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嫌われ者だが誇り高い?メディアの「営業」のシゴト

初めて出会った人に会社名(メディア名)を名乗ると、多くの人が目を輝かせて勝手に(?)「取材してもらえるの?!」と期待値を上げられます。しかし、「そこで営業やってます」と言った途端に相手のテンションは急降下し、「メディアの営業って…広告出してって言われるの?」と訝しがられることがほとんどです。そんな悲しい役回りではありますが、私はこの仕事に大きなやりがいを感じ、誇りを持って働いていました。あまり知られていない、「メディアの営業」のシゴトについて書きます。

私たちは何を売っているか

前提として、収支を求めない完全ボランティアなメディアというのは、世界中にほぼないと言っても良いでしょう。例外は、強権国家における国営メディアや社会主義国など一握り。公共放送であるNHKやイギリスのBBCでさえ、予算審議などの過程で収支バランスを取ることが求められます。

その前提を理解すれば、「メディアの営業」がどういう人たちなのか、何となく理解いただけるでしょうか。メディアの「支出」はもちろん記事や番組を作るために必要なコストの部分。それに必要な資金としての「収入」を集める人たちが、メディアにおける営業部門になります。NHKにも、主たる財源である「受信料」を集めるための、営業部門と呼べるチームが存在します。

では、そんなメディア企業の「営業」は、一体何を売ることで資金を集めているのでしょうか。ここではChat GPTの力を借りて、代表的なものをリストアップしてみました。

1. 広告:
メディア企業の最も一般的なビジネスモデルは、ウェブサイトやテレビ番組、ラジオ番組、雑誌、新聞などのメディアに広告を掲載または放映することで収益を得る方法です。

2. サブスクリプション:
一定の料金を定期的に支払うことで、コンテンツにアクセスできるようにするビジネスモデル。新聞や雑誌のデジタル版などがこれに該当します。

3. ライセンスフィー:
コンテンツを作成し、それを他のメディア企業にライセンス供与し利益を得るモデル。例としてディズニーやワーナーブラザーズが映画やTV番組を制作し、各国のテレビ局やストリーミングサービスに対してライセンス供与を行っています。

5. イベント制作・主催:
自社でイベントを企画・制作・主催し、その入場料やスポンサードフィーで収益を得るモデル。

6. 自社商品の販売:
自社でグッズや書籍、教材などを制作し、それを販売するモデル。または、自社メディアを活用してこれらを販売します。

この中で、大多数のメディアが収益の柱としているのが「1.広告」です。魅力的なコンテンツを提供することで多くの視聴者・読者やユーザーを獲得し、そこに「広告」を掲載することでマネタイズします。また「2.サブスクリプション」でわかりやすい例は「新聞代」です。月額料金を払うことで、毎日ポストに新聞が届けられ、一日のニュースを読むことができるサブスクモデルの先駆けです。近年はNewsPicksやダイヤモンド・オンラインなど、サブスク型のウェブメディアが業界で大きなトレンドにもなっています。

メディア営業あるある

「広告」や「サブスクリプション」を売ることで、重要な資金を集めてくるという大きな役割を担っているメディア営業のシゴト。ここでは、そんなメディアの営業パーソンにありがちな「あるあるエピソード」を紹介します。

-「記者じゃないのか」とがっかりされがち

冒頭でも少し触れましたが、これはメディア営業の悲しき宿命と言っても過言ではありません。「(誰もが知っている)あのメディアに勤めている社員」というだけで丁重に扱われることもありますが、「営業」と知れた途端にがっかりされることも多く、セルフイメージをどのように持てばいいか苦心する営業マンも少なくありません(かつて私自身もその1人でした)。

-クライアントから「社内営業」を求められがち

主にクライアント企業にとって、メディアの営業部門の人たちとお付き合いするメリットは「(誰もが知っている)あのメディアと繋がっている」という感覚値の部分が大きいのではないでしょうか(もちろんそうではないケースもありますが)。プレスリリースを送ったり、いざというときに取材してもらいたい、という依頼を受けることも日常茶飯事。お金をいただいている以上、そうした声も無下にできず、関係部署との社内交渉を強いられることも多々あります。

-「社内調整(≒社内営業)」で社内からも嫌われがち

営業マンとしてクライアント・ファーストになろうとすると、どうしても社内調整を迫られることが多いのがメディア営業ならではのポイント。さらに、メディアといえば何と言っても「情報発信」の会社ですので、「編集部」や「報道部」といった作り手チームが花形であり、営業部門の立場は弱いことが多い。結果的に、「たまに連絡が来たかと思えばお金の話ばかり」と言われ、社内からも疎まれる存在となります。

メディア営業が報われる瞬間は少ない

そもそもその仕事の成り立ちを考えると、メディアの営業の仕事はつくづく報われない仕事だと感じます。なぜなら、そもそも困っている人のために開発された売り物を売る発想(ニーズ起点)ではなく、企業としての強みや特徴から、「誰ならお金を払ってくれるだろうか」と考えて売りにいく発想(シーズ起点)だからです。

簡単に言えば、お金を出す人の方を向いている会社ではなく、視聴者や読者、ユーザーの方を向くべき会社だということです。広告を売るだけの会社に成り下がってはダメで、いかにそれと切り分けてビジネスを運営していくか、という一段ハードルの高い経営が求められます。サブスクリプションはお金を出す人とサービスを享受する人を同じ対象(購読者)にしようとする試みですが、今やサブスク市場のライバルはNetflixや月額制ジムなど多岐に渡るため、このモデルでメディアが成功するにはこれまたかなりハードルが高くなっています。

そうした事情もあり、広告主などメディアにお金を出す人に「費用対効果」を実感してもらうのは簡単ではありません。特にテレビCMや新聞広告などの広告営業は、単価は高い割に目に見えるような劇的な効果は得られないことも多く、お客さん(広告主)にリピーターになってもらいづらい。営業マンとして疎ましがられることはあっても、お客さんに「あなたがいてくれて本当に良かった」と感謝してもらえる機会などめったにありません。

果たしてそこにやりがいはあるのか

ここまで書いて少し悲しい気持ちになってしまうほど、いろんな人からガッカリされ、嫌われてしまう役回り。果たしてそこにやりがいなどあるのでしょうか。

これは私の個人的な考えですが、その答えは「メディアの資金調達を担うこと」へのやりがいに尽きるのではないかと思います。

自分たち営業チームが獲得した資金によって、制作部門が社会や必要とする人のためになる情報やコンテンツを発信してくれる喜び。資金調達を担うCFOのように影で会社を支える存在です。多かれ少なかれ、そのメディアのことが好きな人でないと、メディア営業は勤まらないのではないでしょうか。

そのメディアをいかに持続可能なものにするか、そして十分な制作体制を整え、潤沢な取材費を投下できるかどうかは、営業部門にかかっている。メディアの営業パーソンの中にはそんな自負を持って、この仕事に向き合っている人がいます。

結論:嫌われ者だが誇り高い(人もいる)

ただ、そんな崇高な意識をもって営業活動をしている人もいれば、そうではない人もいます。一般企業と同様、営業の絶対的な評価指標は「売り上げ」です。我らがメディアのために!社会のために!…と思っていようがいまいが、結局のところ売り上げがすべてだと言えばそれまでです。メディア営業の世界でも、売り上げ至上主義でゴリゴリ営業するタイプもたくさんいます。

私の場合は幸運にも、人生で初めて営業部門に配属される前に、報道記者をやる機会に恵まれました。報道という制作部門をやり込んだからこそ見えてきた「一般企業の営業と、メディアの営業はまったく異なる」というプライドを持つことができましたし、そのおかげでメディアの営業パーソンとしてやりがいを感じながら、成果にコミットする経験も得ることができました。

いずれにしても、営業が元気なメディアは、万全な制作体制を整えたり、潤沢な取材費を投下できるということをお伝えできればと、このnoteを書くことにしました。普段はなかなか光のあたることのないメディアの営業のシゴトですが、これを機にイメージが少しでも良くなれば嬉しく思います。

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