言葉にならない声とも呼べない音(ため息)が出た作家さん
本を読むことが習慣になって久しくなるが、特定の好きだと言える作家さんは長いこといなかった。
そんな時、出会ってしまった。
コロナの自粛が始まった当初の2020年。
仕事がお休みになって時間ができたのでこれは本を読むしかないと思い、Instagramやいろいろなレビューを見て、気になる本を何冊か買い込んだ。
その中の一冊に、白地にタイトルと著者名と出版社名だけが書かれたシンプルな表紙の、堀江敏幸さん著「その姿の消し方」があった。
私は本屋さんで本を探す時に、まずはたくさんの本の中からタイトルに惹かれたものを手に取り、あらすじを読んで購入することが多いのだが、
「その姿の消し方」というタイトルは私の好みのど真ん中であったので、あらすじを確認することもなく一瞬で購入を決めていた。
内容を読まなくても絶対満足するという謎の確信があった。
読んでみるとそのストーリーはもちろんのこと、書かれている文章の美しさに言葉を失うほどの感動を覚えた。
風景や情景がこんな言葉で表現することが出来るのかと、ただただその美しさをもっと味わいたくなって思わず声を発しながら読むと、音の響きさえも計算されたかのようにの美しい。
その瞬間、ハ行全て使ったため息が出るほどに堀江さんの虜になってしまった。
切り取るすべもなく美しい言葉たちが鏤められていて、全てが収まるべき場所に理想的に収まり、ひとまとまりになっている。
堀江さんの作品にそんな印象を抱いた。
その後買った河岸忘日抄は、コロナの自粛期間中でどうにもこうにも動けず、ためらいの最中にいた私自身と重なって、
文章を味わうだけでなく、まさしく主人公の気持ちになって読んでいた。
以下にあらすじを載せておきます。
上がった熱が抑えきれず、代官山の蔦屋書店で堀江さんの本を一気に8冊ほど購入し、毎日読み耽っていた。
堀江さんの本は、主人公が目についたものや聞いたことなど、あらゆる出来事から連想をはじめて、頭の中でどこか遠くまで旅をし、そして“今”に戻ってくるというシーンがよく描かれている。
その連想をする人物だったり、作品や事柄が、知らないことばかりだったので、一つ一つを調べると読んでいて時間はかかるのだが、自分の世界が広がっていくことが楽しかった。
「郊外へ」という作品を読んだ後に、作品に出てくるローベル・ドワノーという写真家の写真展が開催されているのをたまたま知って見に行ったことがある。
こうやって自分の新たな扉が開かれていくことも嬉しい。
堀江さんの作品は、もちろん作品によっても表情を変えるが、どこまでも美しいことは変わらず、一文一文味わうように読むたびに多幸感が湧いてくる。
この気持ちを誰かと共有したくなって、堀江さんの本を読んだ人の感想をInstagramで読み、同じような思いを抱いている人に共感してまた味わい直すと言う楽しみ方も見つけた。
“同じ本を読んだ”という事実が、名前も知らない誰かと気持ちを通わせるきっかけになるのは面白い。
堀江敏幸さんの作品はとても素敵な作品ばかりなので、美しい文章を味わいたい方はぜひ読んでみて欲しい。
そしてよければ感想も教えてください。