある情報を提供することにより、報道は公衆が意見を形成し、個々の行動を決定する助けとなります。

5. 議論や対話の促進: 報道は、社会問題についての公の議論や対話を促進します。

6. 社会的な連帯の形成: 共有の情報を通じて、報道は社会全体の共感や連帯感を形成する役割を果たすことがあります。

7. エンターテイメント: ニュースは、時にはエンターテイメントとしても機能します。人々はスポーツの結果、セレブリティのゴシップ、ユーモラスな話題などに興味を持つかもしれません。

以上のように、ニュース(報道・ジャーナリズム)の目的は多岐にわたります。どの目的が最も重要かは、時代、地域、特定のメディアの指向などにより、さまざまに変化することもあります。

チャットGPTに「ニュース(報道・ジャーナリズム)の目的は何か」を聞いた回答

なるほど、「どの目的が重要かは時代などによってさまざまに変化する」というのがまた良いですね。昨今の情報社会において、そのニュースのあり方も見直されつつあるように思います(これについて詳しくは別の機会に)。

では、これらの「目的」をニュース風動画は本当に満たしていないのか。はたまた本物のニュースは、「目的」をしっかり満たしているのか。マジメに検証してみたいと思います。

検証1:「私服購入 ローテーション入り」(ニュース風)

ぼくの日常ニュース【2024.7】より
  1. (信頼性のある)情報の提供 : △

  2. 啓蒙と教育 : ×

  3. デモクラシーの維持 : ×

  4. 公衆の意見形成 : ×

  5. 議論や対話の促進 : △

  6. 社会的な連帯の形成 : ×

  7. エンターテイメント : ◎

    ▶︎勝手にニュース度<計5点 /21>

(寸評)服を買ったという事実や、街角で女性と出会った事実について、その真偽の確かめようがないことから「1.信頼性」には疑問。また社会やデモクラシーへの影響(3)は皆無で、社会的な連帯(6)にも寄与しない。一方で、会話のきっかけを与える可能性がある点(5議論や対話の促進)や、純粋なエンターテイメントとしての価値(7)は高評価。

検証2:「資産運用に目覚め 為替投資」(ニュース風)

ぼくの日常ニュース【2024.7】より
  1. (信頼性のある)情報の提供 : △

  2. 啓蒙と教育 : △

  3. デモクラシーの維持 : ×

  4. 公衆の意見形成 : ×

  5. 議論や対話の促進 : △

  6. 社会的な連帯の形成 : ×

  7. エンターテイメント : ◎

    ▶︎勝手にニュース度<計6点 /21>

(寸評)情報の真偽(1)について確かめようがないため減点。一方、「とある若年男性が為替投資で運用を始めた」という事実や、「最適化されたFXの投資スタイル」という表現は数年前までは一般的ではなかったということもあり、時代を写すニュースとしての価値(2)は一定の評価。その他会話のきっかけとしての価値(5)やエンターテイメントとしての価値(7)については検証1と同。

検証3:「最寄りまでの到達記録 大幅更新」(ニュース風)

ぼくの日常ニュース【2024.7】より
  1. (信頼性のある)情報の提供 : ×

  2. 啓蒙と教育 : △

  3. デモクラシーの維持 : ×

  4. 公衆の意見形成 : ×

  5. 議論や対話の促進 : △

  6. 社会的な連帯の形成 : ×

  7. エンターテイメント : ◎

    ▶︎勝手にニュース度<計5点 /21>

(寸評)「専門家は僕のスピードに対し『法律上原付扱いになり、歩道で移動してはいけないんじゃないか』」という部分は事実誤認があり、ニュース全体の信頼性に重大な疑念(1)。一方、「最高の事態を想定」「汗を流して満員電車に乗りながらレモンスカッシュを飲む様子はまるでCMのようでした」といった豊かな表現力について確かな評価を得た(2、5、7)。

検証4:「カナダのコンビニ大手から セブン&アイHDに買収提案」(ニュース)

セブン&アイHDに買収提案 カナダ・コンビニ大手「アリマンタシォン・クシュタール」から|TBS NEWS DIGより
  1. (信頼性のある)情報の提供 : ◎

  2. 啓蒙と教育 : ◎

  3. デモクラシーの維持 : △

  4. 公衆の意見形成 : ○

  5. 議論や対話の促進 : ◎

  6. 社会的な連帯の形成 : ◎

  7. エンターテイメント : ×

    ▶︎勝手にニュース度<計15点 /21>

(寸評)「セブン&アイ・ホールディングスによりますと」という情報源の明示や、アリマンタシォンが展開する店舗数などのデータは、他者が裏どりすることが可能なため信頼性が高い(1)。また「海外企業による日本企業の買収としては最大級となる見通し」が述べられ、「社会的な課題や問題、科学的な発見」(2)や「社会問題についての公の議論や対話を促進」(5)などの項目で高評価。エンターテイメント性は皆無のため0ポイントとした。

検証5:「金爆 鬼龍院翔(40)子どもの誕生を報告」(ニュース)

金爆 鬼龍院翔(40) 子どもの誕生を報告 ファンからは「泣きそう」(2024年8月19日)[テレ朝news]より
  1. (信頼性のある)情報の提供 : ○

  2. 啓蒙と教育 : △

  3. デモクラシーの維持 : ×

  4. 公衆の意見形成 : △

  5. 議論や対話の促進 : ○

  6. 社会的な連帯の形成 : ○

  7. エンターテイメント : ○

    ▶︎勝手にニュース度<計10点 /21>

(寸評)「鬼龍院さんのX」を情報源としており、本人が嘘をついていない限りは概ね事実と認定(1)。「性別は将来のことを考えて公表しません」という当人のコメントに時代背景が垣間見え、「社会問題についての公の議論や対話を促進(5)」などはポジティブ評価。約30万人のフォロワーやファンクラブを持つ鬼龍院さんに関するニュースは、一定の社会性や公共性、エンターテイメントとしての価値をもたらしているものの、デモクラシー維持(3)や啓蒙や教育(2)への効果はやや薄いか。

【まとめ】ニュースは「一人のため」ではなく「社会のため」

結果をまとめると、下記のようになりました。

検証1:「私服購入 ローテーション入り」(ニュース風)<計5点 /21>
検証2:「資産運用に目覚め 為替投資」(ニュース風)<計6点 /21>
検証3:「最寄りまでの到達記録 更新」(ニュース風)<計5点 /21>
検証4:「セブン&アイHDに買収提案」(ニュース)<計15点 /21>
検証5:「鬼龍院さん子どもの誕生を報告」(ニュース)<計10点 /21>

3本の「ニュース風動画」が1ケタ得点だったのに対し、キー局が「ニュース」と認定しているものは、いずれも2ケタ得点(鬼龍院さんのニュースはギリギリ10点ということもあり、プロの中でも判断が分かれるところかもしれません)。また前者のような、主語が「ボク」のニュース風動画はエンターテインメント性は高い一方、どうしても「1.(信頼性のある)情報の提供」「3.デモクラシーの維持」「4.公衆の意見形成」などの項目で評価が得られませんでした。

当然と言えば当然ですが、ニュースかニュースでないかの見極めは、「一人のため」ではなく「社会のため」かどうかに尽きると言えます。

そういえば先日、こんな記事がありました。

メダリストばかりが過剰にもてはやされるのはどうだろう。最高峰の舞台での結果は3位以内でなくとも称賛に値するものも多いはず。私事ながら2009年のUTMB(ウルトラトレイル・デュ・モンブラン)で日本人初の表彰台となる3位に入った。実はその前年が4位。初のトップ5入りでゴール後は夢見心地だった。
にもかかわらず記者会見をはじめメディアの対応は3位の選手とは格段の差。さらに日本に帰国すると「あと少しで3位でしたね」と口々に言われたのがショックだった。死力を尽くした会心の4位なのに。「これ以上、何を望めるのだ」と、周囲の対応に憤慨した。

プロトレイルランナー・鏑木毅さんの寄稿

大変、示唆に富む指摘だと思いました。当事者にとっては「会心のビッグニュース」のはずが、ひとたびメディアの手にかかると「惜しかった話」になってしまう。これはまさに、「個人の視点」と「社会の視点」によって、物事の見え方が異なる最たる例と言えるのではないでしょうか。

そんなニュースの価値というのが、近ごろ非常に分かりづらくなっています。「個人」の主義主張が尊重され、自由を侵害する外圧は「敵」と見なされる時代です。先のプロトレイルランナー鏑木さんの寄稿を読んでも、「え、かわいそう」と同情し、「だからメディアはだめだよね」と蔑む人は少なくありません。では、メダル獲得というビッグニュースを、国の文化や誇りと結びつけるような「社会的な視点」は、ニュースとして価値がないのか、それともー?

少なくとも私は、どちらか一方の考えを押し付けたいわけではありません。ニュースの作り手も受け手も、エンターテイメント的な「個人の視点」と、そうではない「社会の視点」の適切なバランスを、足並みを揃えて考えていきたいですね。

さて、どうでもいい日常を「ニュース番組風」に紹介する動画をきっかけに、こんなにも深い洞察に至りました笑。わっきゃいさん、ありがとう!

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