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妻に3日間ひたすら「猫ミーム」を見続けてもらった話

このゴールデンウィーク、私たち夫婦は「猫ミーム」をひたすら見続けたらどうなるか?というクレイジーな実験に取り組みました。なぜ、そんな実験に貴重な休みを捧げることになったのか。そして、実験を通して得られた興味深いインサイトについて、レポートします。

大真面目に“猫ミーム実験”に取り組んだワケ

背景には、私がライフワークとして取り組んでいる、ある活動があります。

その活動の名は「情報的健康プロジェクト」というもの。

人は日々、多くのニュースや広告、エンタメといった、様々な「情報」に触れています。そんなあらゆる情報に触れる行為を「食」にたとえるアプローチで、情報社会における不健全性(≒不健康性?)を調査・研究し、社会的な仕組みづくりに向けたアクションを起こそうと発足したのが、この情報的健康プロジェクトです。

3月、慶應義塾大学三田キャンパスにて開催された「情報的健康」シンポジウム。私も登壇しました。

私は1年ほど前から、志願してこのプロジェクトに参加し、サラリーマン業の寸暇も惜まず、活動に取り組んでいます。

そんなある日、(いつものごとく)プロジェクトにまつわる話題を熱弁する私に、妻がこんな鋭い質問をぶつけました。

「たとえば猫ミームばかり見続けるのは、何が問題なの?」

私のリアクション(イメージ)※AI生成

・・・私は言葉に詰まりました。

それまで私が考えていた「情報的な不健康」のリスクは、うつになりやすくなるとか、陰謀論に染まりやすくなるとか、あるいは社会全体の分断を生む、などなど。

しかし、それらはどれも仮説に過ぎず、またどこか対岸の火事のような、他人事として語っていた自分に気づかされました。

同時に、猫ミームという極めて身近なコンテンツを通して、「情報的健康」という概念をもっと身近なものにできるのではないか…という可能性を感じました。

SNSで大流行中の猫ミーム

そこで。実験のテーマはずばり、「ジャンクフードならぬ、ジャンク情報 を食べ続けたら、人はどうなるか」。

実験の目的は、ジャンキーなコンテンツの代表格を「猫ミーム」と仮定し、それを継続して接種し続けることで、内面的な健康状態がどう変化するのかを突き止めること。

・・・そのような経緯から、今年のゴールデンウィークは家族総出で(貴重な休みを捧げるかたちでw)、この壮大な実験に、大真面目に取り組むことになったわけです。

ジャーナリズム畑の妻も興味津々で、喜んで実験に賛同してくれました。感謝。

※ちなみに私自身ではなく妻を被験者としたのは、私が仕事柄、新聞を毎日チェックしないと本業に支障が出るためです。決して亭主関白的な判断ではないということはお伝えしておきます(笑)

実験内容

妻はテレビ局の元記者で、新聞やニュースを毎日欠かさずチェックしています。

そんな妻を被験者として、下記の内容で実験をスタートしました。

【実験内容】
普段行う以下の情報収集をすべて、「猫ミーム」に置き換える

📰新聞/📕読書/📺ニュース/🌎SNS/📱検索

※さらに、実験前日に簡単な幸福度スコアやIQスコアを控えておき、実験後と比較することにしました。

■ 実験①日目の様子

  • はじめのうちは終始、楽しそうな様子😺

  • 一方、スマホの見過ぎで目の痛みや頭痛など「身体的な」不健康症状が…笑

  • はじめは複数のプラットフォームを行き来しながらコンテンツを探し求めていた
    →その後、TikTokやYoutube上でフィルターバブルな状況がつくりやすいことがわかり、行動が定着

  • 夕方には、スマホ立ち上げから動画視聴までの一連のアクションが習慣化され始める

実験中のスマホ画面

■ 実験②日目の様子

  • レコメンドされるコンテンツの変化
    →投稿主のフォローを促すものや、商品購入を迫るアフィリエイト、事実ではない著名人の逮捕等、フェイクニュースなどが表示されるように

  • 日をまたいでInstagramでもアルゴリズムに変化(おすすめに表示されるように)

  • 初日は「他のコンテンツも見たい」「ニュースに触れたい」という欲求が多少あったが、②日目になるとそれらへの興味関心の低下を感じると言う

  • 猫ミームでは、一般の人々の日常風景が、猫の映像により匿名化され、ライトに楽しめる内容となっている。そこで映し出される世界が、自分が置かれた状況とは異なるケースもあり、独特の不安感や自己肯定感の低下など、心理面へのネガティブな影響が表れ始める

■ 実験③日目の様子

  • 無力感、虚無感などネガティブ感情が高まり、見続けることへの苦痛と、しかしひとたびスマホを手に取ればつい動画を視聴し続けてしまうジレンマから、精神不安定状態がピークに

  • 一方で特段の「困りごと」がない日常に3日間染まったことで、他者への無関心度合いや、不寛容度合いが高まったように感じると言う

■ 実験終了後の様子

  • ニュースポータルサイトで、クリックして読みたい記事が以前より少なくなったそう(興味関心の低下?)

  • テレビのニュースで「GWの風景」が流れると、思わず「見たくない」という感情を覚える。以前は感じたことがないと言う
    →3日間、自分の求める情報だけをインプットし続けたことで、他者がGWをどう過ごしたか、に興味が全くわかず、自分のことしか考えられない状況に?

*幸福度スコア…実験前から2.3pointアップ(情緒の安定、楽観力、マイペース力などが急上昇した。一方で、成長意欲、創造力、挑戦力、信頼関係構築力、コミュニケーション能力が急下降)→この結果についての解釈は後ほど詳しくお伝えします
*IQスコア…微減

実験から見えてきた3つの示唆

実験による独特なストレスから、家庭内に不穏な空気が流れる一幕もありましたが…なんとか無事に、実験を終えることができました(笑)

被験者へのヒアリングと結果の分析から、私なりの感想を3つにまとめてみました。

①コンテンツの問題点
日常の風景に、猫の映像を重ねてストーリーが展開していく猫ミーム。被験者によると、中には風俗やホストクラブなど、夜の世界の体験記・ウラ話を、(猫エフェクトにより)匿名的に、かつライトに暴露でき、見る側もフランクに楽しめるようなフォーマットが存在するとのこと。若年層、特に多感な思春期への影響が懸念されます。

②ブラックボックスなアルゴリズムへの懸念
類似動画をいくつか見始めてしばらく経った頃から、次第に「フォローを促す系」や「商品購入を迫るアフィリエイト」「事実ではない著名人の逮捕動画」などが表示されるようになったと言います。プラットフォーム側が意図的に、ライトなコンテンツから徐々に過激に、"中毒状態へと誘う"導線を敷いている可能性も…。このあたりは研究の余地がありそうです。

③幸福度への影響
中毒症状にどっぷり浸かることで、「現状に不自由なし」という一種のwell-being状態に至りました。実際、被験者へのヒアリングや幸福度スコアの結果を見ても、明らかに実験前よりも、ある意味において幸福感が上がったと言えます。
(・・・猫ミームを見続けると幸福度が上がる?この結果への考察は下記パートにて詳しく書きます)

まとめ(結果からの考察)

結果を踏まえて、私なりの考察をまとめます。

まず、当初の目的であった「ジャンキーなコンテンツを接種し続けることで、内面的な健康状態がどう変化するか」について。

予想通りはあるものの、以下の流れで、精神的なダメージが進行しました。

初めはフラットな気持ちでコンテンツに向き合える健全な状態

しばらくすると、無意識的に、類似コンテンツばかりに触れる行動が定着
(習慣化)

アルゴリズムにより、レコメンドされるコンテンツがゆっくりと過激化。それ以外の刺激(味)の薄いコンテンツへの興味が低下し、次々と新たな刺激を追い求めるフィルターバブル状態に突入
(中毒化)

刺激性の強いコンテンツに耐性がつきはじめると、虚無感や無気力感などネガティブな感情に苛まれるように
(負のスパイラル)

そんなネガティブな変化の一方で、興味深いのはポジティブな変化です。

他者への興味関心が薄れ、自己中心的な世界へと突入していくと、逆説的に、現実世界へのストレスから解放され、一種の幸福感に包まれていきました。

そして、それまで日課だった「ニュースを見る」という行為すら苦痛に感じるなど、社会への興味を失い、社会との関わりを敬遠するような精神状態に至ります。

こうしたネガティブ面とポジティブ面のちぐはぐな結果は、なぜもたらされたのでしょうか?

私が考えるに、これは「2つのウェルビーイング」という観点にヒントがありそうです。

まず一つは、ポジティブな変化に見られたように、他者の侵害を受けず、自己の欲求が満たされていくというかたちのウェルビーイングです。「主観的ウェルビーイング」とも呼ばれます。

その一方、ネガティブな変化で見られたように、他人との関係や社会との繋がり、社会的役割や貢献を通じて感じる満足度が低下する結果となりました。これは「社会的ウェルビーイング」が失われた状態、と言えます。

今回、実験を通して得られた最も大きなインサイトは、これら2つのウェルビーイングのバランスが、非常に重要だということです。

なぜなら、たまにはゆっくり猫ミームを楽しむなど、適度な「主観的ウェルビーイング」がなければ、欲求が満たされず、幸福度が低下します。同時に、ニュースをみたり、多様な情報に触れるなどして「社会的ウェルビーイング」を健全にしなければ、孤独感や無力感などに苛まれ、自己肯定感の低下などに繋がります。

2つのウェルビーイングのバランスが重要

つまり、自分自身の内面的な幸福(=猫ミームなどジャンキーなコンテンツを食べることで得られる)と、周囲の人との関係や社会的な役割を通じた幸福(=ニュースなど多様な情報に触れることで得られる)、この両方を獲得することで、より全面的なウェルビーイングを追求することが可能になる、というわけです。

インターネットは、自分の見たいもの、知りたいものに自由に、いつでもアクセスできる大変便利なツールです。そのような性質から、特にSNSにおいては、主観的ウェルビーイングを追求しやすい。その一方で、無意識的に、社会的ウェルビーイングが損なわれがちだと言えます。

「情報的健康」の考え方は、猫ミームなどジャンキーなコンテンツはもちろん食べてよし。ただ、それだけだとちょっと心の元気がなくなってしまうので、適度にニュースを見たり、多様な情報に触れるのが大事だよね、というのが根底にある思想です。

まさにそれこそが、究極のウェルビーイングを実現するための、唯一にして最善の方法かもしれません。

おバカな実験を通して、そんな大切なインサイトが得られました。貴重なゴールデンウィークを、猫ミームに捧げた甲斐があったというものです。

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